現代社会では、動物性食品のコスト削減や食の欧米化によってタンパク質がの摂取が頻繁に行われるようになった。
しかし、タンパク質豊富な食事は心血管疾患に関連する死亡リスクを高めることが示されている。
タンパク質過剰摂取の有害な影響は、循環分岐鎖アミノ酸(BCAA)レベルの上昇と代謝性疾患との関連性が仮説として唱えられている。
食事制限(DR)は、メタボリックシンドローム患者における脂肪率を減少させ、代謝を改善する。にもかかわらず、ヒトにおけるDRの有益性がカロリー制限(CR)または栄養制限によって媒介されるのかどうかについては依然として不明のまま。
また、メタボリックシンドローム患者におけるCRの効果を模倣するために、食事性タンパク質摂取量の等カロリー制限(PR)が十分であるかどうかも明らかではない。
肥満や様々な代謝異常は、腸内細菌叢の組成の変化および多様性の減少、豊富な遺伝子の低下と関連する。しかし、これらパターンが食事性タンパク質制限によって変化するかどうかは、十分に解明されていない。
リンクの研究は、メタボリックシンドローム患者において、等カロリーの食事性タンパク質制限(PR)が、代謝機能不全を逆転させることによってCRの有益な効果を付与するのに十分である・・という仮説を検証したもの。
脂肪組織に対する食事制限の分子効果および腸内細菌叢の構成に対するPRの影響についても検討している。
メタボリックシンドロームと診断された21名を、カロリー制限または等カロリー食事性タンパク質制限に無作為に割り付け27日間追跡。
結果、PRはCRと同様、脂肪率の低下による体重減少を促進し、血糖値、脂質値および血圧の低下と関連した。
CRとPRの両方が、インスリン感受性をそれぞれ62.3%と93.2%改善した。
PRは摂取カロリーを減らす必要なく、カロリー制限とほぼ同じ臨床結果をもたらすのに十分であった。
等カロリー性というPR介入の特徴は、メタボリックシンドロームの人々患者に対する補助療法としての可能性をより大きくするものである。
PRがメタボリックシンドロームの改善に関してCRを模倣し、タンパク質が食事制限の有益な効果の根底にある主要なドライバーであることを示した。
PRがメタボリックシンドローム患者の血糖値、脂質レベル、体重および血圧のコントロールを助ける比較的簡単な食事介入である可能性を示唆していると結論。
Dietary Protein Restriction Improves Metabolic Dysfunction in Patients with Metabolic Syndrome in a Randomized, Controlled Trial
・メタボリックシンドローム患者が短期間(27日間)のPRまたはCR介入で、脂肪率の低下、血圧の正常化、インスリン感受性の改善、グルコースおよび脂質レベルの低下、全身性炎症の軽減を含む幅広い臨床的改善が得られることを示した。
・PRとCRの影響は、退院後少なくとも1ヵ月間は持続するようだ。
・いくつかの代謝パラメーターを改善するために、カロリー制限は必要ないことを見出した。むしろPRは、摂取カロリーを減らす必要なしに、CRとほぼ同じ臨床結果を与えるのに十分であった。
・過去にCRを受けた参加者の安静時の基礎エネルギー消費量と心拍数が減少していることが観察され、代謝量の減少が示唆された。
しかしPRを受けた被験者は体重と脂肪率の変化にもかかわらず基礎エネルギー消費に変化は見られなかった。
・今回のデータは、メタボリックシンドローム患者がPRまたはCRを27日間受けると、血圧が正常化し、循環脂質レベルが低下することを示しており、CVDリスクを軽減することを示唆している。1日の塩化ナトリウム摂取量の固定値は全患者で4gであり、血圧値の低下は脂肪率の低下と関連していることが重要。
・PR介入ではタンパク質を減らすことで食事のエネルギー量を変えないために、患者は炭水化物の摂取量を増やさなければならなかった。食事で増加させた炭水化物は1日のうち数回の食事に分配。炭水化物が増加したにもかかわらず、PRは血糖値とHbA1c値の減少につながり、インスリン感受性とβ細胞機能を改善した。
・データは食事性タンパク質がメタボリックシンドローム患者のグルコースホメオスタシスに重要な役割を果たす可能性を示唆している。必須アミノ酸がインスリン作用とグルコース産生を制御する栄養感知経路を誘発することが知られていることを考えると驚くべきことではない。
・メタボリックシンドロームの人を対象にPRの効果をCRの効果と比較すると、CRの方がBMIとHbA1c、トリグリセリド、グリセロールのレベルを下げる効果が高いことがわかった。PRはタンパク質摂取量の減少に伴い、予想通りCPKと尿中尿素値の低下に効果的だった。
・タンパク質は体格と心代謝機能に重要な食事成分として作用する。ヒトはグルコースと脂肪酸を内因的に生産できるが、特定のアミノ酸を生産できないため、タンパク質の摂取は食物摂取シグナルとして機能する可能性がある。
必須アミノ酸またはその代謝産物が食物摂取量のレベルをシグナリングしてそのレベルに比例した反応を引き起こすことを考えると、タンパク質摂取量が少ないとカロリー制限に似た代謝反応が起こることが予想される。
自然界では、タンパク質摂取量の減少は、ほとんど常に食物摂取量の減少を伴っており、種の進化により、タンパク質の利用可能性と食餌の代謝反応を識別するようになったと思われる。
・メタボリックシンドローム患者がPRを行うと多くの重要な代謝パラメータが改善されるにもかかわらず、腸内細菌叢の組成に大きな変化が見られなかった。