女性の肥満有病率が近年大幅に増加しており、世界的にパンデミックとみなされている。
実際、成人女性の3分の1以上が過体重であり、肥満有病率が最も高い米国では妊娠適齢期女性の27%が過体重(BMI25〜30kg/m2)、37%が肥満(BMI≧30kg/m2)である。
また、妊娠前体重に関係なく、ほぼ半数の女性が各国産科協会が推奨する上限を超える体重増加を妊娠中に示すことが示されている。
母親の肥満は妊娠糖尿病、子癇前症、血栓塞栓症、早産、分娩合併症、帝王切開率の上昇、感染症など短期的な合併症と、糖尿病、高血圧、心血管代謝疾患などの長期的な母親の合併症のリスク要因になる。さらに、妊娠中の母親の肥満と過体重は、心血管疾患、肥満、内分泌および免疫異常、神経発達障害などの小児の長期的な有害転帰と関連している。
最近は2歳から8歳の子供の15%が神経発達障害を持つと推定されている。神経発達障害は脳の発達障害によって幼少期に現れる。この障害は社会的スキル、コミュニケーション、知的能力、運動能力、感情発達、注意、記憶など、いくつかの機能領域における変化または遅延につながる可能性がある。
妊娠中の母親の肥満と神経発達障害は並行して増加する傾向が観察されており、妊娠前体重と過剰な妊娠中の体重増加(GWG)の両方を含む母親の体重状態が、子どもの神経発達転帰に与える影響に近年注目が集まっている。
ストレスや毒素への胎内曝露が胎児の脳の発達に悪影響を与えることはすでに知られている。母親の肥満は炎症性の子宮環境を作り出すため、この環境が神経組織機能にエピジェネティックな変化を引き起こし、子どもの神経発達に長期的な影響を与える異常な胎児プログラミングにつながる可能性がある。
Maternal Obesity and Neurodevelopment of the Offspring
病態生理学
・肥満の炎症性という性質を考慮して、既存の研究は胎盤胎児ユニットにおける母親のサイトカインプロファイル、脂肪酸、酸化ストレスおよびそれらが脳の発達と機能に及ぼす影響に焦点を当ててきた。妊娠中の酸化ストレスは、インターロイキン1(IL-1)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF-a)、単球走化性タンパク質11、C反応性タンパク質(CRP)など母親の循環血液中サイトカイン増加と関連している。これらのサイトカインは神経突起の成長と分化に関与しているようで、IL-6レベル上昇は視床下部の神経支配の障害と関連し、TNF-aの発現増加は交感神経系内の神経突起の成長抑制と相関していた。
・母親の肥満はトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)の不均衡に寄与することがわかった。TGF-βの不均衡は神経発達とシグナル伝達の障害と関連する。具体的には、低レベルのTGF-βはミクログリア細胞の機能、分化、維持、軸索成長、シナプス電気生理学の調節に影響を与え、ASDと関連している。未治療の統合失調症患者の循環単球ではTGF-βのレベル上昇が観察されている。
・過剰な脂肪組織が脂肪分解の増強を引き起こすことで遊離脂肪酸(FFA)と上記のサイトカイン放出につながり、母親の肝臓の超低密度リポタンパク質(VLDL)分泌が増加される。胎盤は循環FFAとIL-1の受動を胎児に許容し、これらの炎症性サイトカインを子宮内環境に向けて分泌することが知られている。飽和FFAは胎盤栄養膜細胞における炎症性サイトカインの放出を誘導し、これらの炎症プロセスは活性酸素フリーラジカルの産生を活性化し、酸化ストレス、脂肪毒性、炎症および胎盤マクロファージの過剰活性化の増加を通じて、胎盤および子宮内環境を機能不全にする。この不利な子宮内炎症環境は、胎児におけるサイトカイン産生の変化および神経機能障害と関連する。
・肥満の母親の胎盤では血管系が影響を受けている。活性化された脱落膜免疫細胞(活性化された脱落膜ナチュラルキラー(NK)細胞を含む)が増加し、侵入する栄養膜に対する炎症反応を促進して低酸素症を引き起こす可能性がある。また、肥満はCD3+ T細胞とCD68+マクロファージによる胎盤浸潤増加による慢性絨毛炎と関連しており、それが脳性麻痺および新生児低酸素性虚血性脳症と相関すると考えられている。
・母親の多価不飽和脂肪酸(PUFA)の食事調整は、脂肪酸の全身循環レベルに影響を与えることなく子孫の発達中の脳の脂質プロファイルに寄与する。n-6PUFA(肉由来)が高く、n-3PUFA(魚由来)が低い不均衡な食事はミクログリアの運動性と脂質組成を損ない、炎症性遺伝子の発現を悪化させて行動障害に関連する脳の変化に寄与する可能性がある。
また、母親のn-3PUFA補給に関するヒト研究では、子どもの認知アウトカムに対する有益な効果に関して相反する結果が示された。
さらに、非糖尿病母親の脂肪過多は結果的に胎児の高血糖に関連し、胎児の脳におけるインスリン、グルコース、レプチンシグナル伝達調節不全を引き起こす。具体的には、胎児の膵臓によってインスリン分泌が増加し、胎児の骨格筋および脂肪組織の炎症はインスリン抵抗性の増加につながり、胎児の脳、特に海馬および皮質の学習と記憶のシグナル伝達経路におけるインスリン受容体とグルコース輸送体の発現低下を引き起こす。
母親の肥満が誘発する上記の代謝障害は、子孫のミクログリアの代謝可塑性も損傷し、それが神経発達を損なう可能性がある。
・胎児の脳の炎症と酸化ストレスの根底には、セロトニン(5-HT)とドーパミンのシグナル伝達経路が調節不全になり、報酬回路が損なわれることが関連する。前頭前皮質におけるセロトニン機能不全シグナル伝達、炎症によって誘導されるセロトニン前駆体の分解、およびセロトニン合成の減少は肥満母親の子孫におけるうつ病、不安神経症、ADHD、ASDおよび摂食障害の発症率を高める可能性がある。ドーパミン作動性経路障害は、後の人生における統合失調症、ASD、ADHDおよび摂食障害と関連している。
・肥満の有害な影響はエピジェネティクスの観点からも検討されている。DNAの低メチル化、マイクロRNAの差次的発現、ヒストン修飾が起こることで肥満母親の子孫のミクログリアのエピジェネティックなランドスケープを損なうことが示されている。これは次世代にも継承される可能性がある。
・肥満母親の細菌叢組成の変化は内毒素産生増加を引き起こす。内毒素は母親の循環系を介して移動し、胎児の体内の炎症に寄与する。これは胎児のマイクロバイオームにおけるL.ロイテリの減少と相関し、それがオキシトシン産生の減少につながることで行動障害、ASDおよびADHDを誘発する可能性がある。
・母親の高脂肪食は子宮内で神経炎症反応を誘導し、鉄の恒常性を乱し、フェロポルチンとヘプシジンのレベルを上昇させるようだ。これらの変化は後の人生、特に男性子孫の行動障害に関与する可能性のあるミエリン形成のプロセスに影響を与える可能性がある。
・高脂肪食、肥満、妊娠中の抗生物質の使用などの要因による母親の細菌叢の「ディスバイオーシス」は様々なメカニズムを通じて胎児の脳の発達に影響を与える可能性がある。これは子孫の異常な脳機能と行動に寄与する可能性がある。妊娠前の肥満女性の胎盤細菌叢は妊娠前の体重が正常な女性と比較して多様性と豊富さが少ない。肥満女性の妊娠では細菌叢不均衡が発生し、炎症性微生物が増加することが特徴。このディスバイオーシスは子宮内および胎盤炎症を上昇させ、胎児の免疫環境に影響を与える可能性がある。
また、母親-胎児-胎盤ユニットの脂質代謝輸送体も肥満で調節不全になる。その結果、胎児の脳の発達に不可欠な長鎖PUFAの輸送が妨げられる。
ここまでのまとめ:
母親の肥満によって誘発される子宮内炎症環境はサイトカイン循環、エピジェネティックな変化、ホルモン調節不全、ニューロン発達の悪化および子孫の細菌叢組成の変化を通じて胎盤-胎児ユニットに有害変化を引き起こし、授乳を通じて新生児に対する母親の肥満の継続的な影響を伝播する。

認知障害:
母親の肥満と子孫の認知障害との関連性が確立されている。
研究によると、肥満母親から生まれた子孫は正常な体格指数(BMI)の母親から生まれた子どもと比較して、知能指数(IQ)スコアが2〜3.4ポイント低い傾向がある。母親の脂質過多指数が高いほど子どもの認知能力、言語能力、運動能力が弱いことに関連し、魚の摂取量が多い良質な食事はより良い言語能力に関連している。
母親の肥満に曝露した子どもは非肥満母親の子どもと比較して、読解力と数学の評価で成績が悪く、学校の成績も低いことがわかっている。実際これらの子孫においては、早期に認知発達の遅れの兆候が観察される。
ADHD:
母親の過体重、肥満、および重度肥満(BMI≧35kg/m2)と子孫のADHD診断可能性との関連性が4つの大規模北欧出生コホートで観察された。具体的には、母親の過体重、肥満、および重度肥満はADHD診断のリスク上昇と関連しており、その割合はそれぞれ23%から28%、47%から89%、および88%から95%の範囲だった。臨床診断ではなくADHD症状に焦点を当てた追加研究でも、肥満母親の子孫のADHD症状のリスク上昇が報告された。
妊娠前のBMI≧35はより高いADHD症状およびより悪性の抑制制御と注意と正の相関が報告された。
772組の母子ペアを調べた大規模ギリシャコホートでも、母親の肥満が就学前年齢における一般的な認知能力、知覚能力、定量的能力、実行機能のスコアの有意な低下、行動上の困難の増加およびADHD症状と関連していることを発見された。
最近の研究では、妊娠前高BMI母親の子孫において、満期出産および早産の両方の5歳時点の多動-不注意症状がより頻繁に現れることが示唆された。早産は神経発達障害の独立したリスク因子であり、これは重要な発見と考えられている。
ASD(自閉スペクトラム症):
多くの疫学研究で、妊娠前肥満は子どものASDのオッズ比を1.3~2.05倍に増加させることがわかっている。これには2019年に発表された1496人の子どもを対象とした多施設症例対照研究も含まれ、自閉症の子孫は妊娠中に体重増加が大きかった母親を持つ可能性が高く、母親が妊娠前過体重だった場合、自閉症のリスクはさらに高かった。
過剰な妊娠中体重増加(GWG)だけでも、子どものASDのリスクを10~58%増加させるようだ。
不安、うつ病、内向的行動:
複数の大規模集団研究で、母親の妊娠前BMIと子孫の不安やうつ病発症との関連性が示されている。スウェーデンの子孫コホート研究では、母親の妊娠前肥満は教師が評価した悲しみや恐怖などの否定的な感情を示すリスクが2倍高いことと関連していた。このリスク増加は青年期を通じて持続した。さらに17歳まで子孫を追跡した2コホート研究では、肥満または過体重母親から生まれた子どもは、引きこもり、うつ病、不安症の確率が高いことが報告された。
知的障害および脳性麻痺(CP):
母親の肥満は、子どもの知的障害(IQ70未満で特徴付けられる)リスクが著しく高いこと(52%から73%の範囲)と関連している。驚くべきことに、この関連性は体外受精や細胞質内精子注入などの生殖補助医療を受けた母親にも当てはまる。
脳性麻痺(CP)リスクに関しては、いくつかの研究で肥満母親の子孫にリスクが高いことが示されている。
さらに、肥満の重症度は用量依存的効果があるようで、重度肥満の母親の子孫にはより多くの有害なアウトカムが観察される。約800万人の参加者を含む2018年のメタ分析によると、過体重、肥満および重度肥満の母親の子どものCP相対リスクは、それぞれ1.29、1.45、および2.25であることがわかった。
・・・いかがでしたか?ご出産にあたっては、妊娠前からの体重・食事管理がいかに重要であるかを示唆するデータをご紹介しました。お子様たちの精神疾患を予防するためにも、若年層および妊娠適齢期世代の女性における食生活の乱れと肥満率の高さは看過できないレベルまできています。加えて現在の食料インフレと妊娠適齢期世代への国民負担率の増加・・・
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