加齢黄斑変性症(AMD)は、神経変性眼科疾患で、一般的なドライ型AMDを治療する薬物療法は存在せず、ウェット型AMDには抗VEGF薬(血管内皮細胞増殖因子阻害薬)が投与されている。
しかし何度も注射する必要があり、薬剤費も高額になるため眼科医にとっても患者にとっても負担が大きいという問題があり、新しい治療法の確立が急務となっている。
食事療法は非侵襲的で費用対効果が高くて患者に優しい選択肢であり、良好なコンプライアンスと関連することが期待されている。
いくつかの研究では、異なるサプリメントの使用によってAMDの進行が改善することを報告している。
1992年から2001年にかけて実施されたAge-Related Eye Disease Study(AREDS)では、高濃度抗酸化物質と亜鉛を含むサプリにより、中間型AMDから後期AMDおよび視力低下への進行を遅らせることができることが示された(プラセボと比較して、それぞれ25%と19%のリスク低減)。
2006年から2012年にかけて中等度AMDの患者のみを登録したAREDS2では、オリジナルのAREDSにn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸(n-3LC-PUFA)またはルテインとゼアキサンチンを加えた製剤を強化したが、後期AMDへの進行リスクに対する追加的な全体ベネフィットは得られなかった。
しかし、ルテインとゼアキサンチンに加えて抗酸化物質を投与するとオリジナルのAREDS処方を服用した患者と比較して有益性が増加し他ことが報告されている。
上記のように栄養療法の可能性が示唆される一方で、遺伝や様々なサプリがAMDの進行にどのように影響するかについての知識は現在非常に限られている。
したがって、最も効果的な栄養療法に関する情報を得ることは極めて重要だろう。
リンクのレビュー(SR)およびメタ解析は、栄養補給がAMDのいずれかの病期の進行を遅らせる可能性があるかどうかを評価することを目的としたもの。
55歳から80歳までの5634人の参加者を調査した20件の研究がSRに含まれ、メタ解析のために8件の研究を選択(介入群414名、対照群216名)。
今回のSRでは、ルテインとゼアキサンチンおよびn-3系長鎖多価不飽和脂肪酸(n-3 LC-PUFA)の補給は、対照群と比較して、最高矯正視力(BCVA)の有意な改善を示した。
多焦点網膜電図(mfERG)の結果は、ルテイン+ゼアキサンチンの補給により全体的に有意に改善された。
カロテノイド、すなわちルテインとゼアキサンチンとn-3LC-PUFAの組み合わせは、初期または中期AMD患者のBCVA改善に最も効果的である可能性がある。
カロテノイド単独では、少なくとも短期間(1年未満)の投与では効果がないようだった。
長期間の介入はより良い効果を示す可能性が高いが、カロテノイドの長期的な補給がAMDの経過を修正できるかどうかを明らかにするために、さらなる研究が必要と結論。
・BCVA測定に関するメタアナリシスの結果では、カロテノイドの全体的な効果は有意ではなかった。
ルテイン単独での使用はAMD患者のBCVA値に有意な影響を与えなかった。
ルテインとゼアキサンチンの併用については、研究が不足しているため結論を出すことができなかった。
一方で、ルテイン+ゼアキサンチンの補充に関する2つの研究でBCVAに何らかの効果が認められ、これらはCSとQOLの両方の改善を伴っていた。
2件の介入は2年間続いたので、より長い補給期間が視覚機能を改善することを示唆している。
・ルテイン単体とルテイン+ゼアキサンチンの補給はmfERG法で評価した場合網膜機能を改善した。
・ルテインとゼアキサンチンの投与は、傍瞳孔機能においてルテイン単独と同じ効果を発揮しないことが示された。異なる種類のカロテノイドを同時に投与すると腸からの吸収が妨げられ、効果が減少する可能性があることが示されている。
・カロテノイド(ルテイン、アスタキサンチン、ゼアキサンチン)と n-3LC-PUFAの同時投与を考慮したメタアナリシスでは、BCVAが有意に改善されることが示された。
n-3LC-PUFAとカロテノイドの同時摂取が、AMDの進行とそれによる視機能低下の予防に有効である可能性を示唆している。
・網膜機能と外観を測定する他のパラメーターに対するカロテノイド補給の効果は、補給の量と期間に依存的にMPODの改善を示した。
ルテイン補給の高用量(20mg/日)はMPOD値の上昇と関連していた。
さらに、ベースラインで黄斑色素が低い患者では補充後のMPODの増加が特に強調されると報告されている。MPODが低い患者では、AMDの進行リスクが増加することが観察されている。
・AMD患者にn-3LC-PUFAを補給しても視覚パラメータとドルーゼンのリモデリングに統計的な有意差を検出しなかった。その研究ではビタミンEは転帰の測定に有意な影響を与えなかった。
しかし、その試験の患者集団はすでに進行したウエット型AMDの患者から構成されていた。
したがって、n-3LC-PUFAの補給は、AMD初期段階の患者に有益であると推測される。
・亜鉛サプリを使用した研究で、BCVAまたはAMDの進行にプラスの効果が観察された。
さらに、亜鉛サプリと食事からの亜鉛摂取を調査したメタアナリシスによる別のSRでは亜鉛がAMDのすべてのステージでAMD進行にプラスの効果を発揮する可能性があると結論づけた。
しかし、視力に有意な結果をもたらしたのは亜鉛単独ではなく、抗酸化物質と併用した亜鉛だった。またAREDS試験では、亜鉛または抗酸化物質を単独で投与した場合と比較して、亜鉛と抗酸化物質を併用した場合にAMDの進行が最も遅いことが観察された。
亜鉛がAMDを予防する正確なメカニズムは解明されていない。
・クルクミンはレスベラトロールと組み合わされた酸化化合物で、BCVAの改善と抗VFGF注射の回数減少に関連した。AMDに対するクルクミンの好影響は、網膜色素上皮(RPE)細胞のアポトーシス率の低下、VEGF阻害、および炎症の全体的な範囲の減少を介することが示されている。
クルクミンは消化管からの吸収率が非常に低いため(90%は糞便中排泄)、末梢組織における効果はその代謝物に由来する可能性がある。
レスベラトロールも高い抗酸化能力によりAMDの治療に有益な効果をもたらす可能性があり、ウエット型AMDに対する投薬治療標的であるVEGFを抑制することが実証されている。
クルクミン単独の有効性については決定的な結論は出ていないため、さらなる臨床研究が必要。
・カロテノイド特異的代謝酵素と眼球カロテノイド結合タンパク質が、網膜と黄斑に到達するカロテノイドの割合を調節している可能性がある。したがって、これらのタンパク質を有する人種間のばらつきが結果に影響を与える可能性がある。さらに、AMDには遺伝的要素があることも影響する可能性もある。
・肥満の被験者では、早期ではなく後期AMD発生率が高いことが観察されている。
インドの集団では体重と喫煙に関連性が見られた。
最近のシステマティックレビューでは、欧米の集団ではBMIで定義された肥満とAMDの間に正の相関があるという証拠が示された。
身体活動はAMDの発症および進行と保護的な関係を示すとされている。
・β-カロテンとは対照的に、ルテインとゼアキサンチンはAMD後期進行に有益な関連を示す可能性が示された。β-カロテン摂取は肺がんリスクを高めることが知られており、AREDS2研究の結果によるとそのリスクはほぼ2倍となっているが、ルテインとゼアキサンチンには統計的に有意なリスクの増加は認められなかった。
AMD管理ではβ-カロテンよりもルテインとゼアキサンチンを優先することが奨励される。
・現在、早期およびドライ型AMDに対する医学的治療の選択肢がないため、サプリによるAMD疾患の進行の遅延または停止に関する高品質な追加情報は、AMDの進行段階への進行を防ぐことができる費用対効果の高い治療法を見つけるためのブレークスルーとなる。
進行AMDからウェットAMDへの進行を数年遅らせるだけでも、驚くほどコストを削減することができる。