今回のKメモは、本態性高血圧に関する韓国のデータをまとめてみます。
投薬治療でコントロールがうまくいく人いかない人、いろんなお悩みが血圧の問題にはあると思いますが、参考になれば幸いです。
高血圧(Hypertension:HTN)は、心血管疾患(CAD)、脳血管疾患(CVD)、慢性腎臓病の危険因子で、世界の成人の約32%が罹患しているとされている。
がん、認知症、骨粗鬆症などの非血管疾患との関連も示唆されており、急速な高齢化と平均寿命の伸びによって高血圧患者の総数が増加し、関連する合併症も増加している。
高血圧の危険因子は遺伝的要因と生活習慣的要因。
双生児における研究では、遺伝率が推定血圧の最大34〜67%を占める可能性が示唆されているが、ゲノムワイド関連研究(GWAS)によって同定されたすべての血圧(BP)遺伝子座の総効果は、BP変動のうち最大でも20%しか最近まで説明できていなかった。これまでの研究では、”遺伝子-遺伝子”および”遺伝子-環境”の相互作用が考慮されていないことが、GWASにおける遺伝率の過小評価につながる原因と考えられている。
これに関連して、生活習慣の改善は高血圧予防と治療の基本的であり、主要ガイドラインでは非薬物療法、特に食事介入の重要性が示されている。食塩制限、DASH食のような 「健康的な食事」、減量などは、いずれも血圧降下に有効であることが証明されている。
しかしその一方で、BPの変化にはかなりの個人差があることも事実である。このような血圧変動の個人差は、”遺伝子-遺伝子”、あるいは”遺伝子-環境”、”遺伝子-栄養素”の相互作用に一部関係している可能性があり、中でも遺伝子と栄養素の相互作用の同定は高血圧発症に関する新たな洞察を提供する可能性がある。
リンクの研究は、HTNにおける微量栄養素または「非主要」食事因子、遺伝子変動、および遺伝子-栄養素相互作用を含む広範な栄養素を評価するために行われた初の研究。
アジア人集団におけるこのような研究はほとんど行われていない。
データはKorean Genome and Epidemiology Study(KoGES)の50,808人から取得。
【結果】
CUB and Sushi Multiple Domains1(CSMD1)遺伝子近傍に、食事からの鉄およびビタミンB6(Vit.B5)摂取量と相互作用を示し、高血圧リスクに有意な影響を及ぼす遺伝子座を1つ同定した。
DRI(男性9.5mg/日、女性9.25mg/日)以上の鉄を摂取している人のうち、8p23.2におけるrs13282715マイナーアレル(A)の保因者は、保因者でない人に比べてHTNのリスクが低かった。
DRI(男性1.5mg/日、女性1.4mg/日)以上のVit.B6を摂取している人のうち、同じ変異体rs13282715のマイナーアレル(A)の保有者でも、高血圧のリスクが低いことが示された。
【結論】
韓国人成人における高血圧リスクに影響する食事からの鉄およびVit.B6摂取に関する新規の遺伝子-栄養素相互作用を同定した。
このことは、このバリアントを有する個体は鉄およびVit.B6摂取の食事介入によって、より低いHTNリスクの恩恵を受ける可能性があることを示唆している。
DRIを超える鉄およびビタミンB6の食事摂取は、ゲノムワイドな有意性をもってHTNに関連し、CSMD1遺伝子座(rs13282715、8p23.2)で有意に相互作用した。
この変異体を有する人は、鉄とビタミンB6摂取量を増やす食事介入によって、より低い高血圧リスクの恩恵を受ける可能性がある。
・ゲノムワイド相互作用解析において、CSMD1(8p23.2)近傍のrs13282715という新規変異を同定し、rs13282715のリスク対立遺伝子Aを有する韓国人成人は、鉄またはVit.B6のいずれかをDRI値以上摂取している場合、高血圧リスクが低いことが示された。
・CSMD1遺伝子はCUBドメインとSUSHIドメインが繰り返されていることから命名され、液胞タンパク質選別-13ファミリーの膜貫通タンパク質をコードしている。このタンパク質の機能はヒトでは明らかにされていないが、CUBとSushiドメインは様々なタンパク質に存在し、タンパク質-タンパク質相互作用あるいはタンパク質-リガンド相互作用の部位であると推測されている。CSMD1は韓国人やアフリカ人の高血圧リスクと関連し、ヒドロクロロチアジドやカンデサルタンに対するSBP反応に影響を及ぼす。
他の研究では、CSMD1遺伝子がメタボリックシンドロームや末梢動脈疾患と関連していることがわかっている。
・鉄とVit.B6はともに、赤血球造血、炎症反応、筋肉、脂質代謝など、人体の幅広い代謝および調節過程に不可欠な微量栄養素。過去の研究では、両栄養素の摂取量減少は血圧または高血圧と関連することが確認されている。食事性鉄摂取量が少ないと鉄欠乏症(ID)になり、活性酸素種(ROS)産生が亢進して炎症が慢性化し、血管収縮物質エンドセリン-1の発現上昇によって内皮機能障害に影響する可能性がある。また鉄欠乏症はCADやCVDの予後に有害な影響を及ぼすことが注目されている。
・多くVit.B6の作用の中で最も広く議論されているのは、血圧、動脈硬化、CVD/CADを制御する役割である。多くの研究で、血清Vit.B6低値は高血圧と関連することが示されている。ランダム化比較試験でも、高用量Vit.B6サプリメントが血圧を有意に低下させることが示されている。Vit.B6活性型であるピリドキサールリン酸(PLP)はヒト体内で約160の反応の補酵素として働く。Vit.B6不足はセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の合成に変化を生じ、脳内のリン脂質減少によるCa2+輸送や代謝に影響を及ぼし、BPに正の調節を引き起こす。
また、Vit.B6不足は内皮機能障害、CVD負荷、高血圧と相関するホモシステインレベルを上昇させる。
・鉄はVit.B6ともにヘム合成経路、酸化ストレスと炎症の亢進、一酸化窒素産生、内皮機能障害、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の調節において主要な役割を担っており、これが高血圧の共同原因となっている可能性がある。
・・鉄の摂取は意外と難しくてただヘムを飲めばというわけでもないので摂取前はご自身でよく精査してください。
高血圧管理におけるより具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
新血管系疾患予防、体質管理にも非常に有益な内容になっています。
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