更年期は女性にとって心身の不調を招いて大きな苦痛を伴う可能性が伴い、QOLに大きな影響を及すが、更年期の安全かつ効果的なマネジメント方法は現状では十分確立されていない。
リンクのレビューは、膣内細菌叢のバランス維持、骨量減少、中枢神経系および脂質代謝の調節という観点から、更年期症状の予防または緩和に対する乳酸菌(LAB)の潜在的な保護効果について焦点を当てたもの。
更年期障害マネジメントにおける個々の治療戦略でのLABの役割を強調している。
Lactic Acid Bacteria: A Promising Tool for Menopausal Health Management in Women
・LAB
LABはヒトの消化管、口腔、肛門、膣などに存在し、乳製品や動物性食品、植物性食品などにも存在する。
LABは一般的に有益な微生物と考えられ、Lactobacillus属、Leuconostoc属、Pediococcus属、Bifidobacteria属、Lactococcus属、Streptococcus属に属するLAB株はプロバイオティクスとして認められている。
LABは、抗菌ペプチド、短鎖脂肪酸、乳酸などのさまざまな有益な代謝産物を生産することができ、LABによる発酵は生物活性を維持し、食品の栄養価の向上、腸内感染症の予防、抗生物質関連下痢の抑制、乳糖不耐症の治療、免疫調節の促進、食物アレルギーの治療、抗酸化作用、抗不安作用、脂質代謝の促進、腫瘍の抑制などの多くの健康増進効果を発揮する。
さらに、LABは、善玉菌の増加、腸管上皮のバリア機能の強化、サイトカイン産生の調節により、腸内細菌叢構成のバランスを調整する。
・ヘルシーエイジングと乳酸菌
更年期は老化の現れであり、老化を加速させる。
更年期には女性の体は免疫の変化を受け、酸化ストレスを経験する。
卵巣機能が低下すると、インターロイキン(IL)-1、IL-6、腫瘍壊死因子(TNF)-αなどの炎症血清マーカーが増加し、これらのサイトカインに対する体の細胞反応も増加する。さらにCD4-T細胞やBリンパ球のレベル、ナチュラルキラー細胞の細胞障害活性が低下する。
閉経後女性は炎症性サイトカインレベルが上昇し、慢性炎症性疾患のリスクにつながることが報告されている。
LABはその免疫賦活特性により、炎症性腸疾患、粘膜炎、さらには大腸がんを予防し、効果的に治療することが示されている。
また、LABは様々なメカニズムで免疫を調節することが報告されている。
例えばプロバイオティクスLABは腸粘膜の組成の変化を刺激し、Tヘルパー2(Th2)からTヘルパー1(Th1)反応への変化を誘導することで液性免疫を促進するなど、粘膜免疫系に影響を与える。
またLAB摂取は、粘液分泌の増加、抗菌ペプチドの産生による病原体の増殖抑制、病原体と腸管粘膜の接着の競合、上皮細胞結合タンパク質の発現増加など、腸管バリア機能の促進をもたらす。
閉経前は十分なエストロゲンが抗酸化剤として働き、酸化ストレスのバランスをとっているが、閉経期にはエストロゲン分泌が不安定になって抗酸化作用が失われるため、活性酸素が増加すると推測される。
活性酸素のようなフリーラジカル過剰生成による酸化ストレスは、老化現象の重要な一因となっている。
したがって、活性酸素のレベルは加齢とともに増加し、老化と活性酸素の発生という2つの作用のもとで更年期障害は悪化する。
LABは優れた抗酸化力を持ち、酸化ストレスから保護することが研究で報告されている。
In vitroでは、多くのLAB株とその代謝物が1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl、O2-およびH2O2に対して優れた消去能力を示している。
また、LABはFe2+やCu2+などの金属イオンをキレート化することにより、酸化ストレスに抵抗する。
スーパーオキシドジスムターゼ活性よりも、金属イオンのキレート作用の方がLABの抗酸化能に寄与している可能性が以前の研究により報告されている。
酵素の調節もLABの作用機序の一つで、抗酸化酵素の自己分泌の調節、宿主の抗酸化酵素の活性誘導、特定の活性酸素種産生酵素の調節なども担っている。
・エストロゲン受容体反応の促進
エストロゲンに加えて植物性エストロゲンもエストロゲン受容体と相互作用し、植物性エストロゲンの体内での作用は腸内細菌叢によって制御されている。腸内細菌は植物性エストロゲンをより吸収されやすく、より強いエストロゲンおよび抗エストロゲン特性を有する生物活性物質に変換する。腸内細菌叢の構造の違いによって植物性エストロゲンの生物学的利用能は人によって異なる。LABは植物エストロゲンの代謝を促進することにより、あるいは微生物叢のバランスを調節することで植物エストロゲンの活性物質の産生を促進する可能性がある。
近年、Lacticaseibacillus paracasei、Lactococcus garvieae、Ligilactobacillus salivarius、Lactobacillus gasseri、Lactiplantibacillus plantarumなどのLAB株がグリコシダーゼ分泌能、ダイゼインからエクオールに変換する能力に優れていることが確認されている。
L. plantarum 128/2は適切な発酵条件下で、豆乳中のイソフラボンに対して十分な生物活性を示し、β-グルコシダーゼ活性の顕著な産生能を有している。
発酵を利用してイソフラボンの生体内変換を促進することに加え、LABとイソフラボンを同時に摂取することで体内でのエクオールの産生を増加させる。そのため、イソフラボンの投与とプロバイオティクスの摂取を併用するとエクオール産生量が経時的に増加する。
LABはイソフラボンと共に摂取された場合、イソフラボン代謝に直接影響を与えることでイソフラボンの生物学的利用能を最適化するだけでなく、他の細菌種に影響を与えることで間接的に健康効果をもたらし、それによって植物性エストロゲンの性能を最適化する。
一連の研究により、LABの作用に伴い、植物性エストロゲンが更年期女性の健康に重要な役割を果たすことが証明されている。
L. sporogenesは大豆イソフラボンの腸管吸収とバイオアベイラビリティを高め、更年期以降の女性の睡眠障害を適切かつ安全に緩和する。
Lpb. plantarum 1R1.3.2で発酵させた豆乳は、未発酵の豆乳よりも更年期女性の血清オステオカルシン濃度を有意に減少させる。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を対象とした研究では、性ホルモンに関連する腸内細菌叢がLABの投与後に調節され、それによって異常な性ホルモンレベルが回復することが示された。
また、いくつかの研究ではLABが視床下部のπ-tuitaryホルモンの調節に直接的または間接的に関与していることが示されており、宿主の性ホルモンレベル調節するためにLABを使用する可能性を提供している。
・更年期骨粗鬆症に対するLABの役割
更年期はエストロゲンの減少により急激に骨量が減少する。
高齢者ではヨーグルトの摂取量が多いほど骨密度が高く、身体機能が向上すると言われているが、これはヨーグルトに含まれるLABの働きによるもの。
多くの研究で、LABが腸内細菌叢を調節することによって骨吸収と骨損失を防ぐメカニズムの可能性が提唱されている。
LABは低pHを維持することによってカルシウムの利用率を高める。
LABによって促進されるビタミン合成や短鎖脂肪酸産生もカルシウム吸収を高める。
また、LABが産生する活性ペプチドの中にはミネラルを難溶性イオンから遊離させ、ミネラルの吸収を促進させるものがある。
LAB投与は免疫系に作用し、骨粗鬆症時に存在する破骨細胞形成因子(TNF-αとIL-1β)の増加を抑制する。
制御性T細胞は骨の健康を守り、LAB摂取はT細胞を制御して抗骨細胞形成因子であるインターロイキン(IL)-10やインターフェロン(IFN)-γの転写を高めて骨量を増加させる。
更年期におけるエストロゲン不足は腸管透過性上昇につながる。
腸管バリア完全性の崩壊は腸の炎症反応を引き起こすだけでなく、骨格のホメオスタシスにも影響を及ぼす。
したがって腸管透過性を低下させることは、LABが更年期の骨の健康を保護する強力な作用機序だろう。
LAB経口補給は、更年期の骨量減少を防ぐ潜在的な代替手段となり得る。
・LABによる脂質異常症および肥満の予防
ある研究では、乳酸菌が満腹ホルモンの産生を調節することで食事摂取量を著しく減少させることが示された。
L. plantarum CQPC02を投与すると、高脂肪食を摂取した肥満マウスの内臓脂肪と血中脂質のレベルが低下した。
同様にL. plantarum KFY04は、肥満マウスのペルオキシソーム増殖剤活性化受容体経路の発現を調節して酸化的損傷と炎症を緩和することで体重増加を遅らせ、肝臓と内臓脂肪の重量を減少させた。
腸内細菌叢はエネルギーの吸収と代謝に特別な役割を担っており、ファーミキューテス属はバクテロイデス属に比べて脂質や糖質代謝に関与する酵素を合成する遺伝子を多く持つため、エネルギー代謝に長けている。肥満の人は痩せた人に比べてFirmicutesの存在量が多く、Bacteroidetesの存在量が少ない。
LABによる腸内細菌叢の調節は腸機能の完全性を回復させ、腸内細菌叢に有益な作用を及ぼし、肥満における調節異常状態を逆転させる。
ケフィアは腸内細菌叢を調節して炎症性因子を抑制することにより、高脂肪食を摂取したマウスの肥満と肝脂肪症を緩和した。
エストロゲン欠乏による代謝異常の調節に対するLABの効果も非常に注目されており、L. intestinalis YT2が更年期女性の状態を模倣した卵巣摘出ラットの脂肪量増加を緩和することが示された。
また、Lpb. plantarum CCFM1180は循環エストロゲンレベルを増加させ、卵巣摘出マウスの代謝障害を緩和する役割を担っている可能性が示された。
LABが更年期女性の代謝障害を調節するメカニズムはまだ不明だが、更年期女性の代謝障害に対するLABの効果を検討する一連の研究で一定の成果が得られている。
12週間の臨床試験では、多種類のプロバイオティクスの補給が用量依存的に危険因子を抑制し、肥満閉経後女性におけるグルコース代謝、血中脂質レベル、ウエスト周囲径、内臓脂肪を調節することが示されている。
・LABと膣内マイクロバイオームへの影響
乳酸菌は膣内で様々な保護的役割を担っている。
乳酸菌は抗菌作用のある乳酸を産生することで膣内を酸性(pH=4)環境にする。
さらに、乳酸菌は過酸化水素、抗生物質、標的特異的バクテリオシンなどの他の抗菌性化合物を産生して乳酸菌の拮抗力を促進し、膣内細菌叢への外来種の侵入を防いでいる。
また、乳酸菌は上皮の自然免疫を調節して栄養や組織の付着力を競合させることで、微生物叢が病原微生物を効果的に排除する能力に寄与していることが示唆されている。
膣内細菌症に対するプロバイオティクスによる治療は比較的新しい概念で、複数の研究者が閉経後女性の膣内細菌叢における乳酸菌の豊富さを回復させるためにプロバイオティクスを使用し、有望な結果を得ている。
L. rhamnosus GR-1とL. reuteri RC-14(14日間経口投与)を投与した閉経後の女性では、膣内細菌叢が適切に回復し、潜在的病原体や酵母による膣内コロニー形成が減少した。
さらに、生きたLAB株と低用量のオエストリオールの併用投与が膣内マイクロバイオームの回復、尿路性器萎縮や尿路感染症の軽減に好影響を与えることも報告されている。
最近のエビデンスから、膣内で直接使用されるLABおよび補助療法として経口導入されるLABは、更年期女性の膣内細菌叢を回復させ、エストロゲン離脱による泌尿器系の後遺症から保護する貴重な戦略であると考えられる。
膣内に投与されたLABが膣内に定着して病原体に対する競合的排除能力を確保する必要があるため、膣内に直接使用するLABの候補は健康な女性の膣に由来する乳酸菌が最も適していると考えられる。これに対し、経口的に導入するLABの供給源は選択肢が多い。
膣内に直接使用するLABと経口導入するLABの膣内細菌叢や膣の健康に対するメカニズムの違いは依然として不明。
・LABと中枢神経系関連症状
中枢神経系関連症状は、卵巣機能低下による神経生化学的変化の結果(血管運動症状、傾眠、不安・抑うつ、片頭痛、認知障害など)。
LABは精神疾患関連の行動の改善に有効である。
L. plantarum PS128TMやB. breve CCFM1025などいくつかのサイコバイオティクス株は、さまざまな精神疾患に対して有効であることが分かっている。
LABは中枢神経系関連の症状に影響を与える神経活性代謝産物を分泌する可能性がある。
LABが生成するγ-アミノ酪酸は神経細胞の老化を遅らせ、神経伝達物質を抑制し、抑制性神経伝達を仲介して更年期症候群や初期精神障害などの精神疾患を治療する可能性がある。
さらにLABは腸内細菌叢の調節、視床下部-下垂体-副腎軸の抑制、神経伝達物質の調節、免疫系強化、神経系調節により中枢神経系症状の改善に重要な役割を担っている。
しかし残念ながら、サイコバイオティクスが更年期女性の気分や心理を改善することを直接証明する十分な証拠はない。
更年期における性ホルモンの変化や様々な更年期症状がCNSに及ぼす影響を考慮すると、CNS関連症状に対するLAB作用機序は不特定多数のメカニズムが関与している可能性がある。