アレルギー性疾患(AD)の有病率は日本を含む先進国で高い。
一方で発展途上国では低いのかというとそうではなく、近年、生活様式の欧米型シフトに伴ってアレルギー性疾患発症率が途上国でも劇的に増加している。
生活様式の欧米型シフトの一つである西洋食の導入はアレルギー疾患発症の危険因子として認識されているが、地中海食はアレルギー疾患に予防効果があることがわかっている。
したがって、異なる食事成分によってアレルギー反応にもたらされる効果が正反対であることから、異なる栄養組成、栄養素の量が異なる食事は感作を促進して重症度を悪化させるか、あるいはアレルギー疾患を予防し、疾患進行を抑制することになる。
また、食事や栄養とリンクする領域では、腸内細菌叢とアレルギー疾患の関連性に注目が集まっている。食事成分は腸内細菌叢の形成に重要な役割を果たしており、腸内細菌叢は腸上皮バリアの完全性と腸管免疫恒常性の維持に不可欠。
また、栄養素と細菌代謝産物は”腸-肺軸”および”腸-皮膚軸”を介して、肺や皮膚など腸以外の臓器におけるアレルギー炎症を制御する。
さらに、栄養素とその代謝産物は膜脂質組成、炎症と代謝に関連する主要なシグナル伝達経路、遺伝子発現を変化させることでアレルギー性炎症のあらゆる段階における、構造細胞と様々な免疫細胞の両方の代謝と機能を制御する。
リンクの論文は、アレルギーの病因と食品成分、栄養介入に関する臨床的所見について、最新のデータをまとめたもの。
長文になってしまうが、アレルギー症状でお悩みの方は是非最後まで目を通していただきたい内容となっている。
The Role of Diet and Nutrition in Allergic Diseases
アレルギーにおける食事と栄養状態の役割
・食事要因はアレルギー疾患の発症に影響するだけでなく、疾患の経過や重症度にも影響する。
高エネルギー、高飽和脂肪酸、高タンパク質、低繊維質の食事摂取は喘息およびアレルギー性鼻炎(AR)リスクを高める。一方で、地中海食に特徴的な野菜や果物、オリーブ油、魚の大量摂取は喘息やARをリスク低下させる。最近のエビデンスでは、食物繊維の摂取量が多いほど喘息症状が少ないことが示唆されている。また、微量栄養素の十分な摂取は、アトピー性疾患リスクの低下や症状の軽減と関連している。
・栄養代謝とアレルギー疾患には密接な関係がある。花粉症患者ではエネルギー代謝、アミノ酸代謝、脂質代謝に広範な変化が認められる。AR患者では血清中の代謝産物が少なくとも10種類上昇することが示されており、それらはポルフィリンとクロロフィル、アラキドン酸、プリン代謝の3つの経路に属している。
・飽和脂肪酸やコレステロールなどの親アレルギー性栄養素は上皮細胞や間質細胞からのTSLP、IL-25、IL-33放出を促進し、ILC2細胞を活性化してIL-4、IL-5、IL-9、IL-13を産生させてアレルギー性炎症のサイトカイン環境を作り出す。対照的に、ファイトケミカル、微量栄養素、食物繊維を含む抗アレルギー栄養素はAhR活性化を介したILC2細胞における2型サイトカイン産生の抑制、寛容型樹状細胞、抗炎症性マクロファージ、Tregの生成促進、顆粒球からのヒスタミン、プロスタグランジン、ロイコトリエン放出の抑制を通じてアレルギー性炎症を抑制する。
食事タンパク質、アミノ酸、エネルギー
・高タンパク質食はマウスにおける1型アレルギーリスク上昇と関連しており、B細胞の増加、総IgEおよび抗原特異的IgEの増加、Th1/Th2バランスのTh2優位への偏りが特徴的。
マウスではエネルギー制限を伴わない中等度タンパク質欠乏は、通常のタンパク質食と同程度の総IgEをもたらすが、これはエネルギーがIgE産生調節において重要であり、エネルギー供給を制限することがアレルギー疾患の増悪期における高IgE反応を制御する上で重要であることを示唆している。実際に、マウスでは40%食餌エネルギー制限でヒトAD類似皮膚炎の発症が遅延したことが報告されている。さらに、食事制限はこれらのマウスの皮膚炎の進行を抑制し、血清IgEの減少、皮膚浸潤炎症細胞(リンパ球および好酸球)の数の大幅な減少、皮膚IL-4およびIL-5産生の減少と関連した。
・(必須アミノ酸の一つである)トリプトファン代謝が多くのアレルギー疾患で変化し、それにはIDO(インドラミン2、3-ジオキシゲナーゼ)経路が中心的な役割を果たしている。血清トリプトファン濃度が高いのは季節性AR患者と小児喘息児で、両疾患の患者はIDO活性が低い。Th2アレルギー性炎症では高レベル一酸化窒素が酵素のヘム基に結合することでIDO活性を阻害する。従って、抗アレルギー療法としての抗酸化剤の根拠は、誘導性一酸化窒素合成酵素を阻害し、IDO活性をレスキューする能力にある。
・L-グルタミンは免疫細胞の機能に重要な役割を果たすアミノ酸で、免疫細胞の主要な燃料であり、リンパ球増殖やサイトカイン産生などの基本的な免疫細胞の機能に不可欠である。最近の研究ではグルタミン代謝異常がアレルギー疾患と関連していることが示されている。
食事性脂質
・食事性脂質の量と脂肪酸の種類はアレルギー性炎症に影響する。
高総脂肪、動物性脂肪、飽和脂肪酸(SFA)、コレステロール、n-6系多価不飽和脂肪酸(PUFA)、中鎖脂肪酸(MCF)は危険因子。一方で、一価不飽和脂肪酸(MUFA)とn-3系PUFAは保護因子である。
・ヒト成人では、動物性脂肪やSFAが多いとアレルギー性鼻炎と関連する一方、MUFAを多く摂取すると喘息リスクが低くなる。MUFAを豊富に含むオリーブオイルの摂取量増加はイタリアの成人および台湾の10代における喘息リスク低下と関連したことが報告されている。
マウス実験では高脂肪食はマウスの皮膚炎を悪化させることが示されている。
・西洋食(脂肪21.2%、ショ糖34%、コレステロール0.2%)の長期飼育マウスは、対照食(脂肪5.2%、ショ糖12%、コレステロール0.01%)と比較して老化マウスの自然発症皮膚炎が大幅に増加した。西洋食を与えたマウスは皮膚背部の表皮の厚さが増加し、病変部皮膚では表皮過形成が非常に多く、ADに典型的な過顆粒症と海綿状血管症を伴っていた。
・欧米食によって誘導される胆汁酸代謝異常が皮膚炎病変の原因。飽和脂肪酸やコレステロールのほかにヤシ油やパーム油に含まれる中鎖脂肪酸(MCF)もアレルギーの危険因子である。
ピーナッツアレルギーモデルマウスにピーナッツタンパク質をMCFとともに摂取させると、血清IgE、抗ピーナッツIgG、および脾臓細胞からのIL-13産生が増加。MCFは空腸上皮からのTSLP、IL25、IL-33のmRNAのアップレギュレーションを通じてアレルギー感作を促進し、
さらにMCFsはn-6PUFAsと比較して経口抗原誘発アナフィラキシーを悪化させた。
・アスパラガス(Asparagus officinalis L.)から単離されたリン脂質が抗アレルギー作用を有することが示された。このリン脂質の経口投与は、OVAチャレンジマウスにおいて血清総IgEおよびOVA特異的IgEを抑制し、AD臨床スコアを改善した。また、アスパラガスのリン脂質および糖脂質画分はβ-ヘキソサミニダーゼ放出を強力に阻害し、アレルギー反応における脱顆粒に直接作用する。
・喘息、アレルギー性鼻炎(AR)、ADに対する長鎖PUFA補給の効果について。
動物実験では食事性n-3系PUFAの保護効果に関する明確な証拠が得られている。食餌性n-3脂肪酸α-リノレン酸は、n-6脂肪酸リノール酸と比較してADマウスの皮膚バリア機能を改善し、OVA誘発ARマウスの症状を減弱させる。
・DNCB誘発ADマウスモデルでは、食餌性魚油と発酵魚油の両方が掻破行動を有意に緩和し、表皮の厚さを減少させ、皮膚病変における細胞浸潤を減少させ、耳組織におけるTSLPタンパク質の発現と血清ヒスタミンとIgEを抑制した。この効果は発酵魚油の方がより優れた効果を示した。天然魚油と比較すると、発酵魚油は皮膚組織に取り込まれることが知られているEPAとDHAの含有量が高く、IL-13とIFN-γに対する抑制効果がより強かった。
・オリーブオイルが腸粘膜バリア機能を改善することで食物アレルギーを予防することが明らかになった。また、血清中の抗原特異的IgE、抗原特異的IgG、ヒスタミンを減少させることで食物アレルゲンに対する経口耐性を高める。
オリーブオイル摂取に伴うIL-10の増加とIL-4の減少は、トレグとブレグが誘導されることを示している。
食物繊維
・動物実験によると、食物繊維は細菌代謝産物である短鎖脂肪酸、特に酪酸を介してADやアレルギー性喘息を予防する。食物繊維のSCFAへの腸内細菌叢発酵は、皮膚と肺におけるアレルギー反応の腸-皮膚軸または腸-肺軸の制御の鍵となる。動物実験と一致して、ヒトの腸内細菌叢におけるFaecalibacterium prausnitziiの存在量と酪酸発酵能の低下を特徴とする腸内細菌叢異常症がAD患者で確認されている。
・腸内細菌叢由来の酪酸は小児喘息におけるマイト特異的IgEレベルと逆相関することが判明している。さらに、小児期にアレルギーを発症する乳幼児は腸内細菌叢における炭水化物分解酵素と酪酸産生酵素が減少している。
・最近のヒト臨床研究で、腸内細菌因子がARと関連していることが示された。AR患者は健常対照群と比較してプレボテラの相対存在量が低く、エシェリヒアの相対的存在量が高かった。プレボテラ菌の存在量は食物繊維の摂取量を反映し、植物性食品を中心とした食事と関連している。
また、プレボテラの相対存在量の減少は西洋食と関連し、エシェリヒア菌の増加は高タンパク食と関連している。喘息や鼻炎の小児ではエシェリヒア菌の増加がみられる。
・ヒト研究から、食物繊維の摂取量が多いほど喘息予防効果があるといういくつかのエビデンスが得られている
・マウス研究では、妊娠中に高繊維食または酢酸塩を摂取した母親から生まれたマウスは、ハウスダストマイト(HDM)誘発喘息から保護されることが示された。
また、HDM誘発性ADマウスモデルでは高繊維(イヌリン、高発酵性食物繊維)または酪酸の摂取は皮膚炎の発症から保護することもわかっている。
・食物繊維の量と種類はアレルギー性気道炎症への感受性と炎症の重症度に影響する。
低繊維食(0.3%未満)は、標準的な4%チャウ食と比較してマウスのHDM誘発アレルギー性気道炎に対する感受性を増加させた。低繊維食のマウスでは通常レベルの繊維食マウスと比較して、肺の好酸球とリンパ球の増加、総IgEとHDM特異的IgG1の上昇が観察され、低繊維食が系統的なアレルギー性炎症反応を促進することが示唆された。
フラボノイドと植物性化学物質
・ケルセチンの抗炎症作用は、アレルギー動物モデルで頻繁に報告されている。最近の研究では、ケルセチンの経口投与は鼻洗浄液中の血管新生因子および炎症性サイトカインTNF-αなど抑制することにより、マウスにおけるOVA誘発ARの鼻症状を減弱させることが示されている。
ケルセチンサプリメントの推奨摂取量によって達成される生理的血中濃度に匹敵する濃度のケルセチンは、mRNAレベルでVEGF(血管上皮成長因子)およびbEGF(塩基性線維芽細胞成長因子)を完全に阻害し、mRNAレベルでTNF-α、IL-6およびIL-8を強力に抑制した。
・レタスやカンタロープに含まれるフラボノイドの一種であるバイカリンは、IL-10/IL-17を調節し、ARマウスモデルにおける症状を軽減した。多くの果物、野菜、ハーブ、お茶、薬用植物に含まれるカエンフェロールも抗炎症、抗酸化、抗アレルギー作用を示す。マウスへのカエンフェロールの経口投与は好酸球浸潤と気道炎症を抑制するだけでなく、気道上皮間葉転換(EMT)と線維化を抑制した。線維化した気道のリモデリングは喘息に特徴的で、肺機能の悪化をもたらすが現在の薬物療法では治療できないことから、カエンフェロールは喘息に関連した気道構築の治療薬となる可能性がある。
・ポリフェノールであるレスベラトロールは肥満細胞の活性化を抑制し、アレルギー症状の治療に可能性を示している。マウス慢性喘息モデルにおける最近の研究で、レスベラトロールの経口投与が気道炎症とリモデリングを抑制することが示された。喘息発症マウスでは、レスベラトロールは肺組織におけるTGF-β産生とシグナル伝達および上皮間葉転換を効果的に阻害し、肺機能が改善した。これは、レスベラトロールが喘息に伴う気道リモデリングを治療する有効な治療薬となる可能性を示唆している。
・亜麻仁に豊富に含まれる植物性エストロゲンであるセコイソラリシレシノールジグルコシド(SDG)はマウのOVA誘発性AR症状を改善し、好中球と好酸球の浸潤を減少させることが示された。
ビタミンとミネラル
・ビタミンとミネラルには免疫調節作用がある。ビタミンA、D、E、微量元素である亜鉛と鉄は、アレルギー性炎症やアレルギー性疾患の発症に影響を及ぼす特に重要な食事因子。喘息をコントロールするためには、ビタミンA、D、Eの十分な摂取が必要。
・ビタミンEとビタミンDの単独または併用補給はAD症状を改善する。無作為二重盲検プラセボ対照臨床試験では、AD患者に5000IU/日のビタミンD3を経口投与すると、血清1, 25(OH)2VD3値がプラセボ群よりも有意に上昇し、この投与量で100%の患者で十分な効果が得られている。また、気管支平滑筋細胞、ヒト気道平滑筋細胞、ヒト喘息性気管支線維芽細胞、ヒト気管支線維芽細胞に対するビタミンDの抑制効果を示す多くのin vitro研究に基づいて、喘息における気道リモデリングマネジメントにおけるビタミンDの可能性が示されている。
・鉄、亜鉛、ビタミン欠乏が小児アトピー性疾患に関与していることが示唆されており、微量栄養素の補給はアトピー性疾患の管理に不可欠であると考えられている。成人でもアトピー性疾患の病因や治療における微量栄養素の役割を支持する証拠が蓄積されている。
ビタミンAとDは、Tregの誘導を促進することにより、アレルゲンに対する免疫寛容を維持する上で特に重要である。
・ビタミンEがARに関与していることが示唆されている。ARモデルマウスにおいて、OVA感作時にビタミンE(100mg/kg/日)を経口投与すると、気管支肺胞洗浄液(BALf)のIL-33などのサイトカインが減少した。興味深いことに、セレンの同時投与はIL-13産生をさらに減少させ、ビタミンEとセレンの相乗効果を示した。ビタミンEは血清IgEを50%以上、ヒスタミンを78%減少させた。
・ARモデルマウスにα-トコフェロールを鼻腔内投与したところ、鼻症状が抑制され、炎症性病変が減少し、鼻腔組織の完全性が改善した。
・喘息モデルの動物実験では、亜鉛欠乏は通常の亜鉛摂取と比較して気道の過敏性に関連し、亜鉛補充は炎症細胞の浸潤を減少させて臨床症状を改善する。
・ホエイタンパク由来のβ-ラクトグロブミンは、鉄をヒト単球細胞に送達し、アレルゲンの抗原提示を阻害するのに有効であることが示されている。イネ科植物/シラカバ花粉症女性にβ-ラクトグロブリンベースの微量栄養素ロゼンジ製剤(鉄、ポリフェノール、レチノイン酸、亜鉛)を6ヵ月間補充したところ、プラセボ群と比較して鼻症状がより改善した。
・Se欠乏は免疫反応の低下につながり、Seサプリメントは免疫能力を高める。セレンは過酸化物を還元する重要な抗酸化酵素であるグルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)の必須成分であり、炎症によって誘発される過剰な酸化ストレスに関連した膜の損傷から身を守っている。
ヒトを対象とした研究では、血清中のセレン濃度が低いほど喘息のリスクが高くなることが報告されている。十分なセレンの食事摂取は気道炎症とTh2関連サイトカインを減少させるビタミンEとの相乗的な抗喘息効果を有する。
肥満とアレルギー
・肥満は喘息の危険因子であることが証明されており、喘息の転帰に悪影響を及ぼす。
最近のメタ解析により、肥満は小児アレルギー性鼻炎の高リスクと関連することが示された。
さらに、肥満は重症持続性アレルギー性鼻炎における炎症増悪に寄与する可能性がある。
・肥満とアトピー性皮膚炎の関連を示唆するエビデンスが増えている。アトピー性皮膚炎の有病率は肥満の小児や成人で高く、脂肪組織から放出される炎症性アディポカイン(レプチン、IL-6、TNF-α)、肥満者の脂肪組織に関連する炎症性Th1細胞およびTh17細胞、脂肪組織におけるILC2-好酸球-マクロファージ軸などが基礎メカニズムとして提唱されている。
・肥満患者に減量をもたらす食事介入は、喘息コントロールの改善に有効であることが示されている。低エネルギーの制限食による減量が肥満患者の喘息転帰の改善と気道炎症の抑制に有効であることが示され、特に飽和脂肪含有量を減らした食事で、思春期の肥満青年における体重減少および喘息関連QOLの改善と関連していた。
・ある症例報告では、標準的なシクロスポリン治療が無効であった肥満患者において食事管理と運動療法を組み合わせた減量により、皮膚病変が改善しIgEと好酸球数が正常化した。
まとめ
食事と栄養は組織と免疫のホメオスタシスを調節することにより、アレルギー疾患の発症と重症化に重要な役割を果たしている。
カロリーの過剰摂取、タンパク質や飽和脂肪酸の大量摂取、食物繊維や微量栄養素の不足は、免疫系の防御機構を誘発し、宿主にアレルギー反応を引き起こす可能性がある。
カロリー制限と十分な食物繊維および十分な多量栄養素の摂取は、アレルゲンに対する免疫寛容を維持するために不可欠。