妊娠中のビタミンD欠乏に関するデータが定期的に発表されている。
パンデミック以降の生活様式の変化によるビタミンD(Vit D)欠乏は公衆衛生上の懸念事項として国際的に認識されるにいたり、科学者の間で注目のトピックになっている。
ビタミンD欠乏症は肥満など様々な疾患の発症に対する潜在的危険因子。
妊娠中や新生児におけるVit D欠乏に起因する小児期の体重超過は成人期まで続くことが多く、関連疾患のリスクを高めることが懸念されている。
また、いくつかの研究では妊娠中Vit D欠乏と早産や低体重児出産などの胎児の有害転帰との関連性が示され、心代謝性疾患などの後天的な疾患の発症との関連が指摘されている。
メカニズムはまだ十分に確立されていないものの、新生児の脂肪分解や脂肪新生に及ぼす役割などいくつかの生物学的メカニズムがビタミンDと乳児の成長や体脂肪率の関連を支持している。
さらに、Vit Dは代謝異常の重要な要素である脂肪組織の炎症の調節因子である。
また、ビタミンD受容体(VDR)遺伝子の多型は、脂肪の表現型や肥満と関連する。
しかし以上の知見があるにもにもかかわらず、妊娠中のVit D濃度と子供の成長および脂肪生成調節の関連性が小児期後半まで持続するかどうかを評価した研究はほとんどない。
リンクの研究は、妊娠初期から中期にかけての母親のVit D濃度が11歳までの子どものBMI、BMI軌道、過体重リスク、体脂肪量アップと関連するかどうかを調査したもの。
過去に報告されている因子(性別、母親の妊娠前のBMI、母親の喫煙)および多遺伝子リスクスコアを用いた子供の高BMIに対する遺伝的感受性による効果修飾も評価している。
2027組の母子ペアを対象にビタミンD3濃度を妊娠13週の血清で測定。7歳および11歳の時点で性・年齢別の体格指数zスコアを算出し、zスコア≧85パーセンタイルで過体重と定義し、11歳の時点で体脂肪量を測定。
出生から11歳までの肥満度Zスコア(zBMI)の軌跡を潜在クラス成長分析を用いて特定。
結果
ビタミンD3欠乏症(<20ng/mL)の有病率は17.5%で、約40%の子どもが両年齢で過体重だった。
ビタミンDレベルと転帰の関連は性別によって異なっていた。男児では母親のビタミンD3欠乏状態はより高いzBMI、より高い体脂肪量、より高い体重超過オッズおよび低出生児リスク増加、加速的BMI増加軌道と関連していた。
女児では、関連は認められなかった。
この結果は、妊娠初期のビタミンD3レベルが男児の小児期後期までの身体組成に及ぼす性特異的プログラミング効果を支持する。
Prenatal Vitamin D Levels Influence Growth and Body Composition until 11 Years in Boys
・このスペインで行われたこの前向きな人口ベースの出生コホート研究では、妊娠中の母親のビタミンDレベルが男児の体組成と関連することがわかった。具体的には、ビタミンD3が不足(20ng/mL未満)すると、十分なビタミンD3レベルに曝露した男児と比較してBMIzスコアが高く、体脂肪量の割合が高く、体重超過オッズが高いことが確認された。
・男児におけるこの関連性は、子どものBMIが高くなる遺伝的素因の影響を受けている可能性があった。
・ビタミンD3レベルとBMIz軌道との間に有意な関連は認められなかったが、男児ではビタミンD欠乏は出生サイズが小さく、BMI上昇軌道の加速的上昇と関連していた。
妊娠初期の母親のビタミンDレベルと子どもの体格
妊娠初期から中期にかけてビタミンD濃度を測定した先行研究でも、母親のビタミンDと子孫の体組成プロファイルとの関連性が報告されている。
特に妊娠初期から中期にかけての母親のVit D濃度低下は、1年後の新生児の体重過多の確率の上昇、5-6年後および11年後の体脂肪量割合の増加(ただし、喫煙者の母親においてのみ)と関連していることが分かっている。
げっ歯類を用いた最近の研究では、妊娠中のVit D欠乏が子孫の脂肪細胞および脂肪組織の代謝プログラミングに関与することが支持されている。ラットにおけるVit D欠乏は体重の増加、脂肪組織の割合の増加、グルコースと脂質代謝障害と関連し、肥満の表現型につながるエピジェネティックな変化を引き起こした。
マウスを用いた同様の研究では、Vit D欠乏はPPARγなどの脂肪生成促進遺伝子の発現量増加と関連していた。
性差
この研究では、Vit D欠乏の影響は男児にのみ存在した。
過去の研究では性差があるかどうかを評価したものは少なく、一貫性のない結果となっている。
研究結果の矛盾について明確なメカニズムは明らかになっていないが、一つの説明として胎盤におけるVit D代謝のテストステロン調節に依存している可能性が挙げられる。
テストステロンは、カルシトリオール(ビタミンDの活性代謝物)の合成や異化に関与する主要遺伝子発現に影響を与えることで、その合成を減少させたり異化を促進することが示唆されている。
体組成と同様に、Vit D濃度とBMIの推移との関連において男子と女子の間でいくつかの相違が観察された。妊娠中のVit D欠乏は、男児では出生サイズが低く、幼少期に成長が加速することを特徴とする軌道3と関連していた。女児ではこの軌道とは逆の関連が観察された。
出生時の低体重と成長軌跡の加速度的増加は、収縮期および拡張期血圧の上昇と関連することがINMAコホートで明らかになっている。
さらに、BMIの加速度的な上昇は後年の冠動脈イベントのリスク上昇と関連付けられている。
その他の潜在的な効果修飾因子
過去の研究は、妊娠中のビタミンD濃度と子孫の体組成との関連の修飾因子として妊娠前BMIと妊娠中の活発な喫煙を挙げている。