今回のメモは、妊活中・妊娠中の方に是非目を通していただきたい母乳育児に関する重要なデータをまとめます。
母乳育児は新生児の成長に必要な重要栄養素や免疫細胞、サイトカイン、ケモカイン、免疫グロブリン、ホルモン、脂肪酸といった非栄養性の生理活性成分を豊富に供給する。
そのため妊娠中および授乳中の母親の状態はこれら成分を変化させることで子孫の転帰に影響を及ぼす可能性があり、特に肥満、糖尿病、高血圧などの慢性炎症状態は母乳組成に影響を及ぼす。
肥満母親の母乳は脂肪含量、サイトカインレベル、ホルモン濃度に変化が観察され、同様に糖尿病も母乳組成を変化させて免疫因子や代謝マーカーに影響を与える。
いずれも子孫の健康に大きく影響を及ぼす要素ばかりである。
リンクのレビューは、母乳組成に対する慢性炎症状態の影響と、その子孫の発育への潜在的な影響を強調するもの。
伝わりやすそうな要点を抜粋してまとめてみます。
妊活中・妊娠中の方が参考になりそうな一文を見つけていただいたら幸いです。
母乳組成に対する地理的要因と母親の食生活の影響
・代替ミルクと比較して、母乳は新生児にとって好ましい栄養源と考えられており、WHOは生後6ヶ月間は母乳のみで育てることを推奨している。母乳育児は下痢や肺炎といった感染症発生率の低下や、肥満や糖尿病のような慢性疾患の有病率の低下と関連している。
・母乳は新生児の成長に必要なすべての栄養素を供給する。その組成は酵素、ホルモン、ケモカイン、サイトカイン、免疫グロブリン、免疫細胞などの免疫因子を含む栄養的/非栄養的な生理活性成分に富む。母乳組成は動的であり、哺乳段階、母親の食事、その他多くの環境要因と乳児の栄養ニーズに応じて変化する。環境に応じて母乳組成が変化するこの能力は、母乳が母体の病的状態、特に免疫反応のバランスの変化や慢性疾患における炎症亢進状態においても変化する可能性があることを示唆している。
・母乳はの第二の重要作用は乳児の口腔プログラミングを実行すること。この作用はいくつかのエピジェネティックメカニズムに対する修正因子の伝達を通じて行われる。
・母親の食習慣は母乳組成を決定する上で重要な役割を果たし、様々な生理活性成分に影響を与える。特に脂肪、脂肪酸およびビタミンA、C、B6、B12などの水溶性ビタミン濃度は母体の栄養状態によって母乳中で変化する。これらの成分の中では脂質が最も母親の食事の影響を受けると考えられる。母親の高脂肪食は低脂肪食に比べて乳脂肪分を約12~25%増加させることが研究で示されている。
・砂糖(150.4g砂糖/日)および脂肪(129.7g脂肪/日)の摂取量の増加が母乳脂質に及ぼす急性影響を検討したある研究では、トリグリセリドはいずれの食餌でも有意に増加し、対照食と比較して砂糖の摂取量が多い方がより大きな反応を示した。母乳コレステロール濃度は高糖質食でのみ増加した。
・食事性脂肪酸は母乳中に速やかに移行することから、ヒト母乳脂肪組成は食事性脂肪プロファイルを反映して変化しうる。この点に関して、エイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、n-3系脂肪酸、n-6系脂肪酸、飽和脂肪酸(SFA)、PUFAの食事からの摂取量と母親の母乳中濃度との間に正の相関関係があることが韓国人を対象とした研究で発見された。
中国人授乳中母親においても同様の相関が観察され、母親の食事脂肪酸組成と母乳中SFA、PUFA、DHA濃度が正の相関を示し、一価不飽和脂肪酸(MUFA)は負の相関を示した。
・高脂肪食は母乳中オメガ6脂肪酸を増加させて、炎症反応を悪化させる可能性があるが、一方でオメガ3脂肪酸リッチ食は母乳中のDHAとEPA濃度を高めて慢性炎症関連リスクを軽減する可能性がある。
・食生活の乱れは代謝異常の原因となり、肥満、糖尿病、高コレステロール血症などを引き起こし、母体の健康に影響を及ぼすだけでなく、母乳の生理活性成分も変化させる。
したがって、特に慢性炎症性疾患においては、母親の食習慣に対処することが不可欠である。
バランスのとれた栄養価の高い食事は、これらの疾患が母乳組成に及ぼす悪影響を軽減するのに役立ち、それによって母親と乳児の双方により良い健康結果をもたらすことができる。
産後ケアに食事カウンセリングを取り入れることで、母乳の生物活性プロファイルを高め、炎症関連疾患の早期予防における重要な成分としての役割を促進することができる。
母乳組成は民族や地域によってダイナミックに変化する。
慢性炎症
・急性炎症は数分から数時間で引き起こされて数時間から数日間続く一方で、組織傷害や感染症が解決しない場合は慢性炎症に移行する。興味深いのは、慢性炎症は主に組織の機能不全によって引き起こされること。多くの慢性疾患の特徴になっている炎症は、それら疾患リスクと発症において適応免疫系と自然免疫系が中心的役割を担っていることを示唆している。新生児の免疫系は胎盤や母乳を介して移行する母親の免疫の影響を受ける。
・母乳には乳児を保護し、発育、適切な炎症反応を促進することで乳児の免疫系を調節できる成分が含まれている。成人期の慢性炎症性疾患は、出生前および出生後の早期栄養不良と関連していることを示す研究もある。生後早期の炎症は神経発達に不利な結果をもたらす可能性があり、新生児期の炎症を緩和することの重要性が強調されている。
母体の慢性炎症状態、母乳組成への影響および育児プログラムにおける役割
肥満
・WHOによると世界で6億5,000万人以上が肥満に罹患している。肥満の標準指標は体格指数(BMI)30kg/m2以上。肥満は糖尿病、高血圧、脂質異常症など複数の代謝性疾患を引き起こす低悪性度慢性炎症が特徴。妊娠適齢期女性における肥満有病率は、過去30年間一貫して増加し続けている。
・母親の肥満は妊娠糖尿病(GDM)、高血圧、子癇前症、分娩時の合併症、授乳困難の素因となる。また、肥満母親から生まれた子供は、その後の人生で非肥満女性の子孫に比べて3〜5倍肥満になりやすい。
・母乳には、総脂肪、グルコース、ラクトフェリン、C反応性蛋白(CRP)、インスリン、レプチン、グレリン、アディポネクチン、オベスタチンなどのホルモンが多く含まれている。母親の肥満はこれらの免疫学的および生物活性因子を変化させる。その変化は乳児の代謝発達や体重調節に影響を及ぼす可能性があり、乳児の摂食行動にも影響を及ぼす可能性がある。
・肥満母親の母乳はオメガ3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)に対する炎症性オメガ6系脂肪酸(PUFA)の比率が増加している。これは子孫の心代謝状態や神経発達の転帰に影響を及ぼす可能性がある。母乳脂肪酸プロファイルにおけるこの変化は、インスリン、CRP、レプチン、アディポネクチン、グレリン、インターロイキン(IL)-6、腫瘍壊死因子α(TNF-α)の変化と関連している。
・乳幼児の腸管透過性は高く、母乳中で変化した免疫学的および生物活性化合物が子孫の循環に入ることによって全身への影響を引き起こす可能性がある。多くの研究が、出生前と出生後の栄養過剰が相互に作用してプログラミングに相加的影響を及ぼすことを示している。
・多量のオメガ6PUFAはエイコサノイドカスケードの変化と免疫系障害に関連する。これは子孫に有害なプログラミング効果を及ぼし、肥満、糖尿病、高血圧などの炎症関連疾患になりやすくなる。臨床研究では、肥満母親の母乳中のレプチンとオメガ6-オメガ3PUFAsレベルの上昇が乳児の過度な体重増加と関連しており、これが後に代謝性疾患や炎症性疾患の発症につながる可能性があることが報告されている。
糖尿病
・母親の糖尿病はT1DMとT2DMからなる妊娠前(PGDM)の症状と、妊娠中に発症する妊娠糖尿病(GDM)として知られている。GDMとPGDMは子癇前症、心血管疾患、肥満を含む様々な合併症リスクを増加させ、母子ともにT2DMを発症しやすくなる。
・糖尿病女性の母乳組成は、非糖尿病女性と比較して炭水化物の含有量とエネルギー含有量が高かいことがわかっている。GDM女性の初乳はサイトカインとケモカイン濃度が異なり、IL-15、IL-6、インターフェロン-γ(IFN-γ)の濃度が上昇し、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)濃度が低下、免疫組成の変化を引き起こしていた。これらの変化が乳児の健康に及ぼす影響についてはさらなる調査が必要だが、母親の糖尿病が乳児の代謝および免疫プログラミングに影響を及ぼす可能性があることが示唆された。
また、新生児期早期に糖尿病の母親から母乳を摂取すると、幼児期の体重が増加し、後に太りすぎになるリスクが高まることが示唆された。
高コレステロール血症
・高コレステロール血症は低比重リポ蛋白コレステロール(LDL-C)の血中コレステロール値の上昇を特徴とする脂質代謝異常症で心血管疾患と強く関連している。母乳育児はこの変化を予防する保護因子である。具体的には、2年以上の母乳育児は母乳育児をしなかった女性の30~39歳の時点でのLDL関連疾患に罹患率を16%低下させる。
また母乳で育てられた成人は、動脈硬化発症リスク減少に関連する利点がある可能性が報告されている。
・3ヵ月以上の母乳育児は、産後1年時点の母親のコレステロールプロファイルの改善と関連している。授乳はトリグリセリドとコレステロール排泄経路として機能し、授乳中の母親の血清濃度を低下させるのに役立つ。したがって、母乳育児は乳児に利益をもたらすだけでなく、脂質代謝を改善し、脂質異常症が持続する可能性を減少させることによって母親の心血管系の健康にも重大な保護効果をもたらす可能性がある。
・妊娠中母体の脂質異常症は子癇前症や妊娠糖尿病のリスク上昇など、母体と胎児にとって不利な妊娠転帰と関連している。
・妊娠第3期に血中脂質値が300mg/dLより高かった女性は、妊娠第3期に脂質値が300mg/dLより低かった女性と比較して、産後も長期間脂質値が高いままだった。さらに、多産婦の方が無産婦よりも脂質値が高いことが分娩数と関連して観察され、産褥期にHDLコレステロール値が低く、LDLコレステロール値が高かった。
・授乳中の母親が脂質濃度を上昇させた場合,その脂質が乳児に移行して幼少期の心血管系の健康に影響を及ぼす可能性が高い。
高血圧
・高血圧は妊婦の約5~10%に影響を及ぼし、妊娠高血圧腎症、早産、母子の後年の心血管疾患リスクの増加などの重篤な合併症を引き起こす可能性がある。女性と子孫の長期的な健康リスクを軽減するために、妊娠中および妊娠後の血圧を効果的に監視・管理することの重要性が強調されている。
・産後1ヵ月から6ヵ月以上の授乳が産後高血圧の予防因子であることはよく知られている。授乳は母体の血圧に対する有益な効果と関連しており、その保護的効果は数十年間持続する。残念ながら、この保護効果は妊娠高血圧症女性で認められたが、妊娠高血圧腎症を発症した女性では認められなかった。
・妊娠中に高血圧を発症した女性は母乳分泌の開始が遅れ、母乳供給が不十分であると報告する確率が有意に高い。
・高血圧女性の初乳および成熟母乳の栄養組成については、正常血圧女性と比較して、総タンパク質レベルが高く、脂質、カロリー、炭水化物の量が多かった。また、妊娠中に全身動脈性高血圧に罹患した母親の母乳は、罹患していない女性よりも脂肪とカロリーレベルが低かった。
・産後6ヶ月の妊娠高血圧腎症女性の母乳中代謝産物については、対照群と比較してグリセロホスホコリンとクエン酸濃度が低く、どちらも炎症反応や酸化ストレス、エネルギー代謝障害に関連していることが示された。
メタボリックシンドローム
・メタボリックシンドローム(MetS)は、高血圧、中心性肥満、インスリン抵抗性、アテローム性脂質異常症などの代謝異常のことで、糖尿病や心血管疾患発症リスクを著しく高める。男性に比べて女性の有病率が有意に高く、妊娠中母体のMetSは妊娠糖尿病、子癇前症、早産や胎児の過成長など新生児の有害な転帰リスクを高める可能性がある。
・4年前に行われたメタ解析に含まれた研究のほとんどが授乳と母体のMetS発症との間に有益な関連があることを明らかにした。授乳期間は女性のMetS発症リスクと負の相関を示し、特に授乳期間が1ヵ月長くなると、MetSリスクが2%減少した。GDM女性と非GDM女性の比較におけるMetSのHRは、母乳育児期間が長いほどMetS発症が有意に減少することがわかった。
・授乳期における母親の肥満や肥満誘発食の影響は、子孫の成人期におけるメタボリックシンドロームの発症である。
母乳細胞外小胞が乳児の代謝および免疫学的発達に及ぼすエピジェネティック・プログラミング効果
・母乳細胞外小胞(EVs)は、免疫、神経発達、代謝調節を含む遺伝子発現や発達経路に影響を与えることで、乳児のエピジェネティックプログラミングに重要な役割を果たしている。小胞は乳腺上皮から分泌されて分子キャリアとして働き、マイクロRNA(miRNA)、ロングノンコーディングRNA(lncRNA)、低分子干渉RNA(siRNA)、タンパク質、脂質などの生理活性成分を送達する。
EVは乳児の胃腸環境を生き延びて組織に吸収され、全身循環を通じて細胞間コミュニケーションを可能にし、乳児の成長と長期的な健康にとって重要な細胞機能を調節するエピジェネティックプログラミングを促進する。
・母乳分子プロファイルの動的性質と乳児の栄養と発育ニーズの変化への適応を反映して、miRNA濃度は授乳期を通して変化することが示唆されている。糖尿病、過体重、肥満などの母親の状態や母親が摂取する食事は子孫のエピジェネティックな変化を引き起こすことが知られており、ヒト母乳のmiRNA組成に大きな影響を与える可能性がある。
長くなってしまいましたが、ポイントは炎症性食材の除去と脂質の種類及び質、妊娠前からのMets予防をいかに行うか。食事以外の外的要因も考慮しながら…といったところ。
より具体的な戦略をお探しの方は、当院の栄養マニュアルのご利用を是非ご検討ください。
産後ダイエット、体質管理にも非常に有益な内容になっています。
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