妊娠中および産後の栄養状態は、母子ともに最適な健康状態を確保するための必須条件である。しかし近年、妊娠適齢期(特に若年成人)女性の食事による栄養素およびカロリー摂取量がしばしば推奨値を満たさないことに懸念が広がっている。
実際に、食事が取れず体が細いため健康状態に難があり、体重増加と体力の回復のために当院に通院する若年層の患者さんが増えている。
少し前までは圧倒的に減量のご相談が多かったのだが、これも時代の流れだろうか・・・
様々なデータから、妊娠中の母親のエネルギー、砂糖、飽和脂肪の摂取量は推奨値を超えているのに対し、微量栄養素と食物繊維の摂取量は不足していることが示唆されている。
数多くの食品の中でも豆類はタンパク質、食物繊維、複合糖質、葉酸、亜鉛、鉄、マグネシウムを多く含み、飽和脂肪と総脂肪が低いため豆類摂取を増やすことは妊娠中(妊娠前も)の栄養摂取を改善する手段になり得ると考えられる
例えばスペインの妊婦を対象とした先行研究では、豆類摂取量と妊娠時小児出産リスクとの間に逆相関があることが判明している。
成人の食事性豆類の推奨摂取量は週1.5カップだが、一般に消費量はその推奨量を下回っており、わずか0.15カップ/日と推定されている。
非妊娠集団では豆の定期的な摂取は、満腹感の増加、健康的な体重の維持、血糖コントロールの改善、血中脂質の減少など様々な健康上の利点と関連付けられているが、妊娠中の豆の摂取の利点を検討した研究の数は少ない。
リンクの研究は、妊娠中と非妊娠中の女性の豆消費量を比較し、母親の食事の質および栄養学的転帰との相関を検討することを目的としたアメリカの研究。
妊娠後期から産後1年まで母子ペアを追跡した縦断研究であるInfant Feeding Practices Study IIの米国妊婦(n = 1444)の二次データ分析。
結果
妊娠中の母親の豆の消費量は少なく、乾燥豆0.31カップ/週、チリ0.37カップ/週、豆スープ0.10カップ/週だった。
乾燥豆を摂取しない人と比較して、乾燥豆を週に1回以上食べる母親は平均HEIスコア、総繊維、タンパク質摂取量が多かったが、加糖によるエネルギーの割合が少なかった。
乾燥豆の摂取量が多いほど、総繊維、不溶性繊維、水溶性繊維、葉酸の摂取量との相関は弱~中程度だった。
米国の妊婦のコホートでは、豆の消費量は少なかった。豆の摂取を増やす(週1回以上)ことで、妊娠中の母親の食事の質を改善できる可能性があると結論。
日本の食文化的にアメリカよりも豆類の摂取はより身近なものかもしれないが、よりよい栄養状態に近づくために参考になるデータだろう。
Maternal Bean Consumption during Pregnancy: Distribution and Nutritional Outcomes
・妊娠中の母親の豆消費(乾燥豆、チリ、豆スープ)の有意な相関を特定し、母親の食事の質および栄養アウトカムとの相関を検討した結果、全体的に母親の豆消費量は少ないことが判明した。
チリは教育水準の低い参加者の間でより頻繁に消費されていた。
乾燥豆の消費量は人種/民族や地域によって大きく異なっていた。
・1日に1カップ以上の乾燥豆を食べる妊婦は、非消費者に比べてタンパク質、食物繊維、葉酸、その他いくつかの微量栄養素の摂取量が多く、HEIスコアが高かったが、添加糖の摂取量(エネルギー%)は少なかった。
・妊娠中・非妊娠中・非産後女性の両グループとも豆摂取量が推奨量(1.5カップ/週)を下回っていた。
・1999年から2002年の国民健康栄養調査(NHANES)データの分析から、1日のうちで豆類を摂取しているアメリカ人は全人口のうちわずか7.9%でだった。
・低学歴層は高学歴層と比較して、1日の乾燥豆消費量が半分以下だった。
この観察結果は、低学歴の人と比較して大学教育を受けた成人の方が豆を消費する傾向があることを報告した他の研究によっても支持されている。
教育水準が高いほど豆のポジティブな健康特性に関する栄養知識へのアクセスが向上し、より高い消費水準につながっている可能性がある。
・乾燥豆で観察されたパターンとは対照的に、チリの消費量は低学歴層で高い値を示した。教育水準が低い人はファストフードや缶詰を好み、低コスト材料で調理した自家製チリをより多く消費している可能性がある。
以前の研究では、社会経済的地位(SES)の低い女性および中程度の女性において、仕事の都合による時間不足が健康的な食品を準備する際の障壁として認識されていた。
また低SESの女性は新しいレシピを試したり、栄養の変化を試したりすることが少ないこともチリ摂取量が多いことの一因になっている可能性がある。
・非消費者と比較して、乾燥豆を週1回以上消費する妊婦はタンパク質、脂肪(一価不飽和脂肪と多価不飽和脂肪を含む)、食物繊維(水溶性と不溶性の両方)の摂取量の増加による高いHEIスコア記録した。
豆の消費は食物繊維総消費量の大幅な増加と関連しており、妊娠中の食物繊維摂取は血糖コントロールの改善、子癇前症のリスク低下、健康的な妊娠時体重増加(GWG)の促進を通じて母体と発育中の胎児の両方に利益をもたらすと考えられる。
過剰GWGを防ぐために妊娠中の高繊維食(30g/日以上)の摂取を検討したランダム化比較試験では、高繊維食を継続的に摂取する参加者は産後1年のGWG低下と体重低下をもたらすと報告された。
・この研究では、豆スープ摂取量が最も多いグループは豆スープを頻繁に摂取しないグループと比較して、BMIが有意に低いことが判明した。豆スープ摂取が胃排出の遅延や血糖反応の上昇に関与することによって説明できる可能性がある。
・豆の摂取は妊娠の有害転帰や子孫の長期的な健康状態において特に懸念される添加糖の消費低下と関連していた。米国では妊婦の70%が、食事性添加糖の推奨値を超えていると推定されている。
103,119人の女性の出産前コホートでは、添加糖消費量とGWGの間に強い関連があることが報告されている。
・豆消費量が多いことは、鉄、カリウム、マグネシウム、葉酸を含む様々な微量栄養素の摂取量の増加と関連していた。妊娠初期は胎児の神経管欠損症、母親の貧血や末梢神経障害からの保護のために十分な葉酸の摂取が重要だが、豆類は葉酸の含有量が多い。
様々な豆類の栄養素を調査した研究によると、豆類の中で1食あたりの葉酸濃度が最も高かったのはうずら豆(147μg)、次いでひよこ豆(141μg/)、あずき(140μg/)、黒豆(128μg/)、白インゲン豆(127μg/)だった。