女性の心血管疾患(CVD)リスクは閉経移行期に増加する。
閉経移行期の女性ではエストロゲンが減少すると同時に体脂肪分布、血中脂質、血管の健康状態が好ましくない方向に変化することがCVDリスク上昇に関与する。
したがって、閉経移行期はCVDリスクに対する介入戦略を実施するための重要な時期である。
エストロゲン様作用を有し、抗動脈硬化作用、抗酸化作用、抗炎症作用をもたらす安全で効果的な製剤の開発は高価な既存薬と副作用の観点から重要なテーマといえるだろう。
過去の研究ではアントシアニン(ACN)の摂取が抗炎症作用と抗酸化作用を示すことが示されており、CVDを含む慢性疾患の発症を抑制する可能性が示されている。
特にブラックカラント(BC)は、一般的に消費されるベリー類の中でACNを最も多く含むことが報告されている。
BCには脂質異常症などの酸化ストレス関連症状の緩和、抗酸化作用や抗炎症作用など、多くの健康効果があることが示唆されており、それらはすべてCVDリスクの低下に寄与する可能性がある。
過去にCVD高リスク集団におけるBCの心保護作用について調べた先行研究は確認されていない。
リンクの研究は、更年期移行期の健康な成人女性におけるBCアントシアニン(BC ACN)エキスサプリメント摂取がCVDリスクのバイオマーカーに及ぼす影響を検討することを目的としたもの。
45〜60歳の閉経前後および早期閉経女性38人が全試験を完了し、プラセボ(対照群)、392mg/日(低BC群)、784mg/日(高BC群)の3群のいずれかに無作為に分けられ、6ヵ月間投与。
結果
6ヵ月間のBC摂取後、トリグリセリド(TG)値の有意な低下が投与群間で用量依存的に観察された。
血漿中のインターロイキン-1β(IL-1β)は、用量および時間に依存して有意に減少した。チオバルビツール酸反応性物質(TBARS)レベルの有意な低下も、用量依存的に治療群間で観察された。
6ヵ月間の酸化LDLの変化は、カタラーゼ(CAT)および総抗酸化能(TAC)の変化と逆相関を示す一方、C反応性蛋白(hs-CRP)の変化はTGおよびIL-1βの変化と正の相関を示した。
これらの所見から、BCを6ヵ月間毎日摂取することで脂質異常症、炎症、脂質過酸化が効果的に改善され、閉経後のCVD発症リスクが軽減される可能性が示唆された。
Blackcurrant Anthocyanins Improve Blood Lipids and Biomarkers of Inflammation and Oxidative Stress in Healthy Women in Menopause Transition without Changing Body Composition
・血中TG、IL-1β、TBARSレベルの用量依存的な減少傾向,およびCATとTACの6ヵ月間の変化とoxLDLとの有意な逆相関によって示されるように,BC ACNが血中脂質、炎症、脂質過酸化を改善することによって、閉経前後の女性におけるCVDリスクを軽減する可能性があることが示唆された。
・最近の研究で、乳房脂肪蓄積は閉経前女性における有害な心血管イベント(MACE)の予測因子である可能性が示唆された。乳房脂肪は過剰炎症およびSGLT-2/SIRT-3経路の活性化を介するCVDおよび心機能悪化の独立した危険因子である可能性が示されている。
・TGがCVDリスクマーカーであることは、疫学研究、ゲノムワイド解析、メンデルランダム化研究によって証明されている。BCを6ヵ月間補給するとTG値は用量依存的に有意に低下した。
・ACNによる心代謝系疾患危険因子の改善効果に関するメタアナリシスでは、ACNは健康な成人においてはTG、TC、LDLの低下に寄与し、脂質異常症の成人において最も効果的であることが明らかになった。研究者は、ACNがTCを低下させる能力は胆汁酸の排泄促進およびステロール保持の減少に関連する可能性があり、LDL低下能力はコレステリルエステル転移タンパク質の阻害およびLDLレセプターのアップレギュレーションを介している可能性があることを示唆した。
・BCは炎症性サイトカインであるIL-1βの抑制を介して抗炎症作用を示すことが示唆された。以前のin vitro研究では、BCはリポ多糖で処理したRAW 264.7マクロファージにおいてIL-1βの発現を抑制している。
・BCの2大ACNであるシアニジンとデルフィニジンには抗炎症作用があることが示されており、そのメカニズムの1つとして核内因子κB(NF-κB)のトランスロケーションを阻害し、炎症性サイトカインの遺伝子発現を防ぐことがあげられる。
・脂質過酸化バイオマーカーであるTBARSの有意な減少が、BC投与群で用量依存的に見られた。この保護効果は、脂質膜の保護に有効なシアニジン誘導体による抽出物の抗酸化活性によるものと推定される。
・更年期は天然抗酸化物質であるエストロゲンの産生が減少し、CVDの病因であるプロオキシダント状態になる可能性がある。BC ACNには、シアニジン-3-グルコシド(C3G)、シアニジン-3-ルチノシド(C3R)、デルフィニジン-3-グルコシド(D3G)、デルフィニジン-3-ルチノシド(D3R)があり、シアニジンとデルフィニジンは植物性エストロゲン活性を持つことが報告されており、そのことがこの研究におけるBCの抗酸化能力の原動力となっている可能性がある。
まとめ
BCを6ヵ月間毎日摂取することで、脂質異常症、炎症、脂質過酸化が改善され、閉経移行期女性のCVDリスクが軽減される可能性がある。
CATおよびTACの変化とoxLDLの変化との間に観察された有意な逆相関は、BC補充がその抗酸化特性によってCVDリスク軽減を助ける可能性を示唆している。
微生物学とメタボロミクスをさらに分析することで、短鎖脂肪酸、胆汁酸、ステロール、エンテロラクトン、プロトカテク酸、没食子酸など、腸とその微生物代謝産物を介した脂質の修飾、酸化ストレスと炎症の軽減に関するBCの作用機序が解明されるかもしれない。