牛肉は栄養学の世界ではあまりいい印象を持たれない食材だが、牛肉に対する見方が変わるきっかけになるデータかもしれない。
今回ご紹介するのは、妊娠中の牛肉摂取と地中海食が母体と乳児に及ぼす影響を調査したデータ。
牛肉は母体の健康と胎児の成長発育には不可欠なタンパク質、鉄、ビタミンB12、ビタミンB6、コリン、亜鉛の優れた供給源で、これらの栄養素は世界的に妊婦の食事で不足しがちになる。特に鉄は吸収に優れた形(ヘム鉄)で存在し、吸収される鉄全体の10%以上を占めるため牛肉は優れた鉄の供給源と考えられている。
非妊娠中に比べて妊娠中は胎児の発育に必要な母体の血液量が増加するため、鉄分摂取量は1日あたり1.5倍に増加する必要がある。鉄の供給量が満たされないと鉄欠乏性貧血を発症するリスクが高くなり、母体の病気、子宮内発育制限、低出生体重児、早産など母体と胎児の両方に合併症を引き起こす可能性がある。
しかし一方で、妊娠中の鉄分補給が母体や乳児の健康転帰にどのように関係しているかはっきりと明らかになっていない。
鉄は単独で産科の健康転帰に影響を及ぼすわけではなく、他の栄養素(カルシウム、アスコルビン酸、ポリフェノール、フィチン酸など)が相乗的に作用して鉄の状態やその後の健康転帰に影響を及ぼす可能性がある。したがって、鉄分を多く含む食品(牛肉)や健康的な食事パターンにおいて鉄分摂取量を評価することで、鉄サプリメントの摂取量だけを見ただけでは明らかにならない、妊産婦の健康リスクとの関連性が明らかになる可能性がある。
健康的な食事パターンの一つに地中海食(MedD)がある。
地中海食の構成要素には野菜、果物、全粒穀物、ナッツ類、豆類、魚介類、オリーブ油などが含まれ、最近のレビューでは妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、子宮内発育制限、妊娠低年齢児、早産リスクを減らすのに効果的と報告されている。地中海食指標では、肉は「非伝統的な」食品として赤身肉の摂取量を制限している。
リンクの研究は、ドコサヘキサエン酸の補給が出生および子孫の転帰に及ぼす影響を検討する2つの臨床試験のうち1つに参加した妊婦の既存コホート(n=1076)の二次解析で、
・母親の牛肉摂取とマクロおよび微量栄養素摂取との関係
・母親の牛肉摂取と地中海食の順守、母親と乳児の健康との関係
を明らかにすることを目的としたもの。
母親の牛肉摂取量(g/日)のみが母親の貧血リスクの低下と関連するのだろうか?
地中海食パターン遵守中の母親の新鮮な牛肉摂取が、貧血リスクの低下および乳児の健康状態の改善(分娩時の妊娠月齢が高いこと、妊娠月齢(AGA)出生体重が許容範囲内であること)と関連するのだろうか?
【結果】
・新鮮な牛肉の摂取量が最も多い女性は、妊娠中に不足しがちな多くの微量栄養素の摂取量が最も多かった。
・新鮮な牛肉の摂取量だけでは、母体や乳児の転帰とは関連がなかった。
・MedDの質が中程度から高く、新鮮な牛肉の摂取量が多い女性では貧血リスクが減少した。
【結論】
牛肉は母体の健康と乳児の成長発育に不可欠なマクロおよび微量栄養素の豊富な供給源である。
妊娠中の牛肉摂取と地中海食の遵守が母体の貧血リスク軽減に有益であり、妊娠中の健康食品として牛肉を推奨できることが示された。
妊娠中の牛肉摂取はマクロおよび微量栄養素の摂取量増加と正の関係があることが示された。
したがって、牛肉の摂取が不十分であったり、絶対的に排除されたりすることは推奨されない。
上記の結果は、牛肉摂取に関連する否定的認識を覆し、健康的な妊産婦の食事の一部として牛肉を考慮し、奨励することの重要性を強調するものである。
・牛肉摂取量の増加は、エネルギー摂取量の増加、マクロおよび微量栄養素摂取量の増加と関連していた。牛肉を最も多く食べた女性は、タンパク質、鉄、ビタミンB12、ビタミンB6、コリン、亜鉛など、妊娠中集団に不足しがちな重要な栄養素の推定平均必要量(EAR)を最も満たしていた。この発見は、健康的な食事に伴う十分な肉の摂取は、特に妊娠中のような必要性が高まる時期には有益であるとする他のレビューとも一致する。
・牛肉の摂取量だけでは健康上の転帰(プラスにもマイナスにも)とは関連しなかったが、健康的な食事における牛肉摂取量の増加は妊娠中期におけるヘモグロビン値の上昇と貧血リスクの低下と関連していた。
・地中海食の質指標スコアから赤身肉を除外したところ、中程度摂取の女性では貧血リスクが低下していた。これは、食事の質指標が健康的な食事における牛肉の役割を誤って表現している可能性を示唆している。この研究は、心代謝性疾患リスクが高い人において、健康的な地中海食パターンの一部として赤身肉を摂取してもリスクは増加しないどころか有益である可能性を示した他の研究と一致している。
・新鮮な牛肉の摂取量が少なかったり食事から完全に除外されたりするよりも、むしろ多い方が貧血予防になる可能性が示されており、妊産婦の食事に奨励すべき栄養密度の高い食品源として推奨される可能性がある。
・妊娠中のサプリメント使用は広く推奨されているが、多くの女性が鉄サプリメントの有効性に懐疑的で、胃腸の不快感などの副作用を経験し、妊娠中にサプリメントを入手することに問題があると報告している。したがって、妊娠中の微量栄養素と多量栄養素の摂取量を増やすには、手軽に入手でき価格も手頃な牛肉のようなホールフードを勧めるのが妥当な戦略である。
・妊娠していない集団を対象とした研究では、乳児、思春期、妊娠適齢期女性、高齢者の食事における赤肉の摂取が、心代謝、認知、がん関連の転帰と関連していることが検討されており、米国がん研究所は大腸がんリスクが増加するため、赤肉の摂取量を週18オンス未満に制限することを推奨している。この推奨は、赤身肉、加工肉、鉄分の過剰摂取と大腸がんリスクの上昇を示す疫学的データに大きく基づいている。しかし、これらを引き起こすメカニズムはほとんど不明であり、人口統計学的には高齢者側に偏る傾向がある。
・乳幼児と妊娠適齢期女性は、胎児および/または乳児の成長と発達に重要な栄養素を供給する能力があるため、牛肉摂取から最も恩恵を受ける傾向がある。これらのグループにおいて、牛肉摂取と否定的な転帰を関連付けた研究は現在までにない。
…いかがでしたか?
目にする文献の多くが赤身肉に否定的な見解を示していたことから、私も新鮮な驚きを受けました。
妊娠中の方、特に妊娠前から貧血傾向があった方は地中海食に牛肉を追加してみるといいかもしれません。微量栄養素の選択にこだわったより具体的な妊娠中栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
産後ダイエット、体質管理にも非常に有益な内容になっています。
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