今回のメモは、乳がん患者さんのがん関連疲労に関するデータをまとめています。
引用データには乳がん以外の種類のガンも登場していますが、ここでは乳がんの文脈だけをピックします。
肺がんなど乳がん以外の癌でお悩みの方もぜひ一読の上、頭の片隅に置いていただければ幸いです。
乳がん患者におけるがん関連疲労(CRF)は長期的に続く非常に深刻な症状で、化学療法中の有病率は58%~94%とされ、仕事や対人関係、気分、日常生活に悪影響を及ぼす。
慢性的なCRF患者はCRFがない患者に比べて死亡リスクが2.54倍高いことを示す研究があるが、CRFは患者にも医療従事者にも軽視される傾向がある。
お隣中国ではがんサバイバーの75%がCRFを経験していると報告されているが、CRFについて聞いたことがある患者は10.5%に過ぎず、CRFに積極的に介入する行動をとった患者は4.6%と少ない。
CRFの病態生理は明らかになっていないが、トリプトファン(TRP)-キヌレニン(KYN)経路の過剰活性がCRFの原因であることが報告されている。TRPは神経伝達物質であるセロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン-5-HTとも呼ばれる)の前駆体で、体内では合成できず、食物から摂取しなければならなず、5-HTの代謝異常はCRFの発症と密接に関係する可能性がある。
CRFの危険因子には、ライフスタイル、社会人口統計学的因子、腫瘍関連因子、治療関連因子、心理学的因子が含まれることが蓄積されたエビデンスで判明している。
中でも食事要因は、治療中のがん患者の匙加減でCRFの改善または悪化につながる。
タンパク質、食物繊維、多価不飽和脂肪酸(PUFA)、野菜、果物を多く含む食事はCRFと負の相関があることが報告されている。
地中海食パターン、抗炎症食、Healthy Eating Index (HEI)-2010など質の高い食事はCRF有病率を低下させることが示唆されている。
腸内細菌叢(GM)異常はがん自体や化学療法の結果として容易に起こり、TRP代謝やセロトニン作動性システムの調節不全、ひいてはCRFへとつながる。
食事は腸内細菌叢の構造と機能の重要な決定因子であり、また5-HTを産生するTRPを供給する。
先に述べたようにCRFの機序は正確には明らかになっていない。
しかし、CRFは乳がん患者のQOLおよび生存に重大な影響を及ぼすことから、食事の質とCRFの相関関係およびその背後にある機序を理解することは非常に重要だろう。
リンクの研究は、食事がTRP代謝に影響を与えるようにGMを調節し、最終的に乳がん患者のCRFにつながるのではないかと仮説を立て、CHEIに基づいて食事の質の観点から実施された横断研究。
342名の患者の食事摂取とCRFを評価し、16sRNA配列決定のために64の糞便サンプルを、トリプトファン(TRP)代謝物測定のために106の血漿サンプルを採取。
【結果】
149名(43.6%)の患者がCRFを経験し、食事の質が悪い乳がん患者はCRF有病率が高いことが明らかになった。
CRF患者ではGM多様性が減少し、GM組成が不健全で、TRP濃度が低く、キヌレニン(KYN)/TRP比が高かった。
媒介分析により、Sobs indexとChao indexの両方がCHEI総スコアとCRFの相関の有意な媒介因子であることが明らかになった。
乳がん患者にとって栄養指導は非常に重要であり、十分な栄養素を含むバランスのとれた食事を摂取するよう促すべきである
またCRFに対処するために、GMホメオスタシスを維持する食事の質を確保すべきである。
・CRFは乳がん患者でよく観察される症状で多くの有害転帰をもたらし、疼痛、不眠、吐き気/嘔吐などの症状と比較してQOLにより大きな悪影響を及ぼす。
・乳癌患者におけるCRFの有病率は43.6%で、以前の研究で報告された46.3%と同程度だった。
・CRFに対する年齢の影響については結論が出ていない。年齢とCRF有病率には関連性がないことが示唆されているが患者解析を乳癌患者に限定した場合、12件の研究で若年患者がCRFを経験しやすいことが報告されたに対し、高齢患者がCRFを発症しやすいことを示唆する研究は2件のみだった。この研究では、CRF患者はNCRF群より有意に高齢だった。
・研既婚患者よりも寡婦・離婚・独身患者の方がCRF有病率が高かった。既婚患者は病気や治療のストレスにうまく対処できるよう、配偶者から包括的なライフケアや心理的サポートを受けることができたためかもしれない。
・低学歴と低収入の両方が乳がん生存者におけるCRFを増加させることが証明されている。この研究では、低学歴で世帯月収が低いCRF患者の割合が高いことが観察された。これは患者の病気に関する知識不足だけでなく、治療に伴う経済的重圧を恐れているためかもしれない。
・がんおよびその治療は、味覚の変化、吐き気、嘔吐、食欲不振などの食事関連障害を引き起こす可能性があり、その結果、がん患者の栄養摂取量が減少する。
・タンパク質は除脂肪体重の維持または増加に有益であり、CRFにおいて重要な役割を果たしている。がん患者におけるタンパク質の必要量について標準化基準は確立されていないが、体内のタンパク質回転率が高く、急性期にはタンパク質合成が増加するため、がん患者は健康な患者と比較してタンパク質の必要量が増加する可能性が高い。ある研究では、化学療法を受けているがん患者の最近のタンパク質摂取量が1g/kg体重未満だとCRF発症確率が最も高いことが示されている。この研究では、CRF患者の1日当たりの蛋白質摂取量は0.97g/kg、NCRF患者では1.19g/kgで、低蛋白質摂取が乳癌患者におけるCRFの一因となっている可能性が示唆された。
・食物繊維摂取量が多いほどCRFが軽減することが示されている。乳がんサバイバーでは食物繊維摂取量が1日あたり25g未満の場合、食物繊維の摂取量が25g以上であったサバイバーに比べ、平均して有意に疲労感が強いことが報告されている。がんサバイバーは毎日少なくとも30gの食物繊維を摂取することが推奨されている。この研究の結果は、食物繊維がCRFの予防因子であるという考えを支持するものだが、CRFおよびNCRF患者の1日あたりの食物繊維摂取量の中央値は、それぞれ7.5gおよび9.7gにすぎず、いずれも推奨摂取量をはるかに下回っていた。CRFの発症と進行を予防するために、乳癌患者には食物繊維リッチ食の摂取量を増やすよう奨励すべきである。
・近年、CRFに関する研究では単一の栄養素や食品成分に焦点を当てたものから、より広範な食事パターンや食事の質に焦点を当てたものへと変化してきている。例えば地中海食はCRFの有病率を低下させる可能性がある。
・蓄積されたエビデンスは、GMの変化が疲労の病因に関与している可能性を示唆している。
食事とCRFを関連付ける正確な機序は不明だが、生理学的および心理学的機能の重要な調節因子であるGMは癌の進行や化学療法によって破壊されやすく、食事によって調節される。過去の研究で、乳がん患者ではCHEIスコアがChao indexおよびShannon indexと正の相関を示し、Simpson indexと負の相関を示すことが証明されている。GMは3つのTRP代謝経路を直接的または間接的に制御し、5-HT、KYN、インドール誘導体の産生をもたらすことが証明されており、CRFにリンクする可能性がある。乳がんサバイバーではGM組成の変化(Faecalibacterium、Prevotella、Bacteroidesなど)と疲労の縦断的変化との間の相関関係が指摘されている。
この研究では、腸内微生物のα多様性(Sobs indexおよびChao index)が乳がん患者における食事の質とCRFとの関連を有意に媒介することが示された。さらに、CRF患者はNCRF患者よりもBacteroidotaの存在量が少なかった。Bacteroidotaは酪酸やSCFAを産生し、免疫や抗炎症を調節することからCRF治療に有益である可能性がある。また、放線菌門に属するビフィズス菌も食物繊維の発酵を通じて酪酸を産生し、腸の恒常性と宿主の健康に寄与している。
驚くべきことに、LEfSe解析によるとCRF群ではアクチノバクテリアとビフィドバクテリウムの両方がより豊富だった。
・肺がん患者を対象としたの以前の研究では、CRFではNCRFに比べてActinobacteriaの存在量が高いことが示された。この研究でもSutterella、Lachnospiraceae_UCG-010、Eubacterium_oxidoreducens_groupの相対存在量がNCRF患者よりもCRF患者で低いことがわかった。Lachnospiraceae_UCG-010、Eubacterium_oxidoreducens_group両者とも通常慢性疲労を伴う線維筋痛症候群患者のGM内の存在量が低いことがわかっている。LachnospiraceaeとEubacteriumは酪酸産生に関与する重要な分類群であることが報告されており、それらの存在量の減少はSCFA産生障害につながり、ひいては炎症を誘発する可能性があり、そのことはCRF患者が炎症促進状態にある可能性を示唆している。
・CRF群ではプレボテラの存在量が少ないことがわかった。このことは、プレボテラが慢性炎症を促進するという今までの認識と矛盾する。この矛盾は、プレボテラは炎症性環境で増殖するが、疾患関連炎症は生存に適さない微小環境を作り出すことでプレボテラ存在量を直接的に減少させることが理由かもしれない。
・TRP代謝とCRFの関連も広く研究されている。血漿中TRP含量の低下とKYN/TRP比の増加が、リンパ腫生存者と肺がん患者のCRF患者で報告されている。CRF患者では血漿中TRPが減少し、KYN/TRP比が上昇していることも明らかになり、CRFにおけるTRP代謝の役割をさらに裏付ける結果となった。TRPは前駆体として、5-HTやKYNなどの生理活性代謝物に代謝変換される。
悪性腫瘍の特性やいくつかの化学療法薬の使用によって、がん患者における5-HTレベルの低下は疲労、抑うつ、栄養不良、その他の合併症を誘発する可能性がある。TRPを豊富に含む乳清タンパク質分離物による食事介入はTRPからKYNへの変換を阻害し、5-HT産生を増加させ、乳がんモデルマウスにおける抑うつ様行動を減弱させる可能性が見出されている。
ここまでまとめた食事要素を全て含有する食事パターンは地中海食。
乳がん治療中の方はまず地中海食を意識してみてはいかがでしょうか。どの食材におけるタンパク質や食物繊維が良いのか?などより具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
乳がんリスクを高める肥満改善にも非常に有益な内容になっています。
Lineまたはメールによるカウンセリングに基づき、皆様の症状や体質に合わせて摂取カロリー数の計算や、食事デザイン、サプリメントの選択、排除すべき食材などを最新データを元にパッケージでデザインし、ご提案いたします。