小耳に挟んでいたアスリートのニューロドーピング、近々WADAから指標が策定されるかもしれない。
まとめてみよう。
“Neuroenhancement(神経機能向上)は、薬理学的および非薬理学的方法を用いて脳が様々な状況に適応する能力に影響を与え、認知能力を高めることを意味する。
神経機能向上の歴史は1780年に遡る。ルイージ・ガルヴァーニという人物が電気刺激が死んだカエルの筋肉運動を引き起こすことを発見したことから始まった概念で、2020年にはStentrodebrain-Computerinterfaceによって2人の患者がWindows10を搭載したSurface Book を使用して買い物やメッセージ送信などの日常活動を行うことができることが証明され、開頭手術なしで血管を通して埋め込まれた最初の脳-コンピュータインターフェースとして画期的な出来事となった。
DSM-5によると、神経機能向上においては重要な6つの主要な認知領域があり、複雑性注意、実行機能、学習と記憶、言語、知覚運動機能、社会的認知である。
複雑性注意は気を散らすものを排除しながら、関連情報に集中することを指す。実行機能はタスクの計画、整理、順序付けに関連する。学習と記憶は短期および長期アクセス用に情報を保存および保持することに関連する。言語は口頭および書面によるコミュニケーションを促進する人間特有の特性である。知覚運動制御は身体の動きを調整し、環境をナビゲートする能力。社会的認知は私たち自身と他者の感情を処理し、反応する方法に影響を与えて行動と社会的相互作用を導く。
様々な行動的、物理的、薬理学的戦略が各領域を標的とし、認知能力を高めることができる。行動的方法は非侵襲的で費用対効果が高く、有酸素運動、睡眠の最適化、瞑想、食事調整など健康的な方法である。
紹介するデータ(リンク参照)は、薬理学的および非薬理学的(物理的)方法のスポーツにおける神経機能向上に焦点を当てている。これらの方法は現在でも依然として激しい議論の的であり、明確な規制ガイドラインが不足している。
薬理学的方法は、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)によって禁止されていない物質の使用によって認知能力を高めることを目的とする。それらの物質は「ニュートロピック」として知られ、主に学習と記憶を改善するドネペジル、メマンチン、ガランタミン、リバスチグミンなどのアルツハイマー病治療薬が含まれる。
非薬理学的(物理的)方法には、侵襲的技術(例:深部脳刺激)と非侵襲的戦略(例:経頭蓋直流電気刺激、経頭蓋磁気刺激、経皮的迷走神経刺激、ニューロフィードバック)の両方が含まれる 。アルツハイマー病、パーキンソン病、脳卒中などの神経変性疾患や血管疾患からの回復を支援するために元々開発されたこれらの認知機能向上方法は、近年スポーツ選手の間で人気を集めている。エリートアスリートの、財政的および競争的ストレスを含むパフォーマンスの限界を絶えず超えるなければならないという強い強迫観念が神経機能向上への関心をさらに高めている。
リンクの研究は、認知機能向上〜皮膚科学〜スポーツ医学を結びつけ、上記のニューロドーピングの潜在的バイオマーカーとしての皮膚病変について考察したレビュー。
【結果】
リバスチグミンパッチが神経機能向上のための最も使用されている薬理学的方法で、掻痒性(かゆみ)皮膚病変が頻繁な副作用であることが確認された。
ドネペジルは、より少ない非掻痒性皮膚反応と関連していた。
非薬理学的方法の中では、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)は主に電極と皮膚の接触不良、長時間露光、または過度の電流強度により皮膚火傷と顕著に関連していた。
これらの結果は、特定の皮膚症状がアスリートにおけるニューロドーピング行為の潜在的指標として機能する可能性を示唆している。
【結論】
リバスチグミンパッチなど、特定の薬理学的神経機能向上方法が皮膚病変副作用を引き起こす可能性が高く、ニューロドーピングの潜在的な指標となる可能性がある。同様に、経頭蓋直流電気刺激(tDCS)などの非薬理学的手法は電極の不適切使用に関連することが多く、検出可能な皮膚の火傷を引き起こす可能性がある。このように、特定の神経機能向上法はニューロドーピングの可能性を示す特徴的な皮膚副作用を示す。しかし一方で、アスリートに関する確固たる臨床データが不足しているため、皮膚症状とニューロドーピングの間の明確な関連性を確立することは依然として困難なまま。
しかし医療監督なしでニューロドーピングを行うアスリートでは皮膚および全身への有害反応リスクが高まることから、皮膚病変が認知機能向上薬または神経調節療法の不適切な使用または過剰使用に対する貴重な早期診断マーカーとなる可能性がある。
Skin Lesions as Signs of Neuroenhancement in Sport
・神経機能向上薬による認知機能向上は、世界アンチ・ドーピング機関(WADA)に新たな課題を提起している。経頭蓋直流電気刺激(tDCS)など、認知機能向上薬や非侵襲的方法は神経変性疾患(例:アルツハイマー病)や精神疾患の治療のために開発されたものだが、非医療的使用ではニューロドーピングの概念が当てはまる。それらの方法は検出困難であるため、スポーツにおける隠れたドーピング戦略となる。
・ニューロドーピングの健康への影響は皮膚の副作用にとどまらない。リバスチグミンやドネペジルなどの薬理学的薬剤、および経頭蓋直流電気刺激(tDCS)などの神経調節技術は、潜在的リスクを伴い、心血管系、神経、精神状態などの急性副作用および脳の可塑性の変化や認知依存などの慢性的な結果が含まれる。医療監督なしでこれらの物質を適応外使用すると、特に身体的および精神的ストレス下にあるアスリートで、これらのリスクが増幅される可能性がある。
・このデータは、ニューロドーピングの非侵襲的バイオマーカーとしての皮膚症状の潜在的役割を強調している。スポーツドクターに疑わしい皮膚病変を特定するための実用的なガイドラインを提供することで倫理的および規制基準に沿った早期発見戦略に貢献できる。磁気共鳴分光法(MRS)などアスリートにおける脳刺激の検出方法は、脳刺激の前後にテストが必要なため費用がかかりロジスティクス上の課題がある。神経機能向上方法の潜在的な副作用である皮膚病変の検査はニューロドーピング検出に対するより実用的なアプローチを提供する可能性がある。たとえばドネペジルは、かゆみ、軽度の発疹、体幹および四肢の紫斑性発疹を引き起こす可能性がある。リバスチグミンはアレルギー性および刺激性接触皮膚炎または「バブーン症候群」(全身性皮膚炎の一種)に関連する。
・研究では、特に24時間投与される9.5mgパッチ(経口で12mg/日相当)のリバスチグミンパッチが、頻繁に痒みを伴う皮膚病変を引き起こすことがわかった。中等度から重度の紅斑が患者の7.6%に発生し、2.3%がかゆみを体験した。アレルギー性皮膚炎や過度の発汗を起こしやすい女性は、これらのパッチを使用すると皮膚刺激のリスクが高まる。リバスチグミンの血漿濃度はパッチ投与後徐々に増加し、投与量に関係なく約8時間でピークに達し、半減期は3.2〜3.9時間。皮膚病変はパッチ除去後最大48時間持続する可能性がある。
・ドネペジルでは主に非かゆみの皮膚病変が観察された。ドネペジル高用量は副作用増加と相関があり、蒼白が主な皮膚関連副作用。N-アセチルシステイン(2400mg/kg)の同時投与は、8〜12日目に蒼白を大幅に減少させることが示唆されている。リバスチグミンとは異なり、ドネペジルは半減期が長く(63時間)、tmaxは3〜4時間で、代謝産物の検出可能性を高める。
・2つの症例報告で、メマンチンが紅斑性病変を引き起こす可能性が示された。メマンチンの半減期は60〜100時間で、投与後6〜8時間でtmaxになる。主に未変化薬(75〜90%)または水酸化代謝産物として腎臓から排泄されるメマンチン代謝産物は、ドネペジルよりも検出が容易。メマンチンは皮膚科学的副作用が少ないが、神経変性疾患の治療に有効なため、ニューロドーピングの可能性を見過ごすべきではない。
・電気的脳刺激で最も一般的な皮膚副作用はこめかみ領域の火傷。この方法のニューロドーピングとしての使用を示すことは特に困難であり、皮膚病変はその使用の最も目に見える兆候である。特定の治療目的のために設計されていることが多い薬理学的方法とは異なり、電気的脳刺激は片頭痛、うつ病、不安などの状態に対して合法的に使用される可能性があり、ニューロドーピングの証明を複雑にする。ただし、アスリートがそのような状態の病歴を持たず、特徴的な皮膚病変を示す場合はニューロドーピングが疑われる可能性がある。1000人以上の被験者を含む33,200回以上のtDCSセッションの包括的レビューでは、電極と皮膚の接触不良または刺激による皮膚の火傷が報告されている。
・ドーピングチェックの際は、明確な病因のない非定型発疹または皮膚病変の突然の発症、標準治療に抵抗性のある持続的な皮膚発疹、遅延した創傷治癒、および異常な瘢痕形成などの特定の皮膚症状に注意する必要がある。皮膚病変の存在が既知の皮膚科的エビデンスでは説明できない場合、さらなる調査を正当化する可能性がある。
・・・プロ、アマとわずパッチタイプを使用している人が増えつつあると聞いてますが、WADAから正式に規制される前に爆発的に使用者が増えそうだなという印象。
使ったことがある方は副作用があったかどうかこっそり教えてください。
口は硬いほうなんで安心してください。