日本における胃がんの罹患順位は、男性では三位、女性では四位となっており、疾病負担は依然として重い。
胃がんリスクとして、感染因子、環境リスク因子、生活習慣が挙げられる。
食品関連では、(肉類、アルコールなど)の摂取、高塩分食、低ビタミンA・C食、燻製・生食の大量摂取といった食事要因が胃がんリスク上昇に関連すると考えられているが、研究結果は矛盾するものも少なくない。
リンクの研究は、中国の住民を対象に食事パターンと胃がんリスクとの関連性を検討したもの。
早期に修正可能な要因に焦点を当てることで、低コストで高い胃がん予防効果を発揮できる可能性がある。
2,468人の参加者が対象。
人口統計学的特性、ライフスタイル要因、個人の疾病歴、がんの家族歴、ヘリコバクター(H. Pylori)などの変数の調整後で食事パターン得点の最高三分位と最低三分位を比較すると、多変量ORは、風味、ガーリック、タンパク質パターンが0.786、ファストフードパターンが2.133、野菜と果物パターンが1.050、漬物、加工肉製品、大豆製品パターンが0.919、非主食パターンが1.149、コーヒーと乳製品パターンが0.690だった。
・この研究では、ファーストフードパターンと非主食パターンが胃がんリスクの上昇と関連する可能性があることが明らかになった。
漬物、大豆製品パターン、コーヒー、乳製品食パターンは胃がんリスク低下と関連する可能性がある。その他のパターンと胃がんリスクとの間には、有意な関連は認められなかった。
食事パターンと胃がんとの関連は、直線的な傾向を示していた。
ファーストフードパターンと非主食パターン摂取量が多いほど胃がんリスクと関連する可能性がある。
・ファーストフードパターンと非主食パターンが胃がんのリスクを高める可能性があった。
前者はバーベキュー料理、揚げ物、赤身肉、魚介類の消費量が多くなっていた。
後者はスナック菓子や炭酸飲料の消費が多いけいこうがあった。
・関連性を説明するいくつかのメカニズム
(1)赤身肉を高温で調理すると、発がん物質として知られる遺伝毒性を持つN-ニトロソ化合物、複素環式アミン、多環芳香族炭化水素が生成される。
(2)赤肉に含まれるヘム鉄は、発がん性のあるニトロソ化合物の内因性生成、DNA損傷、酸化ストレスを通して胃がん発生に関与している可能性がある。さらに、胃がんの危険因子としてよく知られているピロリ菌の細菌増殖に重要な因子となる。
(3) スナック菓子には飽和脂肪酸が含まれており、発がんに関連する炎症性メディエーターの発現を誘発する。
(4) 炭酸飲料をより多く摂取する参加者は、逆流症状を持つ傾向がある。
(5)炭酸飲料は多くの砂糖を含んでおり、肥満を引き起こす可能性がある。
・肥満は慢性的な低悪性度炎症、高インスリン血症、高レプチン血症、内因性ステロイドホルモンの産生を助長し、これらはすべて腫瘍増殖に寄与している可能性がある。
・漬物、大豆製品のパターン、コーヒー、乳製品パターンで、胃がんリスクを低減できる可能性があった。
・多くの研究で、大豆製品の摂取量が多いほど胃がんリスクが低下することが分かっている。
大豆摂取のメリットは2つ。
大豆および大豆製品には抗炎症作用と抗酸化作用を持つイソフラボンが含まれている。
イソフラボンの一種であるゲニステインがヒト胃がん細胞のアポトーシスを誘導し、ピロリの増殖を抑制することがいくつかの実験研究で示唆されている。
大豆および大豆製品にはサポニンも含まれており抗腫瘍成分であることが報告されている。
・コーヒーと乳製品の摂取量が多いほど胃がんのリスク低下する可能性がある
この関連性を説明するいくつかのメカニズム
(1) コーヒーの生理活性化合物
フェノール化合物とカフェストール、カーウエオールが含まれている。
これらの化合物は抗酸化作用、抗遺伝毒性活性、ミトコンドリア毒性、抗炎症作用を通じてがんの成長を抑制する可能性がある。
(2) 乳製品にはビタミンD、ミネラル、カルシウム、共役リノール酸などが含まれている。
これらの成分の胃がんに対する保護作用は抗腫瘍作用による。
(3) チーズやヨーグルトなどの発酵乳製品には乳酸菌が含まれており、乳酸やバクテリオシンなどの阻害物質を産生することでH. pyloriの増殖を抑制
興味深いのは、漬物、加工肉製品、大豆製品食パターンでリスクが低いこと。
漬物の塩分と加工肉はがんリスク上昇と関連するというデータが多いが、大豆製品の抗腫瘍効果の方が上回っている可能性があるとのこと。