老化プロセスを遅らせる予防策、すなわちアンチエイジングは、予防医学にとって常に大きな課題。
蓄積された知見から、老化プロセスを遅らせて健康寿命を延ばすことは、単一の病気の治療よりも実質的に大きくQOLを改善し、医療費を削減する可能性があることが示唆されている。
また、老化スピードには個体差があり、老化プロセスを遅らせて慢性疾患リスクと負担を減らすには、人生の早い段階における予防が最も効果的であることがわかっている。
アンチエイジングの研究テーマにおいて、最適な水分補給が老化の進行を遅らせる可能性があるという仮説が存在する。
この仮説は、血清ナトリウムを5mmol/l増加させる終生水分制限により、マウスの寿命が6ヶ月短縮した過去のマウス研究に端を発している。この寿命の短縮は、慢性的に低水分状態に置かれたマウスの複数の臓器系における退行変性の促進を伴っていたという。
ヒトの場合、1日に摂取する水分量には大きなばらつきがあり、世界的な調査では推奨量を摂取していない低水分状態の人がかなりの割合で存在することが分かっている。
リンクのデータは、低水分補給が老化のスピードに影響するという仮説を検証するためにAtherosclerosis Risk in Communities (ARIC) 研究データを分析したもの。
現在進行中の人口ベースの前向きコホート研究で、1987年から1989年にかけて米国4地域から45-66歳の黒人(アフリカ系アメリカ人)と白人男女15,792名登録し、25年以上追跡調査を行ったもの。
研究参加者の水分補給習慣の代替として、水分摂取量が少ないと増加する血清ナトリウムを使用。高齢(70-90歳)まで生きたARIC研究参加者の評価では、中年の血清ナトリウムが正常基準範囲の上部にある人たちの間で多くの慢性疾患の有病率が上昇していた。
血清ナトリウムの正常高値および体水分不足などの他の指標が、心不全の独立した危険因子であることが同定された。
健康な人の血清ナトリウムの正常範囲は135〜146mmol/lとされているが、血清ナトリウムが142mmol/lを超える人は生物学的に高齢である確率が最大で50%高く、慢性疾患の発症リスクが39%上昇し、若年で死亡するリスクが高いことが示された。
・血清ナトリウムが正常範囲の上部にあることが老化を促進する危険因子であることを報告する。ARIC研究において、血清ナトリウムが142mmol/lを超えると生物学的に高齢になる確率が増加し、144mmol/lを超えると50%の確率で高くなることがわかった。
中年期(47-68歳)におけるこのようなBA上昇は、ナトリウム濃度が144mmol/l以上では早期死亡のリスクが約20%上昇し、慢性疾患発症リスクはナトリウム濃度140mmol/l以上で既に明らかになり、143-146mmol/l群では約40%上昇する。
・血清ナトリウム正常域の高値側での死亡率および慢性疾患リスク上昇に加え、ナトリウム正常域の低値側でもリスク上昇は明らかだった。これは、正常ナトリウムが低い(135-137mmol/l)地域住民の死亡率および心血管疾患(CVD)発生率の上昇に関する過去の報告と一致している。
・今回の結果は、血清ナトリウムの範囲が138-142mmol/lであれば、慢性疾患および/または早期死亡リスクが最も低いことを示唆している。
体内水分の減少はナトリウム濃度上昇の最も一般的な理由であり、血清ナトリウムが142mmol/lを超える人々にとって、常に最適な水分補給を維持することが老化プロセスを遅らせる可能性を示唆する。
・この研究結果は、最適な水分補給が疾患のない寿命を延ばすことができる全身的な予防アプローチになる可能性であるという仮説を支持している。血清ナトリウムやコペプチンを含む低水和バイオマーカーや低水分摂取が健康への悪影響や死亡リスク上昇と関連するという過去の疫学研究や介入研究の報告と一致する。
マウスモデルの研究では、水分制限が老化を加速する根本的なプロセスとして、血管内皮細胞の炎症および凝固促進性の変化、DNA損傷、タンパク質酸化、代謝リモデリングによるエネルギー消費の増加、細胞老化が含まれる。
まとめ
空腹時血清ナトリウムが142mmol/lを超える人は生物学的高齢になり、慢性疾患を発症し、若年で死亡するリスクが高まる。
水分補給の低下は血清ナトリウムを上昇させる主な要因の一つであり、水分補給の低下が老化を促進するという仮説と一致する。
しかし、この関係を証明するためには介入試験が必要。