口腔の健常性維持における栄養素の役割には議論の余地がなく、多様な栄養素が口腔に影響を及ぼすことが知られている。
中でも、ビタミンDの歯の健康に対する潜在的影響に大きな注目が集まっており、ビタミンDは歯の健康と完全性維持に重要な役割を果たしている可能性が指摘されている。
歯のエナメル質は、エナメル質形成不全と総称される様々な欠陥の影響を受けやすい。
これは主にエナメル質が薄く、不完全で、ミネラル化が不十分な状態である。
エナメル質の発育と成熟プロセスには遺伝的、環境的な要因が影響する。このプロセスには栄養因子、特にビタミンDが重要な役割を果たすとされている。
しかし、ビタミンDと歯の健康との関連についての決定的な証拠は得られておらず、研究結果にかなりの不均一性がある。過去の研究結果の矛盾は、エナメル質欠損や歯牙びらんにおけるビタミンDの役割について、より系統的な調査が必要であることを強調している。
リンクのシステマティックレビューは、小児のエナメル質欠損と歯のびらんにおけるビタミンDの役割を調査している利用可能なエビデンスを統合し、出生前のビタミンD濃度が歯の健康転帰に及ぼす潜在的影響を評価したもの。
2013年から2023年6月までのPubMed、Web of Science、Scopusを包括的に検索し、6978人が参加した合計7件の研究が対象。
解析の結果、ビタミンD濃度と歯の健康転帰の間には多様な関連が認められた。
エナメル質欠損は21.1%から64%の小児で報告され、不透明症は36%から79.5%だった。
母親のビタミンD不足がエナメル質欠損の有意な危険因子として同定された。
出生前ビタミンD濃度が高いと、第二小臼歯の低ミネラリゼーションと切歯臼歯の低ミネラリゼーションに対する予防効果が示された。
逆にビタミンD濃度が低いと、エナメル質低形成と虫歯リスクが増加した。
このデータは、出生前ビタミンDが小児の歯の健康に及ぼす潜在的影響を明らかにし、妊娠中の十分なビタミンDレベルの重要性を強調している。
The Impact of Prenatal Vitamin D on Enamel Defects and Tooth Erosion: A Systematic Review
・子孫の将来の歯の健康のために妊娠中のビタミンD補給の重要性を強調する文献が増加している。しかし、出生前のビタミンD濃度と小児の歯の健康転帰の関係は単純ではなく、遺伝的素因、食習慣、口腔衛生習慣、他の全身疾患などの要因の影響を受ける可能性がある。
・虫歯の平均本数と出生前ビタミンDレベルとの間に逆相関があった。口腔の健康維持におけるビタミンDの重要な役割を支持する証拠が強化された。出生前のビタミンD欠乏が虫歯を含む歯の健康状態の悪化に寄与する可能性を示す先行研究と一致している。
・ある研究では、妊婦と小児のビタミンD欠乏症の有病率が高く、4歳までに51%の小児がビタミンD欠乏症だった。この欠乏症は妊娠中から子供の8歳時点まで観察され、平均25(OH)Dレベルは十分なレベルである30ng/mLを下回っていた。25(OH)Dレベルが20ng/mL未満の6~10歳の子どもでは虫歯リスクが3倍になった。
・歯磨き粉の種類と虫歯およびエナメル質欠損の間に関連性は認められず、歯磨き粉や洗口剤に含まれるフッ素が口腔内の抗酸活性を維持する効果に疑問を呈した研究と一致していた。
・砂糖を時々摂取する小児は、定期的に摂取する小児に比べて虫歯有病率が有意に低いことが観察された。定期的な砂糖摂取が虫歯につながるという一般的なコンセンサスを裏付けるものである。
・この研究では、小児の虫歯予防に不可欠なステップとして、最初の歯が生える頃から柔らかい歯ブラシを使用し、砂糖の摂取を制限することを推奨している。
・子宮内発育期のビタミンD欠乏はエナメル芽細胞障害を引き起こし、エナメル質形成異常を引き起こす可能性が示唆されている。
・日本の研究では、母親が妊娠中にビタミンDを多く摂取していた3~4歳児は虫歯リスクが低かった。スウェーデンの研究では、6歳児に3ヵ月間ビタミンDサプリメントまたはプラセボを与えたところ、25(OH)D値と虫歯の間に逆相関が認められた。
カナダでは虫歯に罹患した就学前児童の血清25(OH)D値は、虫歯のない児童よりも低かった。
・ビタミンDは歯のエナメル質のミネラル化を促進し、口腔病原体に対する免疫反応を調節する。