Developmental Origin of Health and Disease(DOHaD:将来の健康や質病リスクは胎児期や生後早期の環境の影響を強く受けて決定されるという概念)
では、子宮内での発育状態が子孫の長期にわたる身体機能と生理機能を修飾するとされている。したがって、妊娠中及び出産後の母親の栄養摂取状態は子供の生涯にわたる健康に影響を与えると考えられる。
下の研究は、日本の妊婦を対象に食事指標であるNutrient-Rich Food Index 9.3(NRF9.3)とEnergy-adjusted dietary inflammatory index(E-DII)の両方を用いて、母親の食事の質と炎症の可能性を評価したもの。
結果、食物繊維やビタミン、ミネラルが食事の質に影響を与える主要な栄養素であることが判明。野菜や果物の摂取量が多いほど食事の質が高くなり、炎症の可能性が低くなることがわかった。
これらの食品群の摂取を促進することは、妊娠中の女性にとって有益であり健康的な食生活の実現につながる結論。
Application of the Nutrient-Rich Food Index 9.3 and the Dietary Inflammation Index for Assessing Maternal Dietary Quality in Japan: A Single-Center Birth Cohort Study
・妊娠中の栄養需要増に対応できない母親の食事摂取量の不足は、低出生体重児、早産、子宮内胎児発育遅延などのリスク要因となる。
・これまでの研究では胎児の神経発達には、メチルドナー栄養素(葉酸、コリン、メチオニン)微量栄養素およびオメガ3脂肪酸の摂取が特に重要であることがわかっている。
NRF9.3は食品の栄養価をスコア化するために開発されたものだが、最近では個人が摂取する食事の栄養価を評価するためにも使用されている。
E-DIIは食事由来の炎症能力を示す指標で、食事評価のためのすべてのヒト研究に普遍的に適用できるように設計されている。
・本研究ではNRF9.3指標とE-DII指標を用いて、日本人妊婦コホートの母親の食事の質と炎症の可能性を評価した。NRF9.3スコアの平均値(SD)は602(106)、E-DIIスコアは1.00(1.55)であり、NRF9.3スコアとE-DIIスコアは有意な逆相関を示した。
・各指標のスコアに大きな影響を与える栄養素を特定した。NRF9.3スコアでは、食物繊維、鉄分、カリウム、マグネシウム、ビタミンCが3分位ごとのスコアの変化に寄与していた。一方E-DIIスコアでは、食物繊維、ビタミンA、ナイアシン、ビタミンE、β-カロテン、マグネシウム、ビタミンB1、ビタミンC、亜鉛、ビタミンB6、葉酸が上位層でのスコアの変動に寄与している。
・NRF9.3またはE-DIIで評価した食事の質と摂取量が正の相関を示した食品群は野菜と果物であった。また、小麦粉および小麦製品の摂取量は、E-DIIで評価した炎症性疾患の可能性と正の相関があった。
・適性栄養素のうち、鉄、ビタミンA、ビタミンDの摂取が不十分であることが示唆された。
・最終的なE-DIIスコアの上昇の主な原因は、食物繊維、ビタミン、ミネラルの摂取量が少ないことであることが示唆された。興味深いことに、今回のコホートでは、飽和脂肪酸、総脂肪、炭水化物の摂取量はE-DIIスコア上昇の主要な要因ではなかった。
・NRF9.3およびE-DIIにおいて、摂取量が食事の質の向上と正の相関を示した食品群は豆類、野菜、果物、魚、貝類であった。
・以前の研究では、妊娠中にパンや菓子、清涼飲料水が多く、魚や野菜が少ない食事をしていると、低出生体重児になる可能性があるとされていた。別の研究では、野菜の食事パターンを守ることが子癇前症のリスク低下と関連する可能性があると報告されている。最近のレビューでは、野菜や果物の消費量が多いと、早産や低体重児出産のリスクが低くなることが報告されている。
・本研究は、サプリメントではなく食品の摂取を通じて食事の質を調べた。サプリメントに含まれる栄養素は、食品に含まれる栄養素と同じようには代謝されないため、サプリメント使用者には過剰摂取の危険性がある。また健康的な食生活を維持するという観点から、今回の調査ではサプリメントからの摂取は除外した。