注意欠陥多動性障害(ADHD)は小児期における最も一般的な神経発達障害の一つで、健康への悪影響と高い医療費および社会的コストから薬物療法以外の治療法が検討されてきた。
様々な研究で食事パターンがADHDのリスクに影響することが報告されており、ADHDおける補助的治療として食事介入が提案されている。
リンクのレビューは、どういった食事パターンがADHDと最も関連するかを調査し、食事介入の臨床使用に関する既存のエビデンスを要約することを目的としたもの。
Eating Patterns and Dietary Interventions in ADHD: A Narrative Review
・社会の変化によって食事や食事パターンの変遷が世界的に起こり、家族で食事をする時間が減少。食生活は、加工食品、持ち帰り食品の増加、食用油、砂糖入り飲料への依存度を高める方向に変化し、これらの変化はすべて世界中の多くの人々の健康に悪影響を及ぼしている。
・最近のシステマティックレビューとメタアナリシスでは、摂取した食事の種類がADHDリスクに影響することが示された。果物や野菜、魚を摂取し、PUFAやマグネシウム、亜鉛、植物性微量栄養素を多く含む健康的な食事パターンが、ADHDリスクを37%減少させる可能性が示された。
一方、子どもたちが摂取している欧米型とジャンクフードの食事パターンは、いずれもADHDのリスクを高めると報告。
赤身肉や加工肉、精製された穀物、清涼飲料水、水素添加脂肪が豊富な西洋型パターンは、ADHDのリスクを92%増加させ、人工着色料(AFC)や砂糖を多く含む加工食品の大量消費を特徴とするジャンクフード型はリスクを51%増加させることが明らかになった。
AFCの1日摂取量は過去50年間で4倍に増加しており、脳に影響を与えることが研究で示されている。
チョコレートクッキーに偽装した225mgのAFCまたはプラセボのチョコレートクッキーを毎週3日間摂取し、毎週3日目にテストを行う試験において、AFC曝露がADHDの大学生の脳波活動およびADHD症状に影響を与える可能性があることが明らかにされている。
・2つの食事パターン(健康的と不健康的)だけを区別し、研究のデザイン、地域、サンプルサイズによって層別化しても、健康的パターンには保護効果があり、不健康的パターンではADHDのリスクが41%増加することが判明。ADHDの子どもは、非ADHDの子どもに比べて健康的な食事パターンを順守していないことが判明。
・中国で3〜6歳の子ども14,912人を対象にADHDの症状について評価した研究では、
「加工食品」と「スナック」の食事パターンはADHD症状と有意かつ正の相関があり、「ベジタリアン」のパターンはADHD症状と負の相関があると結論づけられた。
・食事パターンはADHDリスクに潜在的な役割を果し、「ジャンクフード」、「加工食品」、「スナック」、「甘いもの」、「西洋風」と表現される食事パターンがADHDと最も正の相関があるのに対し、地中海食のような健全な食事パターンはADHDと逆相関が観察される。
これらのデータは、ADHDでは特定の栄養素や化学的な食品化合物だけでなく、食事全体を考慮すべきであるという考えを支持している。
食品、食品群、栄養成分
・欧米型、ジャンクフード型ともに精製穀物、加工食品、砂糖が多く含まれる食品はADHDと関係があるとされている。986人を対象にした韓国の研究では、甘味のあるデザート、揚げ物、塩分の摂取量が多いと学習、注意、行動問題と正の相関がある一方、規則正しい食事で、乳製品や野菜を多く摂取するバランスの良い食事は上記の問題と負の相関があることが分かっている。
・7歳以上の子どもで、加糖飲料の摂取量が多いほど摂取量の少ない子どもに比べてADHD症状が出る確率が40%高いことを発見した研究もある。
しかし、食事の糖分だけではADHD症状の発症リスクは高まらないことも同時に報告している。
・ADHDの子供100人を対象にした研究では、タンパク質摂取量の割合が少なく、単純糖類、お茶、「すぐ食べられる」食事の摂取量が対照群と比べて多いことが明らかになった。
また、ビタミンB1、B2、C、亜鉛、カルシウムの摂取量も少ないことが示された。
ADHDの子どもたちは、脳の発達と機能に不可欠な亜鉛、銅、鉄、マグネシウム、セレンなどの微量元素の血漿レベルが低下していることがいくつかの研究で示されている。
・鉄は神経伝達物質の代謝、特にADHDの中核因子であるドーパミンの生成など、いくつかの機能に必要な必須補酵素。亜鉛も神経伝達物質、メラトニン、プロスタグランジンの代謝に関連する細胞機能に必要な必須微量元素。
鉄と亜鉛のレベルの変化は、ADHDの悪化と進行に関係している。
・ビタミンAとDは、年齢、BMI(Body Mass Index)、採血の季節、日光への露出を調整した後の25(OH)Dとレチノール血清濃度がADHDと関連しており、この共同欠乏が症状の重症度と関連していることからADHDに関連する微量栄養素としてみなされるようになった。
メタ分析ではビタミンD欠乏がADHDリスクと有意に関連することが示され、4137人を対象に行われた分析では周産期ビタミンD濃度が最適でないと、その後の人生におけるADHDリスクの高さと有意に関連することが示された。
・PUFAは最適な神経伝達機能に不可欠であり、いくつかの研究でADHDの子供や青年は血液や頬の組織中のエイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸(DHA-C22:6)、総PUFAシリーズn-3の濃度が低いことが確認されている。
まとめ
食品ベースで見た場合、甘いデザート、揚げ物、塩分はADHDと正の相関があるようだ。
砂糖摂取とADHDとの関連は文献上ではまだ矛盾しているが、健康的な食事パターンの中でその摂取を制限することは合理的であると思われる。
ADHDの子どもは、亜鉛、銅、鉄、マグネシウム、セレンといった重要な脳機能微量元素の血漿濃度が低下している。
さらに、考慮すべき栄養素としてビタミンA、D、PUFAが浮上している。
栄養学的介入と食事療法
ADHD治療としての食事介入に関しては、ビタミン、ミネラル、PUFAを含む栄養補助食品、プレバイオティクス、プロバイオティクス、シンバイオティクスによる腸内細菌叢標的介入、制限食や除去食といった食事が主に用いられている。
サプリメント
・256人の子どもを対象にメチルフェニデート補助療法としてビタミンD補給を考慮した4件のランダム化比較試験(RCT)のレビューおよびメタ分析では、ADHDの総スコア、不注意、多動、および行動のスコアにわずかながら統計的に有意な改善が見られたものの、反対行動のスコアに統計的に有意な改善は見られなかった。
これらのRCTのうち、ベースラインでビタミンD値が十分なレベルの子どもは50,000 IU/週のビタミンD補給を6週間行ってもADHDスコアに改善を示さなかった。
この結果は、ビタミンDレベルが不十分または欠乏しているADHD児のみがこのビタミンD介入の恩恵を受ける可能性があることを示唆している。
このメタアナリシスの結果は、ビタミンD補充が副作用なしにADHDの症状を改善する可能性があるという臨床的証拠があると結論づけている。
40,000IU/日を12~52週間補給すると重篤な副作用が生じる可能性が報告されている。
・ADHDの子ども66人を対象に、ビタミンDとマグネシウムを検証するした試験では、8週間にわたり25-ヒドロキシビタミンD3を50,000IU/週、マグネシウムを6mg/kg/日摂取させたところ、プラセボ群と比較して感情問題、行動問題、仲間同士の問題、向社会性スコア、総合困難、外面化スコア、内面化スコアが有意に減少したことを明らかにした(両群ともメチルフェニデートを服用)。
この研究は、ビタミンDとマグネシウムを補給することで薬物療法を受けているADHDの子どもの行動機能と精神状態を改善できることを示した。
・亜鉛と鉄の補給に関して9つの試験の系統的レビューで評価された。
このレビューでは、6~10週間の亜鉛と鉄の栄養補給によって治療終了時のADHD重症度が改善していることが示された。
PUFAサプリメント
・2018年のレビューおよびメタ分析で、n-3 PUFAサプリメントはプラセボと比較してADHDの総症状を改善するがその効果量は緩やかであることが示されたが、それとは矛盾する結果も報告されており、一貫した結論はない。
プレ、プロ、シンバイオティクス療法
・腸内細菌叢の特徴とADHD症状との関連性が報告されており、患者と健常対照者との間で異なる腸内細菌叢プロファイルが観察されている。
・生後早期のプロバイオティクス補給が、小児期以降のADHDおよびアスペルガー症候群の発症リスクを低減するようであることを報告した研究がある。その研究では、プロバイオティクス補充は、出産予定日の4週間前から出産後6ヵ月間、母親に毎日Lactobacillus rhamnosus GGまたはプラセボを投与することで行われた(母親が母乳で、それ以外は子どもに直接介入された)。
最近では、多種類のプロバイオティクス補給がADHDと不安の症状(しかしうつ病ではない)、およびADHD症状と重症度をそれぞれ改善することが明らかになった。
この複数種プロバイオティクス補給には、ラクトバチルス、ビフィドバクテリウム、バチルス、およびストレプトコッカスの数株が含まれていた。
さらに、Bifidobacterium bifidum(Bf-688)によるプロバイオティクス補給が、ADHDの子どもの不注意と多動性/衝動性を有意に改善することを見出した研究もある。
しかし、ADHDの治療手段としてプロバイオティクスサプリメントを推奨するには、まだ十分なエビデンスがない。
ADHD治療における食事パターン
・高血圧を止める食事法(DASH)は、大量の果物、野菜、低脂肪乳製品、ビタミンC、低量の単純糖を特徴としている。イランで行われた試験では、この食事パターンはADHD症状を改善すると報告された。
・食物除去食は、ADHDの食事療法への介入として最も研究されているもののひとつである。
具体的な内容は様々であるが、主に3つの形態がある。
(i) 疑われる1つの食品を除外する単一食品除去食。
(ii) 6食物除去食のような、最も一般的な食物アレルゲンを除去する多食物除去食。
(iii) 「少数食品ダイエット」、例えばオリゴアンチジェニック・ダイエットでは、ラム/鹿肉、キノア/米などアレルゲンの可能性が低く、あまり一般的に消費されない食品に限定して食事を摂らせる。
これらの食事療法はすべて一つの食品を除去した後、一つずつ再導入していくもの。
最初に一定期間、ほとんどの食品を除去した後、子どもたちの行動や認知能力に改善が見られることが期待され、その後どの食品が有害反応や症状に関連しているかを判断するために、食品を制御しながら順次再導入していく。
・除去食(ED)は食物アレルゲン(牛乳、卵、小麦、魚、大豆、ピーナッツ、ナッツのタンパク質)および誘因となりうるもの(グルテン、ヒスタミン放出または含有製品)をすべて除去する5週間の除去期間から構成される。この時期には砂糖の摂取も制限される。
この段階の後、最長12ヶ月の再導入期間がある。
第1段階では、食物アレルゲンを1つずつ再導入していく。
食物アレルゲンを再導入しても症状が再発しない場合、両親による評価に基づいて、この食物アレルゲンを食事に追加し再び食べることができるようにする。
食物アレルゲンがADHD症状の再発を誘発するようであれば、その食物アレルゲンは「避けるべき」カテゴリーにリストアップする。
次の1週間は、ADHD症状が再導入前のレベルまで再び減少するように新たな食物アレルゲンの導入は行われない。
ADHD症状が安定したら、その後の1週間でまた新たな食物アレルゲンを導入する。
次の段階では、砂糖(第2段階)、ヒスタミン放出またはヒスタミン含有製品(第3段階)、および添加物(第4段階)が再導入される。
再導入段階での手順は、すべて第1段階と同様。
・オリゴアンチジェニックダイエット(OD)は、食事からアレルゲンとなる食品を個別に除去する制限食で、この食事療法が子どものADHD評価尺度(ARS)スコアを改善することが報告されている。
結論
非健康的な食事パターンはADHDと正の相関がある一方、健康的なパターンは負の相関があることが示された。
サプリに関しては、ビタミンDおよびビタミンD+マグネシウムのみがベースラインのビタミンDレベルが不十分/欠乏している場合にADHD症状を改善することが観察された。
また、Lactobacillus rhamnosus GGと複数種のプロバイオティクスの補充のみ有効だった。
除去食はエビデンスが乏しく、栄養不足になるため注意が必要。