肺がんは世界で2番目に罹患率の高い癌である。
肺がん患者において一般に観察される「フレイル」は座りっぱなし、疲労、体重減少、筋力低下など相関する複数の生理的システムの機能低下を特徴とし、ストレス要因に対する脆弱性の増大を伴う。
肺癌患者におけるフレイル有病率は28〜61%と推定され、フレイルは有害転帰リスクを高め、QOLと生存率を低下させ、フレイルでない患者と比較して死亡率を3倍近く上昇させることがわかっている。
フレイルに対する有効な治療法はなく、最も効果的な介入方法はまだわかっていない。
肺癌患者におけるフレイル有病率の高さとその重篤な有害転帰を考えると、肺癌患者におけるフレイルの危険因子とその根底にあるメカニズムを明らかにすることは非常に重要。
過去の研究では、フレイルの危険因子には、年齢、性別、BMI、所得、併存疾患、心理状態(抑うつ症状、認知)、行動因子(生活習慣、喫煙・飲酒、食事、運動不足)が含まれる可能性が示唆されている。
中でも食事はフレイル発症の重要な要素であると提唱されており、特定の微量栄養素やタンパク質摂取量が少ないとフレイル発症リスクが高くなる。
不健康な食事パターン(例えば欧米食)はフレイルリスクの上昇に関係し、健康的な食事パターン(野菜や果物が豊富な食事や地中海食)はフレイルリスクの低下に関連する。
専門的な食事指導の欠如や化学療法の副作用のため、多くの肺がん患者は診断後や治療中に食事の質が低かったり無理な食事構成を導入しており、これが虚弱の原因となって重篤な転帰につながる可能性がある。
リンクの研究は、肺がん患者における食事構成とフレイルの関連性および腸内細菌叢が関与する可能性のある役割について検討したもの。
肺がん患者231人を対象に3日間24時間の食事リコールおよびFried frailty基準を用いて、食事摂取量およびフレイル状態を評価。また50の糞便サンプルを採取。
合計75人の患者が虚弱で、これはエネルギー、タンパク質、炭水化物、食物繊維、ナイアシン、ロイシン、いくつかのミネラルの摂取量が有意に少なかった。
これらのうち、炭水化物、カルシウム、セレンは虚弱と有意に相関していた。
フレイル患者では腸内細菌叢β多様性が有意に低く、アクチノバクテリア門の相対存在量が高かった。
肺癌患者におけるフレイルは、腸内細菌叢の調節を通じて栄養素の不足や食事の質の低下と関連している可能性がある。
Diet Is Associated with Frailty in Lung Cancer: A Possible Role of Gut Microbiota
・肺がん患者におけるフレイルは、炭水化物、カルシウム、セレンの摂取不足と関連している可能性が示唆された。食事の質が高いほどフレイルと負の相関があり、食事の質の向上がフレイルリスクの低下と関連している可能性が示された。
・フレイル患者では腸内細菌叢の多様性が低く、不健康な微生物叢組成が認められた。
・フレイル患者の平均年齢は非フレイル患者よりも有意に高かった。これはフレイルが加齢に伴う多くの生理的システムの低下の結果として発症し、その結果、些細なストレス要因によって引き起こされる突然の健康状態の変化に対して脆弱になるためかもしれない。肺がんそのものだけでなく、癌治療も患者の生理的予備能に対して重大な追加的ストレス因子となり、虚弱に対する脆弱性を増大させる可能性がある。
・フレイル患者のBMIは非フレイル患者より有意に低かった。過去の研究では、BMIとフレイルとの間にU字型の相関があることが報告されており、正常範囲外の不健康な体重状態である低体重と肥満の両方がフレイルリスクの増加と有意な相関を示した。
・多くの研究で、高タンパク質摂取はフレイルや個々のフレイル要因と逆相関することが示されている。通常の食事で高タンパク質を摂取することは、タンパク源やタンパク質を構成するアミノ酸に関係なくフレイルを予防する可能性がある。
65~79歳の健康な女性24,417人を対象とした研究では、タンパク質摂取量が多い女性は追跡期間中にフレイルになる可能性が有意に低かった。タンパク質摂取量が20%増加すると(タンパク源に関係なく)、フレイル発症が32%減少した。
・60歳以上の米国人4731人のデータによると、1日のエネルギー摂取量はBMIとは無関係に、フレイル患者で最も少なく、次いでフレイル予備軍が多く、非フレイル群が最も多いことがわかっている。
中国の65歳以上の802人のデータでも、フレイル患者は1日のエネルギー摂取量が21kcal/kg未満であることと関連していることが示されている。
・微量栄養素の摂取量もフレイルと直接的な関連がある可能性がある。
カロテノイド、セレン、マグネシウム、葉酸、ビタミンC、ビタミンE、n-3系脂肪酸、総ポリフェノールの摂取量が少ないか血漿中濃度が低いことは、フレイルに関連していることが判明した。
・介入試験では28日間の安静期間中に必須アミノ酸と炭水化物を補給することで、筋肉量の減少が改善することが示された。
また20gの蛋白質、24.2gの炭水化物、13gの脂質、3gの食物繊維、500IUのビタミンD、480mgのカルシウムを含む栄養補助食品と身体活動の併用は、施設に入所しているフレイル高齢者の機能状態を改善した。
・サルコペニア患者は、非サルコペニア群と比較してセレンの摂取量が少ないことが示されている。
・筋タンパク質合成を活性化するロイシンは、mTORC経路を活性化することでフレイの制御に重要な役割を果たしている。ロイシンを含む血漿アミノ酸プロファイルの変化は、筋肉量低下と関連している。この研究では、フレイル患者は非フレイル患者に比べてロイシン摂取量が少なく、血漿中ロイシン濃度が高いことが観察された。
これは、虚弱患者は代謝合成抵抗性の状態にあり、抵抗性を克服して筋タンパク質合成を刺激するためにより多くのロイシンが放出されることに起因しているのかもしれない。
・地中海食パターンの遵守は特定の有益な腸内細菌の増加と関連し、フレイルリスクの低下と正の相関が観察された。
・プレバイオティクスの介入により、疲労度や筋力といったフレイル指標に有意な改善が認められた。
・マウス研究では、腸内細菌叢を奪うとタンパク質合成よりもタンパク質分解の方が高くなるため、筋肉量が減少した。
・炎症とそれに続く骨格筋量および骨格筋機能の低下を制御する微生物であるアクチノバクテリア門がフレイルの肺がん患者で増加していた。また、ポリフェノール代謝によって尿石タンパク質を産生する能力を特徴とするGordonibacterがフレイル患者で増加し、Bacteroidotaの相対存在量は減少していた。Bacteroidotaの中には、多糖類やオリゴ糖を代謝して宿主や他の腸内微生物に栄養やビタミンを供給することで腸内で有益な役割を果たす種と、他の体内で病原性の役割を果たす種がある。