ビタミンD(VitD)は細胞の成長、分化、成熟、抗発癌作用、抗自己免疫活性など多面的な役割を担っている。
最近の研究では、VitD受容体(VDR)が甲状腺細胞に発現していることから、VitD欠乏が甲状腺疾患と関連することが指摘されている。
また、ビタミン欠乏症はグレーブ病(GD)や橋本病(HT)などの自己免疫性甲状腺疾患(AITD)と関連している。
妊娠中のVitD欠乏症や甲状腺疾患は妊婦や胎児に悪影響を及ぼし、子癇前症、妊娠糖尿病、早産、胎児の精神発達異常などに関連する可能性がある。
リンクの研究は、妊娠中の女性にとって最適なビタミンD(VitD)状態と甲状腺機能は不可欠であることから、各妊娠期および妊娠期間を通しての動的VitD状態と甲状腺機能パラメータとの関連性を探ることを目的としたもの。
対象者全員8828人の情報を北京大学Retrospective Birth Cohortから抽出。
結果、遊離サイロキシンおよび遊離トリヨードサイロニンはいずれも、妊娠第1期においてVitD状態と正の相関があることが示された。
第一期で十分なVitD状態、第二期のVitD欠乏状態は、第一期、第二期ともに十分なVitDのグループと比較して甲状腺刺激ホルモン(TSH)が低くかった。
VitDと甲状腺パラメータの関連性は妊娠中を通して存在し、妊娠中の最適な甲状腺機能をサポートするためにVitDの適切な濃度を維持することが重要と結論。
Associations between Dynamic Vitamin D Level and Thyroid Function during Pregnancy
・各妊娠期におけるVitDと甲状腺機能パラメータとの関連性を明らかにした。FT4とFT3はともに第1トリメスターのVitD状態と正の相関があることが示された。
第一期で十分なVitDの状態、第二期で不足したVitDの状態は、第一期、第二期ともに十分なVitDのグループと比較して、TSHが低かった。
過去の研究では、VitD状態はGHD、GDM、TPOAb陽性と負の相関があり、これらの疾患や症候群は甲状腺機能とも関連があることが示されている。
・妊娠中のVitD値は、国や地域によって大きなばらつきがある。
VitD欠乏は妊婦に多く、世界的な妊婦のVitD欠乏有病率は54%だった。
China Nutrition and Health Surveillance(CNHS)に基づく研究では、VitD補充にかかわらず、妊婦のVitD欠乏症(<20ng/mL)の有病率は2010~2012年(73.4%)と比較して2015~2017年(87.43%)で増加している。
・妊娠プロセスもVitDの濃度に影響を与える可能性がある。
ビタミンDの補給をしていない妊婦に焦点を当てた研究では、第一期で欠乏症の割合が96%に達した。第2期と第3期では、それぞれ78%と76%に減少。妊娠中にVitDが生理的要求が増加すること、VitDの濃度が最も低いのは第1期であることを示唆している。
この結果は、上海の出生コホート、インド人妊婦のVitD補給群と非補給群というより大きなサンプル数で確認された。
・第3トリメスターモデルとGEEモデルにおいて、VitDとTSHの間に正の関係を検出した。TSH値が第2トリメスターで上昇し始め,第3トリメスターで跳ね上がることを示した。
そして、VitDのTSHに対する全体的な平均効果は、妊娠期間全体を通してポジティブだった。
また、妊娠第1期においてfT3/fT4とVitDの間に正の相関があることが明らかにされた。
・過去にVitDと甲状腺パラメータの間の調節は十分に説明されてこなかったが、多くの研究でVitD欠乏と自己免疫性甲状腺疾患(AITD)が検討されている。
1,25(OH)2Dは適応免疫系を抑制することから免疫寛容を改善し、多くの自己免疫疾患に対して有益な効果を示す。
・十分なVitDレベルと甲状腺機能正常の両方は胎児の発達に不可欠であり、VitD補給は妊娠初期により重要である。
結論
1)VitDと甲状腺パラメータとの関連は動的である。
2)FT3およびFT4は、第一期においてVitDと正の相関があった。
3)TSHは、特に第三期においてVitDと正の相関があった。
4)正常な甲状腺機能をサポートするために、十分なレベルのVitDを維持することが重要。