男性不妊の原因は、先天性、後天性、特発性に分類され、不妊カップルの30%近くを占めると言われている。
特発性不妊症には、男性の生殖能力に悪影響を及ぼす危険因子が関与していると推測されており、
様々な疾患の発症に関与する酸化ストレスも精子の活性に影響を及ぼしている可能性がある。
喫煙、飲酒、肥満、精索静脈瘤、感染症、心理的ストレスといった不妊や精子の質の低下と関連する生活習慣は、酸化ストレスを介してその影響を発揮している可能性がある。
酸化ストレスのプロセスは不妊症の30~80%に影響すると考えられており、MOSI(男性酸化ストレス性不妊症)というカテゴリーも存在する。
酸化ストレス活性の増加は精子の濃度や運動性を低下させ、生殖機能に悪影響を及ぼすことが示唆されている。
不妊症男性には血中酸化状態のアンバランスが見られ、精液中の活性酸素レベルは、無精子症および乏精子症男性の精子運動率、形態、数と相関があることが分かっている。
さらに、酸化因子は特発性男性不妊症で繰り返し観察される精子DNA断片化(SDF)にも関連すると報告されている。
いくつかの研究で、不妊男性における抗酸化物質(L-カルニチン、セレン、コエンザイムQ10、ユビキノール、ビタミンCおよびEなど)補給の有効性がを調査され、精子の質に関して肯定的な結果が報告されている。
しかし、MOSI治療に関する確立されたガイドラインは開発されていない。
コエンザイムQ10(CoQ10)は細胞内に抗酸化活性を有する脂溶性ユビキノンで、その不足は様々な不妊症以下の状態(例えば、精索静脈瘤、乏精子症など)で観察されている。
酸化状態のバランス以外にも、ミトコンドリア活性や精子運動性などのエネルギー依存プロセスに関与している。
メラトニンは脳の松果体から分泌されるホルモンで、暗闇で分泌が促進され、概日リズムの主要な調節因子。
メラトニンおよびその代謝物はフリーラジカル消去剤として作用し、細胞を酸化ストレスから保護することから不妊症に大きな影響を与える可能性がある。
リンクのレビューは、男性不妊症の治療におけるCoQ10とメラトニンの有効性を要約し、分析することを目的としたもの。
2000年から2022年10月までのPUBMEDデータベースを用いた文献検索で分析。
結論
CoQ10の単独または併用は、精巣の酸化ストレスと精子DNA断片化を減少させ、精子パラメータ、特に精子運動性を改善する。
CoQ10投与は、自然妊娠および生殖補助医療(ART)による妊娠率の向上と関連している。
さらに、カップルへのCoQ10投与は体外受精/顕微授精における受精率の上昇など、ARTアウトカムの改善につながった。
メラトニンの補充による男性不妊症治療を支持するためにはさらなる証拠が必要。
Coenzyme Q10 and Melatonin for the Treatment of Male Infertility: A Narrative Review
・CoQ10単剤摂取(200~300mg)は、不妊症の男性において精子の運動性と濃度を高め、精子DNAの断片化を改善することが示された。
また、CoQ10自体が妊娠率向上に有効である可能性も示唆された。
多くの研究によって報告された精液パラメータの改善では、その後自然妊娠の頻度が高くなり、ARTの成績も良くなった。
矛盾する結果も報告されていることから解釈には注意が必要だが、精子パラメータにグローバルな向上が見られることは明らか。
・メラトニンに関するデータは限られているが、男性不妊症におけるメラトニンの役割に関する既存の証拠も分析。
フリーラジカルスカベンジャーとしての役割、つまり抗酸化力はメラトニン使用を正当化しうるが、メラトニンにはもっと複雑な役割がある可能性がある。
動物モデルではアンドロゲン産生(中枢と局所の両方)を調節し、免疫調節化合物として働き、生殖細胞が精子になる過程に影響を与えることによって、生殖器生理学に貢献している可能性が示されている。
メラトニンに関する前臨床データは男性不妊症の文脈で可能性を示しているが、具体的な可能性を評価するためにはさらなる臨床研究が必要。
・「抗酸化物質のパラドックス」の認識も必要。抗酸化物質の過剰使用には予防効果も治療効果もない。