子宮内膜症は患者の9–15%で骨盤外に認められ、なかでも胸部子宮内膜症(TES)は骨盤外に発生する子宮内膜症の中で最も一般的な形態と考えられており、患者の0.7–4.7%に存在する。TESの症状には、月経随伴性気胸、血胸、喀血、肺結節、月経に伴う胸痛または肩の痛み(首、肩甲骨周囲、および腹部に放散 )がある。まれなケースとして、胸水も報告されている。
月経随伴性気胸に苦しむ患者数については過小評価されている可能性があり、子宮内膜症の他の臨床症状と比較してその割合を再評価する必要性が強調されている。
横隔膜子宮内膜症(diaphragmatic endometriosis)とTESはしばしば個別のものとして扱われるが、実際には相互に関連している。月経随伴性気胸の原因は複雑で、一般に横隔膜子宮内膜症を伴うことに留意し、骨盤内子宮内膜症のすべての患者において横隔膜およびTESの両症状を考慮すべきと考えられる。
リンクのデータは、ポーランドの子宮内膜症患者支援団体のユーザーを対象としたウェブベースアンケート調査結果をまとめたもの。
結果:
92名の回答者。回答者の96%(92名中88名)の患者が過去に骨盤内子宮内膜症と診断されており、20%(92名中18名)が胸部子宮内膜症、18%(92名中17名)が横隔膜子宮内膜症と診断されていた。
胸部と横隔膜の両方の内膜症と診断された患者の割合は15%(92名中14名)。患者の98%が痛みを訴えていた。患者によって報告された最も一般的な症状は、胸痛、呼吸困難、咳嗽、および四肢の脱力感で、それぞれ96%、67%、52%、33%の頻度で発生していた。四肢の脱力感は若い女性(平均35.5歳)と比較して高齢の女性(平均38.4歳)で有意に多く見られた。
痛み(平均36.7歳 vs 平均31.3歳)および喀血(平均41.0歳 vs 平均36.2歳)を患う女性はこれらの症状のない女性よりも高齢の傾向があった。
胸部子宮内膜症特有の症状として、「液体が流れ込むような感覚」(13%)と「ポンとはじける感覚」(12%)が特定された。これらは胸腔内の少量ガスと液体に関連している可能性がある。
What Will We Learn if We Start Listening to Women with Menses-Related Chest Pain?
・この研究で明らかになった痛み(98%)の存在は喀血や呼吸困難といった他の症状よりもはるかに一般的で、これは他の研究でも報告されている。子宮内膜症患者における胸痛の発生率が過小評価されていると結論づけることができる。
・ポンという感覚および液体が流れ込むような感覚という独自の症状を特定した。これらの症状は研究対象集団において一般的ではない(それぞれ12–13%)。これらの症状は胸部子宮内膜症以外の疾患において呼吸器専門医に頻繁に報告されるものではなく、これらの症状が他の臨床医によって記録されているかどうか疑問が残る。これらの症状の存在は再発性月経随伴性気胸と関連しており、胸腔内の空気と液体の共存の結果である可能性がある。
・症状の右側優位性は子宮内膜細胞を運ぶ時計回りの腹腔内液の動きに関連している。これにより、異所性の子宮内膜組織は鎌状間膜によって流れがさらに妨げられる左横隔膜よりも、右横隔膜に移植されやすくなる。この研究では、調査対象者の42%が右側のみの症状を呈し、37%が両側性、21%が左側の症状を示した。
・骨盤および腹壁構造に浸潤する子宮内膜症病巣の存在は、胸部下部への放散痛を引き起こす可能性がある。
・横隔膜が横隔神経およびT5–T11肋間神経の神経支配を受けていることが、肩、腕、首、および乳房下領域への関連痛の領域が共通して共存する理由である。横隔膜麻痺は胸部子宮内膜症の独特な形態。
・横隔膜子宮内膜症は放射線検査で適切に確認することが難しい場合がある。回旋筋腱板症、癒着性関節包炎、その他の関節症、頸椎疾患、胆石症およびパンコースト腫瘍、胸壁腫瘍などとの注意深い鑑別が必要となる。
・質問票に回答した患者の年齢の中央値は37歳で、子宮内膜症の診断を受けた年齢の中央値は31.5歳だった。
・ストレス、運動、または体位などの要因が長期にわたる胸部子宮内膜症症候群(TES)の症例において症状を悪化させるという証拠は示されなかった。
・・・生理のタイミングで右肩や胸、呼吸器症状が出る女性は一度精密検査を検討してはいかがでしょうか。産婦人科で気づかれないこともあるので必ずセカンドオピニオンを。