今回のメモはタイトルの通り、内分泌療法中の食事、食品およびサプリメント摂取が乳癌の健康転帰に及ぼす影響の関する最新エビデンスをまとめます。
長文ですが興味のある方はお付き合いください。
女性で最も多くみられる乳癌(BRC)はエストロゲン/プロゲステロン受容体陽性乳がんで、第一選択はエストロゲン濃度を低下させるためにアロマターゼ阻害薬またはタモキシフェンを使用する内分泌療法。
しかしその副作用には、アロマターゼ阻害剤による関節痛など患者の全体的な健康と生活の質(QoL)に負の影響を及ぼすものがある。
リンクのレビューは、内分泌療法中のBRC患者における食事、サプリメントおよび/またはいくつかの食品成分が健康転帰に及ぼす影響評価したもの。
【結論】
地中海食、低脂肪食、果物および野菜の多量摂取の食事パターンの遵守がいくつかの乳がん転帰に有益であったことを示唆する証拠が示された。
いくつかの食品(プルーン、レッドクローバー抽出物)の補充、地中海食の順守、低脂肪食は、特に過体重または肥満の患者において、体重、骨の健康状態などの体組成の改善と維持に寄与していた。
ビタミンDやオメガ3脂肪酸補充は、脂質や血管新生パラメータ、QoLを改善した。
乳癌細胞の分子的および遺伝子的分類の同定と、それに続く栄養およびその他の生活習慣の修正の両方に関する研究が標準治療と相乗的に作用するために発展しており、患者およびその医療チームにとって有望な分野となっている。
閉経後女性における脂肪組織からのエストロゲン産生を阻害する内分泌療法が第一選択治療で、化学療法や放射線療法に比べて侵襲性が低いが、5年から10年継続するように設計されていることを考えると副作用はゼロではない。最も一般的な副作用には、ほてりや寝汗として現れる血管運動症状、疲労、関節炎のような痛み、骨粗鬆症、骨折リスクの増加などの筋骨格系症状、代謝障害(体重増加、糖尿病をおよび脂質異常症)、膣萎縮、若い女性の不妊、薄毛、不眠症などがある。このような長期にわたる合併症の可能性は、しばしば過小報告されるか、医療専門家に無視される傾向がある。
BRC患者の多くは自分の症状に気づいていなかったり、効果的な対処ができなかったりする。その結果治療へのアドヒアランスが不十分になったり、早期に治療を中止することで最終的に生存転帰に悪影響を及ぼす可能性がある。
乳がん
・抗エストロゲン療法によって誘発される長期エストロゲン欠乏は体組成に有意な影響を及ぼし、体重と脂肪量の増加し、筋肉量と骨量の減少し、最終的な体組成悪化の最も有害な段階であるオステオサルコペニック肥満症候群に至る。
また体組成の障害は、高脂血症、高血圧、糖尿病、心血管系疾患の引き金となったり、悪化させたりする可能性があるため注意を払うことが重要。
・抗エストロゲン療法を受けている女性群において、地中海食の順守と運動の併用によりBMI、ウエスト周囲径(WC)、体重、体脂肪が減少することが示された。この研究では臨床判断支援システム(CDSS)で作成された個人化された地中海食計画および身体活動ガイドラインの作成が、特にCOVID-19パンデミックのような困難な状況においてBRC患者を支援できることが初めて示された。
・地中海食の遵守と、レッドクローバー抽出物(1日80mgのイソフラボン)またはプラセボを24ヵ月間摂取した女性の両軍でBMIとWCの減少が有意だったが、その効果はレッドクローバー群でより顕著だった。レッドクローバーイソフラボン(おそらくフォルモネクチン)の抗肥満効果はα-グルコシダーゼの阻害作用によるものと考えられ、血清グルコース上昇を防いで脂肪組織の脂肪生成のシグナルを抑制する。フォルモネクチンとは別に、ゲニステイン、ダイゼイン、ビオチャニンAといったレッドクローバーの他のイソフラボンもエストロゲン受容体への結合を介してエストロゲン活性を有することが示されている。
・内分泌療法を受けているBRC女性に対して抵抗性運動トレーニングとプルーン(DP)(90g/日)を介入させたところ、六ヶ月間の体組成の維持に有効だった。DPは健康な女性のように乳癌女性の骨の健康を増進させるものではなかったが、骨吸収減少を通じて身体活動が骨の健康に良い影響を与えることを強調し、女性が経験する闘病中の好ましくない体組成変化を防いだという点で重要である。プルーンにはクロロゲン酸やネオクロロゲン酸などのフェノール化合物が豊富に含まれており、高い抗酸化力を発揮する。
・レビューの結果、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびビタミンDの補給が骨吸収を抑制し、患者の骨折リスクの低減に役立つ可能性を示唆。また、毎日4gのオメガ3(2520mgのEPAと1680mgのDHA)を3ヵ月間摂取した患者では、プラセボ(サフラワー油)を摂取した患者と比較して骨吸収マーカーと血清C末端テロペプチド(sCTX)レベル減少が認められた。EPAもDHAも抗炎症剤として作用し、EPAとDHAに由来するレゾルビン(最終的な抗炎症代謝産物)の作用が、骨吸収と破骨細胞形成を抑制した可能性を示唆。
心血管系疾患におけるリスク因子
・評価したいくつかの研究で、BRS集団における脂質パラメータや他のCVD危険因子に対する様々な食事やサプリメントの影響が検討されている。例えば地中海食と運動療法を併用すると、ホルモン療法中女性においてトリグリセリド(TG)、総コレステロール(TC)、LDLコレステロールのレベルは維持され、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロールのレベルは上昇することがわかった。この食事は一価不飽和脂肪酸、食物繊維、ビタミンCを多く含み、運動とともに血糖と脂質プロファイルを改善し、乳癌治療における生活習慣の改善の有益な効果を確認した。
・CoQ10はアデノシン5′一リン酸活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を介したペルオキシソーム増殖因子活性化受容体α(PPARα)の刺激により脂肪酸の酸化を促進し、LPLとアポリポ蛋白A1(アポA1)の発現を増加させ、2型糖尿病患者のTGと超低比重リポ蛋白レベルを低下させる可能性がある。このことはホルモン療法を受けている乳がん患者の心血管系の健康にとって、サプリメントなどでの介入が有益である可能性を示唆している。さらに、50,000IU/週(あくまで研究での量なので真似禁止)のコレカルシフェロールを8週間補充すると乳がん患者において血管内皮増殖因子(VEGF)-A、アンジオポエチン(Ang)-2、低酸素誘導因子(Hif)-1などの血管新生バイオマーカーの血清レベルが低下することが判明している。すること)のない患者では、コレカルシフェロールはAng-2レベルを有意に低下させた。
転帰としての炎症
・癌とその治療は炎症亢進と密接に関連している。インターロイキン、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターフェロン、様々なケモカイン、転写因子、ロイコトリエン、プロスタグランジン、トロンボキサン、解熱促進分子などの脂質代謝産物など数多くの炎症因子が炎症の開始、進行、解消を制御する上で極めて重要な役割を果たしている。CRPはインターロイキン-6(IL-6)のような炎症性サイトカインに反応して放出され、がん患者で上昇するため炎症マーカーとして機能する。
・EPA/DHA/ヒドロキシチロソール/クルクミンカプセルを30日間摂取したところ、血清CRP濃度の平均値が低下した。効果がなかった研究とCRPに有益な影響を示した両研究が存在するが、違いの一つは後者がヒドロキシチロソール/クルクミンを添加して行われたこと。コンピューターシミュレーションによる研究では、ヒドロキシチロソールとクルクミンの両方がCRPと直接相互作用することが報告されている。
・プルーン摂取(骨と体組成に関して前述)とレジスタンス運動の有無に関する研究では、CRP値に有意な影響はみられなかったが両群とも心血管疾患の高リスクから中リスクのカテゴリーに移行しており(CRP値は3mg/Lから1~3mg/Lに低下)、これはCRPがCVDリスクや死亡率と関連していることから臨床的に重要。
・CoQ10による介入を適用した2研究では、TAM療法を受けた乳がん患者において2ヵ月後および3ヵ月後に血清IL-6の減少が観察された。これはCoQ10が一般集団におけるIL-6レベルを低下させたことを報告したランダム化臨床試験の最近のメタ解析の結論と一致している。
結果としてのQOL
・がんによる疲労は一般集団で広くみられ、ストレスの多いライフスタイルと関連しているが、がん患者では、がん治療のすべての段階を通じて、より深刻かつ持続的であることが顕著である。がんサバイバーにおけるQoL低下は、治療中止、ひいてはがん再発および死亡リスク上昇につながる可能性がある。運動、食事、生活様式の変更などの介入は疲労を管理しQoL改善に役立つ。
・地中海食と身体活動はグローバルヘルス、身体的機能および感情的機能に対するプラスの効果を通じて、COVID-19流行中のBRC患者のQOLを改善した。同様に、野菜と果物が豊富な食事とレジスタンス運動および有酸素運動の併用は、内分泌療法を受けている過体重/肥満患者の身体機能を改善した。しかし、食事療法のみ運動療法のみでは対照群と比較して改善はみられなかった。過体重または肥満の乳がんサバイバーにおいては、運動と食事を組み合わせることがQoL改善のための最適な生活習慣介入である可能性がある。
・マグネシウムを4週間補充した試験では、疲労の軽減、更年期症状に関連する異常発汗、ほてり、苦痛の軽減が示された(お腹壊すので飲み過ぎ注意)。マグネシウムがほてりを減少させる正確なメカニズムはまだ不明だが、マグネシウムは神経保護と血管保護作用を示すことが知られており、脳内セロトニンレベルの上昇に寄与している可能性がある。ほてりはセロトニンとノルエピネフリンのアンバランスと関連している。
マグネシウム欠乏がうつ病と関連していることも示唆されており、サプリメントを摂取することでセロトニンレベルを上昇させる抗うつ薬効果が高まり、うつ病患者の症状がさらに改善される可能性がある。
・大豆イソフラボンが(エストラジオールに似た)複数の健康効果を示すことは、数多くの研究で示唆されている。これにはコレステロール値の低下と心臓保護効果、骨の健康増進、ホットフラッシュの頻度と重症度の軽減、更年期および閉経後女性の更年期症状の改善、肺がん、前立腺がん、乳がんのリスク低下などが含まれる。
・乳がん患者が一般に使用するオメガ3脂肪酸やビタミンDなどのサプリメント摂取はホルモン療法に対して様々な効果を示す。EPA、DHA、ヒドロキシチロソール、クルクミン(それぞれ460mgと12.5mg、47.5mg/日)のサプリメント摂取により、AI治療中の疼痛が21。5%減少することが報告されている。
・疼痛管理に対するサプリメントの有益性が強調されている。2018年の研究では、2.5gのビタミンB12を毎日90日間補充したところ、BPI-SF質問票で評価した疼痛が平均34%改善したことが報告されている。さらにFACT-ESスコアの分析ではすべての尺度で改善が認められ、ビタミンB12がホルモン療法に伴う副作用を軽減するための安全かつ効果的な選択肢となり得ることが示された。B12が赤血球やDNA合成だけでなく、筋肉再生や神経系機能にも重要な役割を果たすことはよく知られている。
・2022は、α-リポ酸、ボスウェリア・セラータ、メチルスルフォニルメタン、ブロメラインの組み合わせが24週間の使用後に関節痛を有意に軽減することを発見した。中でもα-リポ酸は活性酸素の発生の抑制と中和に貢献し、ビタミンE、ビタミンC、グルタチオンなどの抗酸化物質の機能を向上させる。これらの相互作用は酸化ストレスを緩和し、間接的に痛みの軽減に寄与する。
・ボスウェリン酸は5-リポキシゲナーゼなどの酵素を阻害することで抗炎症作用を発揮する。メチルスルフォニルメタンは軟骨合成を促進することで軟骨保護作用を示す。
ブロメラインはタンパク質分解酵素として浮腫を軽減し、2017年の研究ではブロメラインが化学療法誘発性末梢神経障害を改善することも報告されている。
・・・登場する栄養素が多すぎて何を選択すればいいか戸惑ってしまいますが、個人的に興味が湧いたのはEPA/DHA/ヒドロキシチロソール/クルクミンカプセルの30日間摂取と、プルーン摂取(骨と体組成に関して前述)とレジスタンス運動の組み合わせ、マグネシウムの少量摂取の文脈。
この組み合わせを軸に何を状況に応じて抜き差ししていくのか?が重要になってきそうです。
より具体的な栄養戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
Lineまたはメールによるカウンセリングに基づき、皆様の症状や体質に合わせて摂取カロリー数の計算や、食事デザイン、サプリメントの選択、排除すべき食材などを最新データを元にパッケージでデザインし、ご提案いたします。
お気軽にお問い合わせください(お電話、LINE、インスタグラムのメッセージまたは連絡先をご利用いただけます)
