今回のブログは、前回のブログの続きとして動物性タンパク質摂取の重要性について触れてみたい。
当院の栄養指導時のタンパク質摂取源として以前から魚類(特に海産)を推奨してきた。
これは、パーソナルトレーニングまたは筋骨格系治療、若年または老年のどちらでも同様。
その理由を示すデータは過去にも多く存在したが、最新のものを改めてまとめてみたい。
現在、世界的に高齢化が進み、加齢に伴う骨格筋量の進行性減少と筋機能の低下を特徴とするサルコペニアが健康問題となっており、筋肉の健常性の改善によるサルコペニアの予防・管理への関心が高まっている(個人的には、若年性のサルコペニアもだいぶ増えている印象)。
サルコペニアにおいては多くの研究により修正可能な危険因子が特定されており、因子の一つである食生活の改善は健康的な加齢を促進するための効果的な戦略となり得る。
魚類は健康的な食生活の一部と考えられており、週に少なくとも週2回、230gの魚類の消費が推奨されている。
魚は高品質のタンパク質と、魚油の主成分である多価不飽和脂肪酸のオメガ3脂肪酸の供給源となる。
タンパク質とビタミンDは、サルコペニアの決定要因である筋肉量と筋肉機能に一貫して関連する。
過去の研究では、タンパク質とビタミンDに加えてオメガ3脂肪酸もサルコペニアに関係していることが示唆されている。
サルコペニアは炎症状態であると提唱されており、オメガ3脂肪酸は強力な抗炎症剤である可能性がある。また、魚にはビタミンEが含まれており筋肉の健常性に有効である可能性がある。
リンクのデータは、魚類の摂取による栄養介入は筋肉量と機能を改善すると仮定し、中高年を対象に魚(スズキ)の10週間の摂取が筋肉量および機能に及ぼす有益な効果を検討したもの。
方法 50-85歳の成人22名を対象に、週2回、昼食に150-170gの魚を10週間摂取するよう指示。その間、参加者は通常の食事と身体活動を維持した。
評価には、身体計測、筋肉量、筋肉機能が含まれた。
結果
週2回、10週間の魚の摂取は骨格筋量および除脂肪体重を有意に増加させた。また、握力と歩行速度もベースライン時と比較して10週目に改善した。
魚の摂取は中高年者の筋肉量と機能を改善し、サルコペニアの進行を遅らせる可能性があると結論。
Association Between Fish Consumption and Muscle Mass and Function in Middle-Age and Older Adults
・健康的な食生活の一環として、少なくとも週2回の魚の摂取が米国心臓協会で推奨されている。
魚の摂取が筋肉量の維持に重要な役割を果たすことは間違いないと過去にも報告されている。
魚が筋肉量と筋肉機能に有益な影響を与えるメカニズムは、魚が構成する特定の栄養素のメカニズムなど、多因子にわたる。
・高齢者はより多くのタンパク質を摂取する必要があることを示唆する証拠が増えており、より多くのタンパク質を摂取することが健康や機能性の維持に有利であることが示されている。
高齢者の主な懸念として加齢によりタンパク質摂取による同化反応が鈍化する可能性が挙げられるが、タンパク質の摂取量を増やすことで窒素バランスを維持し、筋肉量および機能の低下を防ぐのに役立つ。
・この研究では、参加者の通常の食事に魚を加えることで、男女ともにDRI値を上回るタンパク質摂取量の増加が観察され、タンパク質合成が促進されて筋肉量と機能を向上させるのに役立つ可能性があることが示された。
・動物性タンパク質食品(すなわち、肉、魚、卵)の摂取量が多いことは、高齢者における筋肉量と機能の維持と関連しているとする過去の研究は多い。
魚タンパク質単独の筋肉への影響を評価するためのヒトを対象とした介入研究は行われていないが、ラットを対象とした研究では魚タンパク質の摂取により骨格筋の重量が増加することが示されている。
過去の横断研究では、1週間に脂肪分の多い魚の摂取量が増えるごとに、男性で0.43kg、女性で0.48kg握力が増加することが報告されている。
・世界的にビタミンDの欠乏があらゆる層で非常に多く観察されるため、魚のようなビタミンDを多く含む食品の摂取が奨励される。
今回の参加者はビタミンDの摂取量がDRI値を下回っていたが、魚の追加摂取によりビタミンDレベルが上昇し、DRI値を満たした。
ビタミンDは筋繊維の正常な発達と成長に必要であり、その欠乏は筋機能に悪影響を及ぼすことが確認されている。ビタミンDを含む筋肉量の維持に必要なタンパク質やその他の必須栄養素を組み合わせた食品摂取(つまり、魚)は、より効果的に筋肉量と機能を向上させる可能性がある。
・オメガ3脂肪酸が筋肉量と機能に及ぼす役割に注目が集まっている。
今回の結果は、魚のオメガ3脂肪酸の食事介入が高齢者の筋タンパク質分解を改善し、筋力を増加させるという先行研究と一致する。
オメガ3脂肪酸は、高齢者において細胞内代謝シグナルを成長させることにより、機能的能力を高めることで筋肉の衰えを減少させることができる。
・炎症がサルコペニアの発生に関与していることを示す証拠があり、オメガ3脂肪酸の抗炎症作用がサルコペニアの予防に関与している可能性もある。
・この研究では体重に有意差は認められなかった。
魚1人前から145-165 kcalの追加摂取となり、1日の摂取量に対する寄与は比較的軽微であった。
体脂肪率、ウエスト周囲径、ウエスト・ヒップ比はベースライン時と比較して5週目および10週目に有意な減少が観察された。
高タンパク食の摂取頻度を増やす(6×/日)と、腹部脂肪が減少し筋肉量が増加することを報告した過去の研究とも一致する。
・結論として、週2回、10週間にわたり魚(スズキ)を摂取することで、中高年男女のサルコペニアパラメータおよび筋肉量と機能を改善できることを示した。
これらの知見は、魚が筋タンパク質合成、炎症、酸化ストレスへの影響など、さまざまなメカニズムによって筋肉の健康に重要な役割を果たすことを示唆している。
タンパク質、ビタミンD、オメガ3脂肪酸、抗酸化物質の摂取はいずれも最適な筋機能に不可欠で、サルコペニアの進行を遅らせる可能性がある。
サンプルサイズが比較的小さいため、高齢者を対象とした魚の摂取に関するさらなる設計された介入研究が推奨される。