今回のブログは、しばしば患者さんからご相談を受ける鉄欠乏症(ID)と鉄欠乏性貧血(IDA)について最新データをまとめてみたい。
IDは近年最も一般的な微量栄養素欠乏症のひとつで、月経(出血)、妊娠(胎児要求)、出産時の出血を要因としてライフサイクルを通じて女性のQOLに影響を及ぼし、、妊産婦や新生児の有害な出産転帰にも関連する。
鉄欠乏症は貧血を伴わない鉄の枯渇から赤血球造血障害や貧血に至るまでスペクトルとして発現する。
女性におけるIDの全身的影響は広範囲に及び、放置すれば重篤な影響を及ぼす可能性がある。
IDは一般的な貧血の特徴に加え、疲労、身体的持久力の低下、脱毛、爪の脆弱性、上皮組織の構造や機能の低下、嗜癖、レストレスレッグス症候群、認知能低下、行動障害などの症状を表すことがある。
2014年、WHOは2030年までに妊娠適齢期女性の貧血を50%減少させるという目標を設定したが、現在の罹患率はIDからIDAへの進行を防ぐための評価、診断、治療は不十分であることを示唆している。
さらに、ID/IDA発見のための閾値ガイダンスは古く、新しいWHOガイドラインと一致していない。
リンクの研究は、女性の鉄欠乏症(ID)および鉄欠乏性貧血(IDA)を呈している女性の長期的健康転帰を改善するために、ベストプラクティスを提供することを目的としたもの。
ID/IDA女性の臨床実践に情報を提供し、ケアを標準化するために非常に役立つ研究。
・非に心中女性の約40%が鉄貯蔵量が少ないという事実にもかかわらず、多くの臨床家は成人女性や閉経前後の女性をハイリスク群として認識していない。国際的なガイドラインの多くは、妊娠適齢期女性の18~38%が罹患すると推定し、更年期女性ではより高い月経多量出血(HMB)に伴うID/IDAのスクリーニングと治療の重要性を示している。
・女性のIDAは見逃されやすく、治療可能なIDの早期段階が発見されず未治療のまま放置されていることが多い。診断のではIDを示す危険因子や症状が重要な役割を果たすが、IDのある種の症状はIDAが発症するまで必ずしも現れない。
・非貧血性IDの思春期女性に症状では、一般に疲労、言語学習および記憶力の低下が観察される。更年期女性では、疲労や運動能力の低下などがみられる。しかし、これらの非血液学的症状が貧血の前にどの程度現れるかは不明で、推奨に直接役立つエビデンスは発表されていない。
・女性に対する貧血予防戦略は妊娠中のID/IDAを予防することに重点が置かれてきたが、妊娠の有無にかかわらず女性はID/IDAのあらゆる影響に苦しむことが立証されている。非妊娠女性のIDは持久力や作業能力の低下、知的・認知機能の障害、うつ病と関連している。
さらに軽度ID女性では、過敏性、持久力の低下、引きこもりがみられることがある。
IDAは持久能力に大きな影響を及ぼすことから、身体的パフォーマンスおよび作業耐性の低下をもたらす可能性がある。仕事の生産性や自発的活動に加え、IDとIDAは女性の疲労や運動能力に臨床的に重大な影響を及ぼす。
・妊娠中の鉄分の充足は、女性が最適な鉄分を蓄えた状態で妊娠に至った場合にのみ保証される。したがって、思春期女性や非妊娠成人女性は軽度の鉄欠乏症であっても予防・治療に努めるべきである。
・妊娠中および非妊娠中の女性におけるID/IDAの予防と治療に対する経口鉄剤摂取の有効性と安全性は、広範なエビデンスによって裏付けられている。WHOガイダンスではすべての非妊娠成人女性および思春期女児に対して、1年間のうち連続3ヶ月間、経口鉄剤摂取を推奨している。
また、経口鉄剤の忍容性が低い場合は週1回の間欠的投与を提唱している。これは腸管細胞が5〜6日後にターンオーバーすることに関連し、1週間間隔で鉄を投与することで吸収が促進され、未吸収の鉄への胃腸(GI)曝露が減少することでGI有害事象リスクを増加させることなく、貧血発症率を減少させることが可能となる。
女性のID/IDAの治療
IDAの治療は、鉄貯蔵量を補充し、正常なHb値を回復させることを目的とすべきである。
多くの専門家グループや臨床ガイドラインは、女性の合併症のないID/IDAの治療の第一選択療法として経口鉄剤を推奨している。
第一鉄は第二鉄に比べて生物学的利用能が高く、Hb値を回復させるのに有効であるため、第一鉄の経口投与は依然としてID/IDAの標準的な治療選択肢である。
最も広く使用されている経口第一鉄製剤は、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、フマル酸第一鉄の3種類である。
・WHOはIDAと診断された妊娠中および産後女性に対し、Hb値が正常化するまで1日あたりの鉄摂取量を、標準的な妊産婦1日量である30~60mgから120mgに増やすことを推奨している。今回の調査では鉄の吸収を最適化して忍容性を向上させるために、連日投与から隔日投与へ、また分割投与から朝1回投与することが有効であることが示された。
・鉄60~120mgとアスコルビン酸(ビタミンC、鉄吸収促進剤)を交互に朝単回投与することは、鉄吸収が改善し、IDAおよび軽度IDAの女性にとって最適な経口投与法である可能性を提唱する研究者もいる。
・朝の単回経口鉄剤投与は、全身の鉄ホメオスタシスの負の調節因子である血漿ヘプシジンを増強する。上昇したヘプシジンが鉄吸収を阻害するレベルに達しないようにするため、午前中に鉄を投与した後、午後または夕方に鉄を投与することは推奨されない。
・経口鉄剤を隔日投与するか連日投与するかはID/IDAの重症度と患者の希望(経口鉄剤に対する耐性)によって決定すべきである。軽度IDAのようにHb反応速度は重要でないが耐容性が重要な場合は隔日補充を考慮すべき。
・異なる経口鉄製剤の忍容性を評価したシステマティックレビューのデータから、グルコン酸第一鉄や硫酸第一鉄の方がフマル酸第一鉄よりもアドヒアランスが改善することが示唆されている。
・鉄のほか、ビタミンB12、葉酸、銅、亜鉛は、Hbの合成に不可欠な微量栄養素である。これらの微量栄養素のいずれかが欠乏すると貧血を引き起こす。貧血患者では、IDは他の複数の微量栄養素欠乏(MND)と関連している可能性が高い。貧血の軽減には鉄単独よりも多種微量栄養素(MMN)の補給がより効果的である。
コクラン(Cochrane)レビューでは、妊娠中の経口MMN補充は経口鉄と比較して、出生転帰の改善(低出生体重児、低出生体重児、死産リスクの減少)と関連し、死亡転帰には重要な利益も害もないという説得力のある証拠が示されている。