慢性骨髄性白血病(CML)は後天性疾患で、遺伝的素因は知られていない。
通常、慢性期に発見され、成熟した骨髄細胞のクローン拡大が特徴。
現在の主な治療は化学療法、インターフェロン療法、幹細胞移植、分化誘導、標的療法をCMLの異なる相で選択する。
標的療法、インターフェロン療法、幹細胞移植の奏効率はそれぞれ80~90%、33~58%、59~94%、5年全生存率は90%、34~90%、60%とされる。
1-Isothiocyanato-6-(methylsulfinyl)-hexanate(6-MITC)は、わさび(Wasabia japonica)に含まれる天然化合物で、抗転移、化学予防、抗がん作用、骨痛予防、肝細胞の保護作用がある。
過去に発表された研究では、6-MITCとその誘導体がCML治療において、心臓や骨に対してより少ない毒性を示す可能性があることが示唆されている。
また、ヒトCML K562細胞の生存性を示した研究では、6-MITCの存在下で広範囲な分裂停止、紡錘体の多極化、細胞質空胞の蓄積が誘導されることが示されている。
また、6-MITCによって(有糸分裂とオートファジーの同時誘導による)細胞死が観察されている。
これらの結果から、6-MITCが治療薬としての可能性を持つことが明らかになった。
6-MITC(酸素を1つ含むスルホン)での酸素の欠失と付加により、それぞれ1-Isothiocyanato-6-(methylsulfenyl)-hexane(I7447:酸素を含まないスルフィド)と1-Isothiocyanato-6-(methylsulfonyl)-hexane(I7557:二つの酸素を含むスルホン)の合成誘導体が作られ、それぞれヒト口腔癌細胞に対して異なる作用を見せることが観察されている。
上記3つの化合物の構造活性相関によって様々な抗腫瘍活性が明らかになると考えられるが、I7447とI7557の白血病における治療的役割は不明なまま。
リンクの研究は、6-MITC誘導体であるI7447とI7557のヒト慢性骨髄性白血病(CML)細胞に対する抗がん作用を検討したもの。
結果
I7447とI7557で処理した後、G2/M期の細胞周期停止が明らかになった。
細胞死は、異なるメカニズム(オートファジーと異常な有糸分裂の同時発生)により誘導される。
アクリジンオレンジの発現量はリソソーム阻害剤によって有意に影響された。
天然わさび成分である6-MITCとその合成誘導体はヒト慢性骨髄性白血病細胞に対して同様の作用を示し、白血病に対する新規治療薬として利用できる可能性がある。
Anti-Cancer Effects of Oxygen-Atom-Modified Derivatives of Wasabi Components on Human Leukemia Cells
・I7447とI7557は、ヒト白血病K562およびHEL細胞における6-MITCと同様の効果を示すことが示された。
化合物処理した細胞では、異常な有糸分裂、オートファジー、アポトーシスが観察された。
さらに、オートファジー フラックスの影響下で細胞死が観察された。
・大腸がんでは、わさびはAktとmTORのリン酸化を低下させることでオートファジーを誘導し、微小管関連タンパク質1軽鎖3-Ⅱの発現とAVO形成を促進する。
リソソームは、オートファジーや代謝シグナル分子AMPKやmTORC1を制御することから、エネルギー代謝や細胞内クリアランスのメディエーターとみなされている。
・6-MITCの化学誘導体が核因子κB(NF-κB)経路の阻害を通じて、様々ながん細胞においてミトコンドリア機能の障害とアポトーシスを誘導することが観察された。
・6-MITCの抗腫瘍特性も報告されている。フローサイトメトリー解析ではI7447、6-MITC、I7557で処理したK562細胞でサブG1期の細胞(アポトーシス細胞)の割合が高く、オートファジーやアポトーシスレベルが上昇していることが示された。
・ヒト膵臓癌細胞において、6-MITCおよびI7557は、G2/M期停止および低倍数体集団を誘導する。
口腔癌細胞では、細胞周期解析により6-MITCおよびI7557処理細胞ではかなりのG2/M期停止が見られたが、I7447処理細胞ではサブG1集積が観察された。
6-MITC化合物およびその誘導体は、様々な種類の腫瘍細胞においてG2/M期停止を誘導し、その後オートファジー細胞死とアポトーシスの両方による細胞死を促進することが確認された。
・本研究では、I7557、6-MITC、I7447が慢性白血病細胞において強力なオートファジー誘導作用を示した。
I7447およびI7557のオートファジー誘導作用は、オートファジー阻害剤である3-MA、CQ、E/P、BAFA1およびラパマイシンによって逆転することはなかったことから、I7447とI7557が異なるメカニズムでオートファジーの細胞死を誘導することを示している。
・フローサイトメトリーではI7447、6-MITC、I7557は、K562およびHEL細胞の分化を変化させないことが示された。6-MITCの化学誘導体はオートファジー、アポトーシス、G2/M期停止を誘導するが分化を誘導しない。