今回のメモは当院もご相談が多い変形性膝関節症(KOA)に関するデータです。
世界的な慢性変性疾患であるKOAの世界的な有病率は40歳以上で22.9%と高く、加齢に伴って関節不安定性と軟骨摩耗が悪化することでKOAリスクが高まり、50歳前後でピークに達する。KOAに罹患する人の60%までが女性で 、有病率は男性の2.6倍。お隣中国では2011年から20年にかけて、重度KOAに対する人工関節置換術を受けた患者の4分の3以上が女性だったという。
膝関節における異常負荷とその分布はKOAの重要なリスク因子。関節周囲の筋肉は日常生活における膝の安定化に極めて重要で、関節荷重負荷の主要調節因子として機能する。KOAは筋力低下や筋の異常活性など大腿部筋機能の著しい低下を伴うことが多い。
筋機能障害の程度はKOAの進行に伴って強まり、関節負荷と分布に対する筋の影響が変化することは間違いない。
一方で、重度KOA女性患者における歩行時膝関節接触荷重に対する個々の筋の相対的な寄与を調べた研究はない。
リンクの研究は、KOA患者と健常対照者の歩行時の大腿筋力と関節面接触力の違いを比較したもの。また、関節接触力に対する大腿筋力の寄与パターンが、患者と健常対照者の間でどのように異なるかを探っている。
重度女性KOA患者10名と対照者10名の歩行データを収集し、大腿二頭筋長頭(BFL)、半腱様筋(ST)、大腿直筋(RF)、外側広筋(VL)、内側広筋(VM)の最大等尺力を超音波を用いて検証。
【結果】
KOA患者は対照群と比較してVLとVMの力が増加、RFの力が減少し、さらに内側と全関節面接触力が上昇し、外側関節面接触力が減少した。
患側はVLとBFLに最も依存し、非患側はRFが鍵となった。
【結論】
歩行中、KOA患者は大腿四頭筋とハムストリングスの両側でより大きな力を発揮し、膝荷重を内側に移動させ、患側では大腿外側部の筋により多く依存していた。
ハムストリングスは関節接触力により大きく寄与し、大腿四頭筋の寄与は減少した。
患側では外側広筋と大腿二頭筋長頭の関節接触力への影響が大きく、大腿外側の筋肉とハムストリングスへの依存が増加した。
非患側では大腿直筋への依存度が高かった。
・健常対照群と比較して、KOA患者では大腿四頭筋とハムストリング筋の両筋力が全体的に有意に増加した。
・KOA患者における両側の関節面接触力の変動はより緩やかで、顕著なピークは少なかった。健常対照群と比較して、内側および全関節面接触力はKOA患者で有意に高かったが、外側関節面接触力は有意に低かった。
KOA患者では、患側外側広筋と大腿二頭筋長頭が関節面接触力に大きく寄与し、非患側は大腿直筋への依存度が高かった。
関節面接触力に対するハムストリングスの相対的寄与は増加し、大腿四頭筋の寄与は減少した。
・KOA患者は健常対照群と比較して、患側大腿四頭筋とハムストリングスの両方において全体的な筋力の上昇を示した。平均筋力はVL筋とVM筋で有意に増加し、VL筋、VM筋、BFL筋、ST筋のピーク筋力は対照群の約2倍だった。
・健常対照者と比較して、KOA患者では立脚相における大腿四頭筋とハムストリングスの筋力が増加し、ハムストリングスではピーク筋力が25%増加することが他の研究で明らかになっている。患側大腿四頭筋とハムストリングスの全体的な筋力の増加は、関節を支え、過度の膝関節内転モーメントを打ち消す役割を果たしていると考えられる。大腿四頭筋の拮抗筋であるハムストリングスはKOA患者で共働作用を示すことが知られている。大腿四頭筋とハムストリングスの共収縮は膝のHARD FEELを増大させる可能性があruが、これは歩行の安定性を維持するために大腿筋力が低下した患者で起こる現象である可能性。
・KOA患者の内側および全関節接触力は健常対照群に比べ有意に高く、それぞれ35%、24%増加していた。対して外側関節面接触力は対照群に対して48%減少しており、KOA患者が膝関節内の荷重を外側コンパートメントから内側コンパートメントにシフトさせていることを示していた。
・KOA患者で患側と非患側で関節面接触力に有意差はみられなかったが、これは患者が重度KOAであるためと考えられる。膝関節の退行性変化が進行するにつれて、KOA患者の両膝にかかる負荷の非対称性は減少する傾向にある。
中等度のKOA患者は体重を対側へ移動させることで動作中の患側の痛みを緩和し、対側の関節面接触力を増加させる可能性があるが、この現象はより重度の変形を有する患者では観察されない。
・関節面接触力に対する様々な筋の寄与において、KOA患者と健常者との間に有意差が認められた。KOA患者では関節面接触力に対するハムストリングスの相対的寄与が増加し、同時に大腿四頭筋の相対的寄与が減少した。患側ハムストリングスの全関節面接触力に対する寄与率は37.7%で健常者の16.1%より有意に高く、一方、大腿四頭筋の寄与率は62.3%で健常者の83.9%よりはるかに低かった。
患者の関節接触力に対する個々の筋の寄与率は有意に高い。特に患側のVLとBFLの関節面接触力への寄与が最も大きく、それぞれ43.3%と48.5%に達した。
・・・似たような結果のデータは過去に幾つも発表されてるので、確認の意味でざっと抜粋しました。「関節周囲の筋肉は日常生活における膝の安定化に極めて重要で、関節荷重負荷の主要調節因子として機能」・・・これ以外と響かない方多いんですよね。
少なくても過去に報告されたデータをもとに患者さんにトレーンングを推奨しますが、なんだかんだ理由をつけて運動療法は回避する方が少なくない。
まぁ仕方ないですねぇ。
年末に向けて発表されるデータも少なくなってきました。
今年も多くのデータをアップしてきましが、年内はぼちぼちペースダウンしていきます。