日本ではあまり危機感を持って受け止められていない筋骨格系の問題のひとつに「骨折」がある。
様々な骨折の種類の中でも「脆弱性骨折」に起因する障害調整生存年(DALYs)は、ヨーロッパでは毎年200万人で、高血圧性心疾患に起因するものを上回っている。
特に股関節骨折の負担によるQOL低下の影響が大きいようだ。
骨折の危険因子での一つで、予防のためのターゲットである「栄養状態」のマネジメントは、骨の健康を維持する上で重要。
栄養と骨に関するエビデンスでは、主にカルシウムとビタミンDに焦点が当てられているが、それ以外にも多くのミネラルや食事成分が骨の健康に寄与している。
骨の健康に関与するミネラルの一つにマグネシウム(Mg)がある。
Mg不足は破骨細胞や骨芽細胞の数および活性の変化と関連していることが示されており、破骨細胞数はMg欠乏により有意に増加する。
これはMgの補充によって回復することも示されている。
一方で、Mgと骨折発生率の関連性今日まで不明。
Mgは骨密度増加と骨折発生率を低下させる傾向があることが示されているが、決定的な結論はでていない。
リンクのレビューとメタアナリシスは、血清Mgの骨折リスクへの影響を調査することを目的としたもの。
結果
低Mg濃度は、骨折リスクの有意な高さと関連する。
MgとビタミンD欠乏が同時に存在すると、脆弱性骨折のリスクが高まる可能性がある。
・合計119、755人が参加した4件の研究分析。
4研究はすべて質が高かった(Newcastle-Ottawa Scaleはすべて9)。
・血清Mg濃度が低いほど骨折リスクが高いという強い関係が観察された。
低マグネシウム血症は潜在的に修正可能な因子であり、骨折予防に役立つ可能性がある。
・特に男性において、血清Mg濃度低値による脊椎骨折、股関節、脊椎、手首の全骨折リスクが統計的に有意に高くなることが示唆された。
大腿骨骨折についてもリスクは有意に高かった。
・日本の透析患者治療を受けている患者113,6683人を対象とした分析の結果、血清Mgの四分位値が低い患者は、高い患者に比べ股関節骨折のリスクが1.23倍高く、血清Mgの四分位値と股関節骨折の発症リスクには用量反応関係があった。
これらの結果は男女ともに一貫していた。
血清Mgが1mg/dL増加するごとに、股関節骨折の発生リスクは14.3%減少した。
血清Mg濃度が股関節骨折の発生率に寄与する割合は13.7%で、血清カルシウム、血清リン酸、副甲状腺ホルモン(PTH)濃度の割合よりもかなり高い。
・メタ解析に含めた研究のうち2つが透析患者を対象として実施されたことを考慮すると、腎臓がMgの恒常性に果たす重要な役割と慢性腎臓病(CKD)に伴う合併症にMgが関与する可能性がある。
例えば、CKD患者の全死亡リスクおよび心血管死亡リスクの上昇は、従来の心血管リスク因子で調整した後でも持続しており、腎臓の他の特異的因子がこのリスクに寄与している可能性がある。
最近、血清Mg濃度の低さがこれらの要因の一つであることが示唆されている。
CKDの実験モデルにおいて食事性Mgを増加させると、CKD合併症としてよく知られている動脈石灰化の発生が減少することがわかっている。動脈石灰化は、CKD患者の心血管疾患(CVD)につながる重要な病態で、死亡率の強力な予測因子である。末期腎不全(ESRD)患者の約80〜90%に血管石灰化が認められる。
・骨代謝障害とCKD患者の血管石灰化の発生傾向は、深く関係しているようだ。骨形成の低下は、透析を受けていないCKD患者の冠状動脈石灰化と関連している。
Mgは培養平滑筋血管細胞および大動脈組織において、心臓リモデリングに寄与する酵素の阻害を介して石灰化を予防することが報告されている。
・メカニズム
Mgの破骨細胞および骨芽細胞活性の調節。骨芽細胞の移動にMgが関与することで骨折治癒に関連し、骨粗鬆症や筋骨格系損傷患者の骨形成過程に寄与する。
カルシウムなど骨の健康に必要な他の主要栄養素の調節。
ビタミンDとPTHの適切な機能に対するMgの最適レベルの重要性。Mgが不足するとカルシウムとリン酸代謝制御するビタミンDの効果が減弱する。ビタミンDはカルシウム代謝のみならず、腸管Mg吸収促進や腎臓Mg排泄防止などMg代謝に重要な役割を担っていることは特筆に値する
骨の質の低下や骨格の脆弱性と関連している炎症と低Mg状態の関連性。
結論
今回のメタ解析によるシステマティックレビューは、血清Mg濃度と骨折の発生リスクとの強い関連性を示唆している。