私が見聞きした範囲では、不妊症治療への取り組みは男性よりも女性において積極性があるようだ。しかし、男性側生殖機能の向上のためにライフスタイルを改善した方が良いのでは?との印象を受けることも多々ある。
遺伝的な要因は別問題として、運動もせず食事も適当で陽にも当たらないような生活では性欲は強くても生殖機能は弱化してもやむを得ないだろう。
男性の生殖機能に関連する栄養素の一つにビタミンD(VD)が挙げられる。
VDは脂溶性ビタミンの一種で、紫外線B(UVB)の照射により皮膚で合成され、ステロイドホルモン受容体と結合する「プロホルモン」のような性質を持っている。
VDは、VD受容体(VDR)の活性化によって細胞外からのカルシウムやリン酸の吸収・再吸収を促進する腸や腎臓といった部位に発現する。
VD欠乏は遺伝的欠陥、不十分な食事摂取、および/または皮膚での生産不足の結果として生じる。
生殖器領域では、男性生殖器においてVDRとVD代謝酵素が高発現していることから、精巣におけるVD合成と調節の可能性が指摘されている。
精子、精嚢、前立腺ではVDRとVD代謝酵素が同時に発現しており、VDが精子の形成と成熟に関与している可能性が示唆され、VDの発現が精液の質(SQ)のマーカーとなり得ると考えられている。
最近のデータでは、男性不妊症におけるVDと生殖ホルモンおよび精子パラメーターとの関連が確認され、VDが男性の生殖能力にプラスの影響を与えるという説が支持されている。
VDが欠乏または不足している男性は、VDが正常な男性に比べて精子の運動率が著しく低いことも示されている。
しかし一方で、VDとSQの関には一致しない結論も多く、議論の余地がある。
リンクのレビューは、男性不妊症に対するビタミンD(VD)効果を明らかにするため、MEDLINE, Embase, Web of Science, Scopus, ClinicalTrials.gov, Cochrane LibraryでビタミンDと男性生殖機能に焦点を当てたすべての無作為化対照試験および非無作為化試験を対象として論文を選択。
VDの男性生殖機能への影響については、SQに対するVD効果の基盤となる分子メカニズム、VDレベルとSQの関係、SQに対するVD補給の効果という3つのテーマで研究が行われていることが分かった。
結果、男性のVD濃度と精液パラメータ(特に精子運動性)との間には関連性があるという仮説が支持された。
VDが男性の性ステロイドホルモン濃度に及ぼす影響については結論は出なかった。
このレビューの結果は、VDが男性の生殖に関与しているという説を支持するもので、ほとんどのデータは生殖可能な男性と不妊症男性の両方で、精液の質、特に精子の運動性にプラスの効果があることを強調した。
Vitamin D and Male Reproduction: Updated Evidence Based on Literature Review
・卵巣、子宮、胎盤、男性生殖器や精子にVDRとVD代謝酵素が発現していることから、VDが生殖生理の調節に重要な役割を担っていることが示唆された。
すべての生殖器にVD代謝酵素が存在することからVD代謝の重要性が示唆され、また精巣におけるVDR発現から、オートクラインおよびパラクライン作用による男性不妊に影響を与えるVDの役割が支持された。
・精巣や射精管がVDの代謝部位であるという証拠から、精子形成や精子成熟にVDの局所活性化が重要な役割を果たすという考えが強まっている。
・精液血漿VDと精子運動パラメータの間には正の相関がある。活性化VDは、ATPを生成する精子ミトコンドリア呼吸鎖の活性化と細胞内カルシウムイオン濃度の増加の促進を通じて精子運動性を改善する可能性がある。
・レビューに含まれる具体的な関連論文(11論文中9論文)が、妊娠男性および男性不妊の両方において、VD血清レベルと精液総運動量の正の関連を報告。VD レベルと精液総運動量の関連は統計的に有意だった。
・VDが男性の性ステロイドホルモン産生に及ぼす影響については、卵胞刺激ホルモン、LH、テストステロンとの関連性を検討した結果、関連性は認められなかった。
・VDの補給がSQに果たす役割に関する全体的な結果として、VD補給は精液パラメータの変化と有意な関係がないことが示唆されたが、VD欠乏症の男性不妊に関する2つの介入研究の結果では、VDおよびVDとカルシウムの補給を行った集団で自然妊娠の確率が高まることが示された。
VD欠乏症男性におけるVDレベルの評価およびVD補給に関する実験的研究は、現在までほとんど行われていないため結論を出すことはできないが、不妊症の男性やカップルが妊娠を目指す上で、新たな視点や考え方を促すことになるかもしれない。
まずは外に出て陽の光を浴びよう。