腸-脳軸への関心が高まり、多くの研究が発表され続けている。
腸内細菌叢のへの介入が、不安、うつ、認知機能を治療するための新たな手段となる可能性があり、現在、腸内細菌叢が中枢神経系機能に影響を与えるメカニズムとして、微生物組成の変化、免疫不活化、迷走神経活性化、トリプトファン代謝、腸管ホルモン反応、神経活性物質などの細菌代謝産物の産生などが挙げられている。
本日のブログタイトルは「妊娠中および産後うつの改善に対するプロバイオティクスの有効性」。
実際に、腸内細菌叢組成の変化は周産期の女性や出産後の子孫に影響を及ぼすのだろうか?
現在、腸内細菌叢の多様性低下は母親や子孫のうつ病や不安症などの精神疾患と関連するという証拠が存在する。周産期における母親のメンタルヘルスを改善するアプローチの1つとして腸-脳軸を標的とした腸内細菌叢の調節が提唱されている。
プロバイオティクスとプレバイオティクスに関する国際科学協会のコンセンサスステートメントは、プロバイオティクスを「適量の投与で宿主に健康上の利益をもたらす生きた微生物」と定義し、プロバイオティクスとプレバイオティクスの投与は、微生物叢-腸-脳軸のホメオスタシスを達成することができるとしている。
よく設計された臨床試験やメタアナリシスに基づくプロバイオティクスの用途は、抗生物質やクロストリジウム・ディフィシル関連下痢症、過敏性腸症候群、炎症性腸疾患などのの治療や予防、不安、創傷治癒、さらにはうつ病など多岐にわたる。
腸-脳軸に対するプロバイオティクスの影響については、不安障害患者における不安症状の緩和、ストレス条件下における健康な若年成人の精神状態、睡眠の質、腸内細菌叢の改善、大うつ病性障害患者における精神症状や腸管関連形質、認知機能の改善など、最近の臨床試験で肯定的な結果が得られている。
母親と乳児の相互作用は、気分、抑うつ、母親の行動様式、年齢、生物学的リスク、障害、気質、過敏な乳児といった母親と乳児の特性など様々な生物学的要因によって媒介される可能性がある。
周産期におけるうつ病は母親の幸福に悪影響を及ぼし、早産や低体重児、低妊娠期間児など、より悪い出産結果をもたらす可能性があることから、公衆衛生上の重要な問題となっている。
周産期うつ病が子どもの発達に影響を与えるメカニズムとして、母子相互作用と母親の反応・感受性、そして急速に発達する乳児の脳が仮説として挙げられている。
特定のプロバイオティクス株が、糖尿病性乳腺炎、細菌性または酵母性膣炎を減らすだけでなく、膣の健康、アレルギースコア、免疫因子、母親の精神衛生(うつ、不安症状の改善を含む)、周産期および産後の母親の健康に有益であることが臨床試験で示されている。
プロバイオティクスが母親のメンタルヘルスに影響を与えるメカニズムとして、腸-脳軸の操作が考えられる。また、プロバイオティクスは乳児のマイクロバイオームを調節し、乳児の健康を改善する結果、間接的に母親の気分の改善につながり、母親のメンタルヘルスに間接的に影響を与える。
リンクのレビューは、国際的なデータベースを介して無作為化対照試験を検索し、母親のメンタルヘルスに対するプロバイオティクスの有効性を評価したもの。
2022年1月まで、Cochrane Library、PubMed、Scopus、ScienceDirect、Web of Scienceを検索。
可能な限りCochrane Collaborationの方法論を用いてメタ分析。
プロバイオティクスと母親のうつ病および/または不安を取り上げた臨床試験が7件該当し、これらのうち5件は腸-脳軸に対する母親のプロバイオティクス補給の影響を調査。
2件は、乳児へのプロバイオティクス補給と、その後の疝痛児の泣き声への影響を通じて、母親のうつ病に対するプロバイオティクスの間接的な影響を調査。
・メタアナリシスでは、選択したプロバイオティクスの全体的な有益性は明確に証明されなかったが、特定の菌株が母親のメンタルヘルス改善に何らかの影響を与えることが証明された。
さらに、妊娠中または産後女性が直接摂取した特定のプロバイオティクス株は、うつ病の減少にわずかな影響を示した。
・乳児へのプロバイオティクス補給は疝痛症状の改善につながり、間接的に産後うつ症状の軽減に影響することが示された。
・母乳育児中の母親へのプロバイオティクス補給や乳児への直接補給が、乳児にとって健康なマイクロバイオームの発達、疝痛や逆流の減少、健康な免疫系発達、アトピー性湿疹リスク減少など、いくつかの利益をもたらす。
・いくつかの研究では乳腺炎の予防や治療、免疫学的要因の改善だけでなく、膣炎の減少や膣の健康全般の改善など、母親に対するプロバイオティクス補給のプラスの効果も見出された。
・一方、最近のレビューでは、妊娠糖尿病予防のためのプロバイオティクス投与により子癇前症のリスクが増加する可能性があり、注意が必要であると警告している。
・妊娠していない健康な成人を対象に行ったシステマティックレビューとメタアナリシスでは、プロバイオティクスが健康な被験者の感情的ストレスレベルを下げ、ストレス関連の閾値以下の不安/うつレベルを緩和することを示唆すると結論付る報告がある。
・心理的苦痛は初めて子育てをする母親にとって非常に現実的な問題であり、抑うつ症状や不安ストレスは、母親の気分や子供との絆に影響を与える可能性がある。したがって、妊娠中にプロバイオティクスを摂取している母親が、出産後もプロバイオティクスの補給を継続することは有益であると考えられる。プロバイオティクスは、重要な支持療法となる可能性がある。
・Lacticaseibacillus rhamnosus HN001が精神衛生に有益な効果を示す研究があるが、他の研究で使用された同じ種の別の株、すなわちLacticaseibacillus rhamnosus GGはプラセボグループと比較して精神衛生にいかなる有益性も示さないと報告された。
・プロバイオティクスの混合物による相乗効果の可能性を考慮することも重要だが、今回のレビューでは、精神的健康に対するLacticaseibacillus rhamnosus HN001株の有益な効果は、Bifidobacterium animalis subsp.lactis 420と組み合わせても、HN001株のみを補充した場合と比較して大きくはなかった。
・Lactobacillus acidophilus La5とBifidobacterium animalis subsp.lactis Bb-12の2つの菌株プロバイオティクスも健康上の特異的効果が見出された。
この菌株の組み合わせは妊娠中の精神的健康の改善をもたらさなかったが、便秘の減少が観察された。
・乳児疝痛は母親の抑うつ症状スコアが高く、QOLスコアが低いことが知られている。
今回のレビューに含まれる2つの臨床研究では、同じ株のLimosilactobacillus reuteri DSM17938を使用。
母親のメンタルヘルス症状における統計的に有意な改善は一件の研究でのみ見られた。
Limosilactobacillus reuteri DSM17938などのプロバイオティクスを授乳中の母親や乳児に適時投与することで、乳児疝痛を軽減し、乳児に有益であると同時に母親の精神衛生にも間接的に影響を与える可能性がある。
・乳児に直接プロバイオティクスを補給する場合の利点は母親の腸脳軸を経由していないこと。
母乳育児と同様に、出産形態も乳児の微生物叢に影響を与えることは知られている。帝王切開で生まれた乳児は経膣分娩で生まれた乳児と比較して腸内細菌叢が異なっている。経膣分娩で生まれた乳児と完全母乳育児の乳児はビフィズス菌が優勢な腸内細菌叢を持つ。
したがって、帝王切開で生まれた赤ちゃんや母乳だけで育てていない赤ちゃんには、乳児用プロバイオティクスの補給が必要かもしれない。
・母親のメンタルヘルスは非常に複雑であり、腸-脳軸や乳児の気分など他の外的影響に影響されることがある。現在のエビデンスでは、特定のプロバイオティクス菌株が母親のメンタルヘルスにプラセボよりも優れていることが示されている。
・臨床試験の分析から、菌株の選択は、プラセボと比較して統計的に有意な差を示す最も決定的な要因の1つ。Lacticaseibacillus rhamnosus HN001株は、産後も母体への補給を継続した場合、母体の抑うつ症状の軽減に有効。プロバイオティクスLacticaseibacillus reuteri DSM17938株の乳児への補給は、疝痛症状がピークに達する前に補給した場合に疝痛の軽減に有効で、したがって、間接的に母親のうつ症状を軽減する。