「転倒」は世界中で不慮の事故による死亡原因の第2位となっている。
転倒リスクの要因の1つには加齢が挙げられ、高齢者は転倒による死亡リスクが最も高い。
また、更年期に関連する骨密度や強度の低下によって骨折や転倒に関連した傷害の増加が深刻化するため、閉経後女性にとって転倒は大きな健康問題である。
加齢によるバランスと歩行の変化は、重要な転倒リスク要因として認識されている。
興味深いのは、更年期への移行期がバランスの悪化と関連しているというデータが存在し、エストロゲン治療によって閉経後の女性のバランス性能が向上することが報告されていることである。
更年期には腹腔内脂肪や体重の増加、加齢に伴う筋量・筋力の低下が加速し、Functional mobilityに影響を及ぼす。Functional mobilityは、転倒だけでなく、障害や依存を予防するための重要な要素となる。
リンクの研究は、更年期症状の影響が大きいほどスタビロメトリック・パラメータが悪化し、TUGテストの実施時間が長くなるという仮説のもとに、閉経後女性における更年期症状の影響と、姿勢バランスおよびFunctional mobilityとの間の関連性を明らかにすることを目的としたもの。
参加者171名(57.18±4.68歳)を対象に、更年期症状の重症度(Menopause Rating Scale)、目を開いた状態と閉じた状態での姿勢バランス(stabilometric platform)、Functional mobility(timed up and go test)を測定。
肥満度、ウエスト/ヒップ比、年齢、転倒歴を交絡因子として、多変量線形回帰を行った。
その結果、心理的な更年期症状の重症度が高いほど目を開けた状態と閉じた状態の両方で姿勢制御の悪化と関連することがわかった。
年齢が高いほど、目を開けているときと閉じているときの圧力中心の内側変位が大きくなった。
更年期症状の重さとFunctional mobilityとの間には関連性はなかった。
閉経後の中年女性において、心理的な更年期症状の重症度が高いほど、姿勢バランスの悪化と独立して関連していると結論。
Menopausal Symptoms, Postural Balance, and Functional Mobility in Middle-Aged Postmenopausal Women
・スペインの閉経後女性を対象に、更年期症状の重症度と姿勢制御および機能的可動性との関連を評価。
心理的な更年期症状は姿勢バランスの悪化と独立して関連していることが示唆された。
・更年期症状は女性の生活の質に大きく影響を与え、筋肉・関節の痛み,血管症状、睡眠障害をそれぞれ50%以上の女性が報告している。
・身体的および精神的な疲労は、高齢者の姿勢制御に影響を与える可能性があることが報告されている。
さらに、気分状態や不安感は、健常者のバランス制御の感覚および運動システムの変化と関連している。
この関連性は、感情をコントロールする脳領域と、姿勢やバランスをコントロールする脳領域との間の神経接続によって説明される可能性がある。
更年期症状の重さと姿勢制御との独立した関連性を分析したところ、心理的症状の影響が大きい場合、姿勢制御の悪化に関連することが示された。
これらの結果は、疲労、不安、抑うつが更年期評価尺度(MRS)の心理的領域に含まれていることから、これまでに述べた結果と一致している。
・更年期への移行期に女性は筋骨格系の痛みを経験する傾向があり、これは身体活動や運動能力の低下と関連している。
心理学的要因としては、不安ではなく抑うつが60歳以上の女性のFunctional mobilityの低下と関連していることが以前に報告されている。
・肥満は、60歳以上の高齢者における転倒の危険因子と考えられる。
最近では、代謝機能障害の有無にかかわらず、肥満はTUGを含むいくつかのテストで評価される身体能力低下リスクを高めることが明らかになっている。
BMIやWHRが高いと姿勢バランスが悪くなることが指摘されており、いくつかの脂肪性指標が姿勢バランスの低下と関連することが示されているが、その中でもウエスト周囲径が最も強い関連性を得ている。
・この研究の結果では、姿勢制御や機能的可動性とBMIやWHRのいずれとも関連性が見られなかった。これは、WHRとBMIの平均スコアが、それぞれ均一な体脂肪分布と過体重を示したためと考えられる。
・転倒歴は重要な転倒リスク要因とされている。
1回以上の転倒を経験した高齢者は再び転倒する可能性が高く、転倒スクリーニングには欠かせない。
さらに、転倒歴は再び転倒することへの恐怖と関連しており、これは日常生活動作の制限または回避、社会的接触の減少、生活の質の低下など、転倒以外の他のネガティブな結果と関連している。
エストロゲン治療も選択肢だが、トレーニングによる心理的改善効果と身体機能の改善を同時に手に入れられるという意味で、治療における第一選択肢はしっかりとメニューが練られたトレーニングではないだろうか?