先日のnoteに続き心血管機能に関するデータをまとめてみたい。
今回のテーマはマグネシウム。
マグネシウム(Mg2+)は、心臓の鼓動、内皮機能、止血など心血管系機能の維持において重要な役割を持つ必須栄養素。
しかし現代の成人ではマグネシウム不足が顕在化しており、健康リスクの増加が懸念されている。
Mg2+は心血管機能の他に、DNAやRNAの安定性、細胞増殖、骨代謝、神経筋機能の調節、炎症調節など多くの生理的機能に関連する。
リンクのレビューは、食事性マグネシウムの欠乏が心血管機能やその他の病態に与える影響、および心血管系疾患の予防と治療、健康管理にマグネシウムサプリメントを使用する可能性を示したもの。
Magnesium Deficiency and Cardiometabolic Disease
マグネシウム濃度
・血清マグネシウム濃度が正常でも骨格や細胞のマグネシウム濃度が低い場合があり、マグネシウム欠乏症/欠乏症の診断には困難が伴う。マグネシウム負荷の排泄率が80%未満(24時間以上)であればマグネシウム欠乏症の可能性がある。また、スポット尿または24時間採尿でマグネシウムとクレアチニン比率を測定する。
2020年には、マグネシウムの状態を測定する際は総マグネシウムではなく、イオン化Mg2+を使用することが望ましいことが示唆された。
・マグネシウム欠乏は、糖尿病、肥満、感染症、栄養失調などの他の疾患と関連し、プロトンポンプ阻害薬などの薬も著しいマグネシウム欠乏を引き起こすことがある。
・血漿マグネシウム濃度を調査した結果、クエン酸マグネシウムは酸化マグネシウムや硫酸マグネシウムよりも24時間尿中排泄量をより顕著に増加させた。
クエン酸マグネシウムと硫酸マグネシウムは胃腸の不調につながりやすかったが、酸化マグネシウムではそのようなことはなかった。
サプリメント摂取後、マグネシウム濃度が定常状態になるには20~40週間かかる。
アスパラギン酸マグネシウムは筋力低下や痙攣を改善するためのサプリメントとして一般的でありり、高い経口バイオアベイラビリティと水溶性を示す。その他のマグネシウムとして、オロチン酸マグネシウム、ピドリン酸マグネシウム、ビスグリシン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、アセチルタウリン酸マグネシウムが一般にサプリメントとして使用されている。
肥満と糖尿病におけるマグネシウムの欠乏
・糖尿病はしばしば低マグネシウム血症に関連する。1型糖尿病(T1DM)または2型糖尿病(T2DM)患者は、糖尿病ではない対照群と比較して血清マグネシウムが低下しやすい。1型糖尿病患者では年齢をマッチさせた対照群と比較して血漿マグネシウムの平均濃度が有意に低いことが示されている。この相関は女性患者で顕著だった。
・インスリンと低マグネシウム血症の間の直接的なメカニズム的関連を示唆する証拠はないが、
HbA1c値はT1DM患者の血清マグネシウム濃度と負の相関があることが示されており、血糖コントロール不良が低マグネシウム血症につながることが示唆されている。
・T2DMはT1DMよりもゆっくりと発症し、糖尿病前段階を経て進行する。メタボリックシンドロームは、高血圧、インスリン抵抗性、中心性肥満、アテローム性脂質異常症などの病態を指し、T2DMの危険因子になる。低マグネシウム血症はT2DMの発症に寄与するというよりも、むしろ糖尿病によって引き起こされると考えられてきたが、2015年のメタアナリシスではマグネシウム摂取量とT2DMの間に逆相関があることがわかっている。
また2017年のメタアナリシスでは、循環マグネシウム濃度とT2DMだけでなく、慢性心疾患や高血圧との間に逆相関があることが発見されている。
・代謝の悪い人を対象とした介入試験では、マグネシウムサプリメントを摂取した糖尿病予備軍の男性はプラセボと比較してT2DMの発症が22.3%少なく、費用対効果の高い予防法としてサプリメントの摂取が支持されている。
また肥満患者を対象とした研究では、肥満手術後9ヶ月で血清マグネシウム濃度が13.2%上昇し、HbA1cが減少した。
・T2DMが発症してもマグネシウム欠乏は治療可能であり、欠乏状態を改善することを示唆する証拠がある。マグネシウム欠乏は合併症を悪化させることが示されており、逆にマグネシウムの補給は合併症から保護することが示されている。さらに、マグネシウム補給がT2DM関連バイオマーカーレベルを平均的に改善する可能性が明らかにされている。マグネシウム補給が高血圧や血糖コントロールなどのリスクバイオマーカーを改善することでT2DM発症リスクを低減し、発症後の害を最小限に抑える費用対効果の高い方法であるという概念を、現在のエビデンスは支持している。
マグネシウムの心血管系における役割
心筋の収縮
・心筋に対するMg2+の作用は虚血と不整脈に対する保護作用。血管拡張作用と同様にCa2+の過負荷を防ぐことができる。心拍数、収縮力、カテコラミンによる酸素消費量を低下させ、ATP依存性反応を調節し、心筋の長期的な損傷を防ぐ抗酸化剤として作用する。
・Mg2+の抗不整脈作用は電位依存性Ca2+チャネルおよびNa+チャネルの調節による。心筋に対する保護作用は多く研究で示されており、マグネシウムは心筋梗塞や心房細動後の心筋合併症の予防や治療として使用されている。
血管の働き
・Mg2+は血管機能に重要であるという考え方が研究によって支持されている。血管拡張と血管収縮は血流を組織の需要に合わせる。Mg2+は血管を拡張することで様々な血管の血流を改善することが確認されている。これはMg2+が収縮性平滑筋細胞へのCa2+の輸送に拮抗するためである。
・平滑筋への直接的な作用に加え、他の組織からのシグナルに影響を与えることでMg2+が血管動態を調節できることも研究により示されている。Mg2+は交感神経刺激に応答して放出される血管収縮性神経ホルモンであるノルアドレナリンの神経末端からの放出を抑制することが記録されている。また、Mg2+は内皮に作用して血管作動性化合物の産生を変化させる。
・Mg2+は血管拡張物質である一酸化窒素とプロスタサイクリンの産生を増加させる。
特に硫酸マグネシウムは強力な血管収縮物質であるエンドセリン1の胎盤発現の減少に関連する。
・Mg2+それ自体が内皮の健康と機能にとって重要であることを示す証拠もある。マグネシウムが少ない培地でヒト内皮細胞をin vitro培養すると、酸化ストレス、炎症、細胞内の脂質の蓄積を引き起こす。
・Mg2+が血管系に重要と思われるもう一つの構成要素は細胞外マトリックス(ECM)で、ECM構成は一般に弾性タンパク質と繊維状タンパク質組成と配置である。ECMは構造的な足場として極めて重要な役割を担っている。この構造の完全性に寄与するマトリックスタンパク質はHAで、Mg2+はHA合成酵素の活性と正しいフォールディングに必要。
さらにECMは血管細胞の移動、接着、増殖、分化および生存など多くの細胞プロセスに関与している。ECMが血管細胞の挙動を制御する主要タンパク質は膜貫通型レセプターのインテグリンファミリーに属する。インテグリンはECM成分と結合して活性化し、細胞内のシグナル伝達カスケードを開始する。インテグリンには金属イオン依存性接着部位があり、インテグリンとリガンドの相互作用はMg2+濃度に依存している。
止血作用
・マグネシウムは第IX因子および膜結合型凝固タンパク質の補因子として、またプロスタグランジンやトロンボキサンを含む炎症性メディエーターを生成するエイコサノイド合成経路の制御因子として止血に関与している。第IX因子の遺伝子変異は血友病Bの特徴で、生命を脅かし、寿命を縮める血液凝固障害である。Mg2+は第IX因子の立体構造を安定化させ、活性化させることが示されている。さらにMg2+は第X因子を活性化する組織因子-第VIIa因子複合体の活性を高めることにより、凝固初期段階において重要であると考えられている。
7種類の凝固酵素はγ-カルボキシグルタミン酸に富む(GLA)ドメインを介して細胞表面に結合している。GLAドメインのフォールディングはCa2+とMg2+の両方に依存している。
マグネシウムの効果
マグネシウム欠乏による心血管系への影響
・マグネシウムは血管平滑筋、心臓の刺激伝導、血管内皮細胞の機能、血栓調節に作用することから心血管系の健康にとって必須栄養素。
低マグネシウム血症や食事性マグネシウム摂取量の減少は冠動脈疾患(CAD)発症リスクが高くなる。低マグネシウム血症はうっ血性心不全(CHF)やCADにつながる高血圧と関連している。
高血圧
・Mg2+摂取と高血圧の関連性についてのエイビデンスは確立されていないが、適切なMg2+摂取が高血圧有病率を低下させる可能性を示す証拠が増えてきている。
食事性マグネシウムと血圧の関係を調べるためにアメリカの国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いた大規模な横断研究では、食事性Mg2+と血圧および/または高血圧の逆相関が一貫して報告されている。欧州の分析では、食事性Mg2+摂取量が200mg/日を下回ると高血圧リスクが高くなることが判明した。
NHANESデータ分析では、Ca2+の高血圧予防効果は、女性が推奨量Mg2+を摂取し、男性が推奨量以上のMg2+を摂取している場合に限られるという興味深い結果も出ている。
またMg2+は、ビタミンDと収縮期血圧(SBP)の負の相関を有意に増強することが報告されている。
・子癇前症は妊婦の2~8%が罹患している。子癇前症の原因は不明だが低マグネシウム血症が関連していることが知られている。10,000人以上の女性を対象に行われた子癇前症治療における硫酸マグネシウムの有用性に関する研究では、硫酸マグネシウムを投与された女性はプラセボを投与された女性に比べて子癇前症リスクが58%低かった。死亡率も硫酸マグネシウムを割り当てられた女性で低かったが、赤ちゃんが死亡するリスクには差がなかった。
マグネシウム補給は子癇前症リスクを50%以上低下させることが示唆された。
心機能
・2018年の研究では、高血清マグネシウムとCADリスク低下との因果関係が示された。
・心房細動は虚血性脳卒中の一般的かつ重要な危険因子で、これは心房で血栓が形成され脳で塞栓することが原因。心房細動のある人は虚血性脳卒中になる可能性が5倍も高い。一般集団では、血清マグネシウム低下は心房細動リスク上昇と関連している。
・QT間隔の延長など心臓伝導異常は生命を脅かす不整脈につながる可能性がある。
低マグネシウム血症はQT間隔の延長と関連している。
・低マグネシウム血症は心不全と関連し、心臓が体の循環要求に応えられない状態。食事性マグネシウムが1日100mg増加すると、心不全リスクが22%減少することがわかっている。
マグネシウム欠乏は心筋細胞におけるエネルギー生産の異常につながる可能性がある。
血管疾患
・低マグネシウム血症は慢性腎臓病(CKD)患者における心血管系死亡率の上昇と関連している。CKDに関連する心血管系疾患の1つに高リン酸血症による血管石灰化があるが、マグネシウムには血管石灰化を抑制する作用があり、動物実験や人体実験でサプリメント摂取が好影響を与えることが示されている。
・マグネシウム欠乏は血管の炎症を含む慢性低悪性度炎症と関連している。
またマグネシウムの欠乏は、炎症性分子であるIL-1、IL-6、TNF-α、VCAM、PAI-1の産生増加や、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキサイドディスムターゼ、カタラーゼ、ビタミンC、ビタミンE、セレンといった抗酸化物質の減少に関連する。
・頸動脈の内膜中膜厚の増大は低マグネシウム血症と関連し、血栓促進およびアテローム促進状態につながる可能性がある。