最近抜け毛が著しい。別に全然いいんだけど。
いっそのこと完全に抜け落ちてくれればスキンヘッドにできるし、さっぱりしていいのだが、そううまくいくはずもなく。
じわりじわりと内堀(頭頂部)から毛包幹細胞が攻め立てられ、一本、時にはごっそりと髪が抜け落ちる様は黒田官兵衛の”三木の干殺し”を思い起こさせる。
まだ負け戦と決していない以上、残りの髪で戦うしかない。自害を考えるのは時期尚早である。
今回のメモはより良い毛根の成長を考える上で役立ちそうなデータをまとめてみたい。
髪の毛の成長は、成長期(anagen)、退行期(catagen)、休止期(telogen)、および脱落期(exogen)の4段階からなるプロセスで、毛包(HF)基部にある毛乳頭細胞(DPC)は毛包幹細胞(HFSC)および他の上皮構成要素との相互シグナリングによって毛髪成長サイクルを制御している。
毛包の周期的な活動はパラクリンシグナル経路に依存しており、特にWnt/β-カテニン経路は毛包形成と新しい成長期の誘発において極めて重要。休止状態のHFSCを活性化し、上皮細胞の増殖を刺激することで、DPCは休止期から活動的な成長期への移行を推進する。
また、DPCは毛包細胞の増殖を増加させるインスリン様成長因子1(IGF-1)などの様々な成長因子を分泌する。
酸化ストレスの増加は脱毛をもたらす。皮膚における酸化ストレスは、紫外線放射などの外的要因や、慢性炎症および加齢などの内的要因によって増加する。酸化ストレスは毛包の異常形成と毛周期の調節不全を誘発する。
IGF-1は腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)やインターロイキン-6(IL-6)などの炎症性サイトカイン、および酸化ストレスの増加によって減少する。過酸化水素(H2O2)誘発性の酸化ストレスは、DPCにおけるIGF-1レベルを低下させる。
退行期における活性酸素種(ROS)レベルの増加は毛包の変性を引き起こす。ROSレベルは非禿頭部の頭皮よりも禿頭部の頭皮において高いことがわかっている。
核内因子赤芽球由来2関連因子2(NRF2)は、様々な抗酸化酵素の上方制御を通じて酸化ストレスを減少させるために不可欠。酸化ストレスの増加は、核内因子-κB(NF-κB)活性の増加をもたらし、TNF-α、IL-1β、およびIL-6などの炎症性サイトカインを上方制御する主要な転写因子。
NF-κBはインフラマソームの形成を促進する。最もよく知られているインフラマソームであるNOD様受容体タンパク質3(NLRP3)インフラマソームは、NLRP3、CARD含有アポトーシス関連斑点状タンパク質(ASC)、およびプロカスパーゼ1で構成され、NLRP3インフラマソームの形成を通じてプロカスパーゼ1は成熟型のカスパーゼ1へと活性化され、これがプロIL-1βをIL-1βへと変換する。
ガンマアミノ酪酸(GABA)は、H2O2処理したヒト臍帯静脈内皮細胞において酸化ストレスとNF-κBを減少させ、NRF2を上方制御することで酸化ストレスを減少させる。
L-アラニンも抗酸化効果を示し、ヘムオキシゲナーゼ-1の上方制御を介したH2O2誘発性細胞毒性の減少に寄与する。L-アラニンの摂取はTNF-αおよびNF-κBの活性化も減少させる。
発酵酵母複合エキス(FYCE)は、酵素加水分解された酵母およびコラーゲン基質の2段階乳酸菌発酵を通じて得られる物質で、アミノ酸分析では高レベルのGABAおよびL-アラニンを含有することが明らかになっている。
FYCEは酵素加水分解された酵母に魚由来コラーゲンを組み合わせ、その後乳酸菌を用いた2段階発酵で調製される。この二重発酵プロセスは、グルタミン酸のGABAへの生体内変換およびコラーゲン由来の低分子量ペプチドの形成を促進し、標準的YEとは異なる組成および機能性をもたらす。
上記の知見から、GABAおよびL-アラニン含有FYCEは炎症カスケードを抑制することでIGF-1レベルの低下を逆転させ、それによって毛髪の成長を促進できるという仮説がたてられる。
リンクの研究は、H2O2処理したDPCおよび成長期を緩徐に誘発したマウスモデルを用いて、細胞およびマウスをFYCE、GABA単独、およびL-アラニン単独で処理し、酸化ストレスの減少およびIGF-1分泌の増加に対するそれらの効果を評価したもの。
【結果】
FYCE処理は抗酸化防御を制御する中心的な転写因子であるNRF2の発現を(H2O2処理DPCと比較して3.2倍)有意に増強した。
同時に、炎症の主要媒介因子であるNF-κB活性を(H2O2処理DPCと比較して0.6倍)抑制した。重要なことは、分子構成要素の発現レベルの低下によって示されるように、NLRP3インフラマソームの活性化を減衰させたこと。
また、FYCEはIGF-1(H2O2処理DPCと比較して5.4倍)、Wnt10b(1.8倍)、およびWnt3a(2.9倍)を増加させ、β-カテニンを(2.8倍)安定化させた。
FYCEは除毛した動物の皮膚においてもこれらの変化を示し、それは毛包数の増加(水投与対照群と比較して1.6倍)および成長期の増加(水投与対照群と比較して3.0倍)と関連していた。
総じて、FYCEは特にNRF2の活性化、NF-κBシグナルの阻害、およびNLRP3インフラマソームの下方制御を通じて、抗酸化および抗炎症経路の二重の調節により毛髪の再成長を促進することを示唆している。
【結論】
FYCEが酸化ストレスを効果的に軽減し、毛包再生に不可欠なDPCにおける毛髪成長シグナル経路の活性化を促進することが実証された。
この結果は、脱毛の予防および治療のための新しい薬剤としてのFYCEの潜在的な価値を強調している。
酵母由来の生物活性物質は、抗酸化サポート、免疫調節、および皮膚バリアの強化を含む多様な用途について研究されており、FYCEが毛髪生物学を超えてより広い有用性を持つ可能性を示唆している。
Fermented Yeast Complex Extract Promotes Hair Regrowth by Decreasing Oxidative Stress
・DPCは毛包サイクルを調節することでHFと毛髪の成長を増加させるために不可欠。DPCにおける酸化ストレスの増加は毛髪成長機能不全を招くため、酸化ストレスを減少させる様々な材料が毛髪成長を増加させるために使用されてきた。
抗酸化剤であるL-アラニンとGABAを含むFYCEが、酸化ストレスを減少させることで毛髪の再成長を促進するかどうかを評価するためにH2O2を用いてDPCに酸化ストレスを誘発した結果、FYCE処理によってNRF2の発現が増加し、8-OHdGレベルで測定される酸化ストレスが減少することを確認した。また、FYCEはNF-κB活性とその下流標的であるTNF-αおよびIL-6の発現を減少させた。さらに、FYCEはNLRP3インフラマソームの形成を抑制し、その結果としてIL-1βのレベルを減少させた。
・NLRP3インフラマソームは毛包に影響を与え、脱毛に寄与することが報告されている。これは主に炎症に起因する脱毛症動物モデルを用いた実験に基づいている。円形脱毛症は自己免疫性の非瘢痕性脱毛疾患であり、C3H/HeJマウスを用い、慢性ストレスやリンパ節細胞の注入などの炎症悪化因子を加えることで円形脱毛症動物モデルを作成できる。円形脱毛症動物ではNLRP3インフラマソームが増加しており、NLRP3インフラマソーム阻害剤(MCC950)は脱毛を減少させる。
・酸化ストレスはNF-κBシグナル経路を活性化し、炎症を増加させる。したがって、NF-κBは酸化ストレスと炎症反応を連結する中心的な媒介因子と見なすことができる。これと一致して、酸化ストレス下においてNRF2とNF-κBが双方向の調節ネットワークを形成することを示す証拠が蓄積されている。過剰なNF-κB活性は炎症を増幅させるだけでなく、NRF2を介した抗酸化反応を鈍らせる可能性があり、NF-κB核移行ブロッカーであるSN 50を用いた実験はこの相互的クロストークを支持している。
・FYCEはH2O2処理したDPCと除毛した動物の皮膚の両方でWnt3aやWnt10bなどの成長期関連因子を増加させ、成長期毛包の数を増やすことで毛髪の再成長を強化した。比較実験ではミFYCEはノキシジルと同程度のNRF2発現上昇をもたらさず、総毛包数や成長期毛包のより大きな増加も誘導しなかったが、ミノキシジルはその強力な毛髪再成長効果にもかかわらず、毎日の局所塗布による頭皮への刺激、接触皮膚炎、乾燥、頭痛、意図しない部位の多毛症、および心血管系への影響などの全身的な副作用が報告されている。
・丹参に由来するポリフェノール化合物であるサルビアノール酸Bは、毛乳頭細胞およびマウスモデルにおいてROSレベルを減少させ、NRF2シグナルを活性化することで毛髪の成長を促進することが示されている。
ナイアシンアミドも、DKK-1の下方制御とROS誘発性のNF-κB活性化の減衰により、DPCを酸化損傷から保護することが報告されている。
・FYCEはビール酵母、コンブエキス、および魚由来コラーゲンの発酵を通じて製造される 。酵母エキスの抗酸化および抗炎症効果は以前にも報告されているが、FYCEはその二重発酵システムに由来する独自の生化学的および機能的特性を示している。
・・・ビール酵母、コンブエキス、および魚由来コラーゲンと乳酸菌のコンボが抗炎症特性を発揮すると言うデータを見たのはこのデータが初めてのような気がします。
いずれの成分も手軽に手に入るものばかりなので手軽に試せるのではないでしょうか?