うつ病は、日本をはじめ世界的に大きな問題となっている。
当院でも従業員やご家族がうつ病になったり、抗うつ薬の副作用でお困りといったご相談が後を絶たない。
抗うつ薬による治療はコストがかかるだけでなく効果も期待薄なため、うつ病への早期介入戦略を拡張する必要性が求められている。
現在、様々な研究によって身体活動(PA)や運動プログラム(PE)がうつ病リスクを減らす有益な介入であることが証明されている。
PAはエンドルフィンの放出により、不安感やストレスを軽減することで一次予防として有効で、PEによる強化運動は中〜重症度のうつ病治療において抗うつ薬の摂取量を減らすことができるという多くの証拠がある 。
最近のメタアナリシスでは、中高年において心拍数と(レジスタンス運動に基づく)筋力向上がうつ病改善のモデレーターであると報告されているが、うつ病の有病率を予防または減少させる運動の種類(有酸素運動および/または筋力)に応じて推奨される身体活動の頻度に関するデータが不足している。
リンクの研究は、スペイン在住の18~84歳の20,287人を対象に身体活動とうつ病の有病率および抗うつ薬の摂取量との関係を確立し、うつ病の予防と軽減のための身体運動の推奨量を確立することを目的としたもの。
PEをしていない群は運動をしている群に比べてうつ病の有病率とおよび抗うつ薬の服用率が高いことがわかった。
PAとうつ病に罹患する確率、抗うつ薬の服用との間に逆相関が認められた。
1~2日の筋力トレーニングを含む3~4日/週のPAを行うことは、スペイン人におけるうつ病の有病率を減らすための最良の提案となり得ると結論。
Physical Activity and Prevalence of Depression and Antidepressants in the Spanish Population
・この研究では、女性と言う性別はうつ病との危険因子であることが認められ、その知見は他の研究とも一致していた。
年齢層と性別の間にも依存関係が認められ、高齢者群では男性よりも女性の方がうつ病患者の割合が高かった。これは、高齢女性においてうつ病患者が多いことを示す他の研究と一致している。
他の研究で示されたように、女性の閉経のと関連しているのかもしれない。
・人生のある時点で患ったうつ病有病率は一般集団で9.5%で、9.2%となった過去の調査と同じであった。うつ病の有病率と性別の間には依存関係が認められ、女性(12.5%)は男性(6.2%)の2倍の有病率を示し、両者の間には有意差があった。
・抗うつ薬の服用率と性別との間にも依存関係が認められ、女性(7.7%)は男性(3.1%)の2倍以上で統計的に有意な差があった。抗うつ剤の使用率が女性では男性の2倍であるとする他の研究と一致する。
・PA頻度と性別の間にも関係が見出された。不活発な人の割合は男性より女性で高く、女性は筋力トレーニング(PE)の実施回数が少なかった。
・重要な発見は、一般集団と男女の両方でうつ病の有病率とPAの頻度の間に依存関係が見出されたことである。PAの頻度が高いほどうつ病の有病率は低くなる。
また、抗うつ薬の服用率は運動頻度と依存関係を示した。
別の研究では、抗うつ薬の服用率は運動不足で増加すると報告されている。
・不活発な人やPAレベルの低い人のPA頻度を、1~2日の筋力トレーニングを含む中程度の身体活動を3~4日/週に増やすことで、スペイン人のうつ病有病率や抗うつ薬の使用率を減らすことができる最良の提案と考えられる。