非アルコール性脂肪肝(NAFLD)のメカニズムは複雑で、メタボリックシンドローム、遺伝的感受性、生活習慣、環境因子などいくつかの要因が関連していると現時点で考えられている。
また、NAFLDの発症・進行に腸内細菌叢とその代謝産物が不可欠であることを示す研究も近年蓄積されている。腸内細菌叢と短鎖脂肪酸(SCFAs)を含む微生物代謝産物の変化は、腸-肝臓軸を通じて脂肪化と線維化を加速させる可能性があるという。
近年、NAFLDやメタボリックシンドロームを緩和するための腸内細菌叢の変化に関するアプローチが臨床および前臨床試験で検討されており、サプリメントの利用は健康上の利点と低毒性プロファイルから大きな注目を集めている。
最近のデータでは、ライチ種子抽出物が肥満を予防し、腸内細菌叢の調節によりNAFLDを緩和する役割があることが示唆されている。
しかし、ライチ種子抽出物のNAFLDおよび腸内細菌叢の変化に関する有益な役割について臨床研究では検討されていない。
リンクの研究は、ライチ由来ポリフェノール「オリゴノール」が、NAFLD患者の肝脂肪症および腸内細菌叢の異常を改善するかどうかを検討したもの。
グレード2以上の脂肪症を有する成人を、24週間オリゴノールまたはプラセボのいずれかに無作為に割り付け。0週目から24週目までのMRI-PDFF値の有意な減少がオリゴノール群で観察されたが、プラセボ群では有意な減少は見られなかった。
オリゴノールによる細菌叢の変化は、Dorea、Romboutsia、Erysipelotrichaceae UCG-003 および Agathobacterといった病原性細菌の存在量の減少、Akkermansia、Lachnospira、 Dialister および Faecalibacteriumなどの短鎖脂肪酸(SCFAs)生産細菌の存在量の増加が特徴だった。
この研究は、NAFLD患者における脂肪沈着の緩和に対するオリゴノールの有益な効果が、腸内細菌叢およびその代謝産物の調節を介して起こり得るという証拠を初めて提供するもの。
NAFLDの治療において、生活習慣の改善を超えたオリゴノールの補完的な役割を推奨する、と結論。
・オリゴノールはライチ由来のポリフェノールで、in vitroおよびin vivoの試験において抗酸化ストレス、抗肥満、抗がん効果を示すことが明らかになっている。
・この研究では、オリゴノールがMRI-PDFFで測定される肝脂肪症を改善することが報告された。さらに、空腹時血糖値、肝生化学検査値、BMIなどの他の臨床検査値も有意に低下し、ウエスト周囲径も低下する傾向がみられた。オリゴノールは腸内細菌叢およびBCoATレベルの改善と関連し、特に脂肪率が有意に改善された患者で顕著だった。
これらの結果はNAFLDの発症における腸内細菌の病的な影響を示唆しており、オリゴノールサプリメントによって部分的に改善される可能性がある。
・オリゴノール群のみ治療終了時のMRI-PDFFの有意な低下が認められたが、プラセボ群ではそのような変化は認められなかった。
・オリゴノールによる脂肪沈着改善には、その抗炎症作用や脂質代謝の調節など、いくつかのメカニズムが関係している可能性がある。
2型糖尿病モデルマウスにおいて、オリゴノールはステロール調節エレメント結合タンパク質-1のダウンレギュレーションを介して、酸化ストレスの減少および肝脂質の低下による肝損傷の抑制が示された。
・この研究では、オリゴノール群は対照群に比べて運動量や推奨食の遵守が比較的少ないにもかかわらずBMIが有意に低下したことに注目。オリゴノールが体重減少に対して直接的な調節効果を持つことを示している可能性がある。
・抗肥満効果に関しては、前臨床実験においてオリゴノールが脂肪分解を促進し、主要な脂肪生成遺伝子を抑制することによって脂肪生成を効果的に阻害することが示された。
・日本で行われた試験では、10週間のオリゴノール摂取で内臓脂肪およびインスリン抵抗性が減少し、体重減少およびメタボリックシンドロームが改善することが示された。
・本研究では、NAFLD患者は健常者と比較して腸内細菌の多様性が減少しており、腸内細菌叢の特徴も異なっていることが明確に示された。
NAFLD患者は対照群と比較して、ファーミキューテス門の存在率が高く、バクテロイデス門の存在率が低いことが示された。
・NAFLD患者ではEscherichia、Streptococcus、Dorea、Shigella、Roseburia、Ruminococcus属が増加し、AlistipesとOscillibacterが有意に減少しており、これらは過去のデータと一致した。
・これまでの動物実験では、ライチ由来抽出物が腸内細菌叢組成を調節することによってNAFLDに有益な機能を発揮することが報告されている。
例えば、アルコールを摂取させたマウスを用いた研究では、ライチ抽出物が腸内細菌叢の異常と腸管バリアー機能障害を改善することで肝保護効果を示すことが実証されている。
さらに、ライチ果肉フェノールサプリメントは、デキストラン硫酸ナトリウム誘発大腸炎において、有益な細菌(例えば、Akkermansia、Lactobacillus、CoprococcusおよびBacteroides uniformis)の存在量の増加と有害細菌(EnterococcusおよびAggregatibacter)の存在量の減少につながることが確認された。
・ライチ種子エキスは、Cetobacterium、Trichococcus、AeromonasおよびStaphylococcusなどのSCFA産生菌の割合が増加することにより、腸内細菌叢の組成を変化させる可能性があることが示された。
・身体活動と栄養の調節を組み合わせることで、細菌叢のバランスを回復し、腸の健康を改善できる可能性があることが他の研究でも実証された。
・今回の結果は、オリゴノールサプリメントが病原性細菌を減少させることにより、NAFLD患者の腸内健康を改善する可能性があることを実証した。
・細菌が生成するSCFAsは、腸管上皮の増殖促進や腸管バリアーの強化など、様々な生理的機能を担い、エネルギー調節、免疫活性および炎症反応を調節する能力も有している。
動物およびヒトの研究において、SCFAs産生菌の多さが肝臓の炎症および脂肪沈着と負の相関があることが示されている。
SCFA産生を増加させる栄養補助食品で腸内環境異常をターゲットにすることは、NALFDおよび過体重の患者における有望な戦略である可能性がある。
・オリゴノール投与後、Akkermansia、Lachnospira、Faecalibacterium、Dialisterがプラセボ群に比べ有意に増加することが分かった。中でもFaecalibacteriumは、腸内生理に必須の役割を果たす主要な酪酸産生菌であり、腸内環境のバイオマーカーとして認識されている。Faecalibacteriumは動物実験において、肝脂肪量と脂質組成を調節し、脂肪組織の炎症を減少させることが報告されている。
・NAFLD患者にけるフェカリス菌の枯渇は肝線維化の重症度と正の相関があった。
・アッカーマンシアは、肥満や2型糖尿病、NAFLDなどの代謝性疾患に対する予防効果に一貫して関係していることが分かっており、腸管上皮の健全性を維持する機能や、他の有益な細菌の増殖を促進する能力があり、次世代のプロバイオティクス候補として認知されている。
最近では、アッカーマンシアが脂肪合成と肝炎を制御する遺伝子発現を調節することで、NAFLD の発症を予防できることが動物モデルで示されている。
上記のデータを総合すると、オリゴノールの有益な役割は腸内細菌の減少に対する改善効果に関連しており、その結果代謝障害を改善し、肝脂肪症を減少させることを示唆している可能性がある。