長友や本多がメインで輝いていた頃の日本代表チームの栄養戦略を耳にしてぶったまげたことがあって、私の中で忘れられない記憶となっている。
当時の日本代表はローカーボ食を栄養戦略に取り入れ、それをメディアに公言していたのだ。
サッカーは高強度スポーツであるため高度のエネルギー要求があり、競技時間は長時間にわたるためエンデュランス機能にとって最適な栄養戦略が最も重要である。
ローカーボは自殺行為では・・・
案の定日本代表はパッとしない結果に終わった。
過去50年近く、サッカーにおけるスポーツ栄養学の研究が行われてきた。
数々の論文で、試合中の疲労をもたらすと思われる筋グリコーゲンの枯渇や低血糖について議論されている。
嫌気性解糖と炭水化物(CHO)異化は重要なエネルギー源のため、筋グリコーゲンはサッカーの試合後に試合前のレベルの約43%まで減少し、試合後24時間以降も著しく減少すると報告されている。
プロサッカー選手は通常1試合あたり約11~13kmの範囲をカバーし、中央のミッドフィルダーの範囲が最も距離が長く、センターバックーが最も短いというデータがある。
総走行距離のうち約1150mを20km/h以上の速度で走り、約60回のスプリントを行うことから、選手は非常に体力を消耗する。
エネルギー要求は有酸素系と無酸素系の両方において大きなレベルに達し、試合の約90%は低~中程度の強度で行われ、エンデュランス系がエネルギー要求の大部分を占める。
加えて、サッカーにおける瞬間的な加速やジャンプといった高強度運動では、無酸素系システムのエネルギー要求が増加する。
これらの高強度運動は、ゴールを決める場面での直線的なスプリントなど試合を決める重要な瞬間で見られることが多く、乳酸レベルが通常2~12mMに上昇する。
サッカー選手は試合中のエネルギー必要量を満たすために、トレーニングと栄養面の両方の観点から十分な準備をする必要があるだろう。
リンクのレビューは、男子サッカー選手のトレーニングと試合の両方のエネルギー需要に関する利用可能な文献を分析し、パフォーマンスを最適化するために選手が実践すべきエビデンスに基づく栄養戦略を提案するためにエネルギー摂取量を検討することを目的としたもの。
トレーニング中や試合中に起こるエネルギー消費量や代謝の変化についても調査している。
サッカー関係者には非常に興味深いデータと言えるだろう。
Energy Requirements and Nutritional Strategies for Male Soccer Players: A Review and Suggestions for Practice
・疲労
サッカーにおける疲労は、要求されるスピードやパワーを発揮・維持できないことと定義され、文献上でも多くの関心を集めている。
疲労は試合中の様々な段階で生じ、一般に激しいプレイ時間帯の後に生じると考えられているが、必要とされる出力の維持がより永続的にできなくなることがある。
これには多くのメカニズムが考えられるが、栄養学的な説明としては筋グリコーゲンの枯渇と低血糖が挙げられる。
1970年代初期の研究では、筋グリコーゲン利用能が低い状態で試合を開始したプレーヤーは、試合終了までにその貯蔵量が完全に枯渇することが初めて示された。
注目すべきは、ハーフタイムにグリコーゲン貯蔵量がほぼ枯渇しているという観察結果。
枯渇の結果、歩行など低強度の動作に費やす時間が大幅に増加しスプリント運動ができなくなった。
また、デンマークの4部リーグの選手において、非競争的な試合中に筋グリコーゲンが徐々に減少し、枯渇したのは総筋繊維の約47%を占めることが調査で明確に証明された。特に高強度の動作を担うタイプIIaおよびタイプIIX繊維において枯渇が顕著であることが確認され、試合を通じて観察されたスプリント能力の著しい低下を裏付けている。
あくまで「デンマークの4部リーグ」水準であることから、上部リーグのより能力の高いプレーヤーによる高強度のパフォーマンスでは、グリコーゲン枯渇の有病率は観察よりも高いかもしれないことに注意すべきだろう。
サッカーの試合中のグリコーゲン使用量を測定した他の調査またはシミュレーションでも、パフォーマンスのために試合開始前に最適なグリコーゲン貯蔵を行う必要性が強調されている。
もう一つのグリコーゲンの側面として、肝グリコーゲンの枯渇が挙げられる。
肝グリコーゲンの枯渇は糖新生の速度が低下させ低血糖につながる。
脳は主に血液中のグルコースをエネルギー源として利用するため、低血糖は疲労やパフォーマンス低下の一因と考えらる。
・栄養摂取
現在入手可能なデータでは、サッカー選手はトレーニング中に1日約2200~3000kcalを消費している。
トレーニング日と試合日の両方を考慮すると、約3100~3900kcal/dayに増加する。
非トレーニング日(すなわち、休息日)は、〜2510kcal/dayと報告されている。
イングランド・プレミアにおける最近の調査(対象選手人数はわずか6名)では、トレーニング日のCHO摂取量が4.2 ± 1.4g/kgであるのに対し、試合日のCHO摂取量は6.4 ± 2.2g/kgと増加している。
オランダのプロ選手のサンプルにおいても同様の観察結果が得られた。
また、イングランド人選手とオランダ人選手のいずれにおいても、競技週間を通じてタンパク質に統計的に有意な差は見られなかったが、イングランド人選手のタンパク質摂取量が+30 gと高かった。約1.7g/kgを超えるタンパク質摂取は、筋再生を補助する可能性は低く除脂肪体重の増加に貢献しないというデータもあるが、より多くのタンパク質摂取は、ハードスケジュールな試合期間中に生じるCHOの要求量を補う可能性もある。
また、イングランド・プレミアアカデミーの多量栄養素摂取に関する調査では、エリートユースサッカー選手がCHO摂取基準を満たしていないことが示唆された。2010年から2019年の研究を特定して行ったメタアナリシスでは、アカデミー選手とシニア選手のタンパク質摂取量がそれぞれ1.8g/kgと1.9g/kgで安定していることが示された。
しかしCHOの摂取量は両グループとも推奨量より低かった。
総合すると、CHO摂取量にもっと注意を払う必要がある。
特に、試合までの期間や試合が集中する時期には注意が必要。
・試合前日の栄養
高CHO戦略によって身体出力が全体的に増加することは明らか。
試合前日または試合1日目の主な栄養摂取の焦点は、試合日の活動に備えて筋肉および肝臓のグリコーゲン貯蔵量を増加させることにある。
エリート選手の試合では、3日間CHOを大量に摂取した後では、サッカー後の筋グリコーゲン貯蔵量が約80%回復していることが観察されている。
CHOの摂取目安は6g/kg。
例えば、75kgの選手でCHO摂取量が450g。
また、グリコーゲンは水と一緒に貯蔵されるので、毎回の食事やおやつで水分を摂取することが強く推奨される。
また、高血糖指数(HGI)食品は低血糖指数(LGI)食品よりも速く消化吸収されるため、GI値が高い食品の摂取を意識することが大切。高GI食と低GI食のどちらを選択するかについては、エビデンスが不足しているが、高GI食は24時間にわたるグリコーゲンローディングに有利。
24時間という短時間で筋グリコーゲンの大幅な喪失を補充することができないため、試合準備期間の食事は非常に重要。
肝臓グリコーゲンは試合期間中に迅速に補充されるが、筋グリコーゲンはそうではない。
・試合当日:試合前
試合前の栄養摂取に関する一般的なコンセンサスは、キックオフの約3~4時間前に1~3g/kgまたは1~4g/kgのCHO食が推奨される。
一般にスポーツ栄養学では、高GI食が約3~4時間後にいわゆるリバウンド性低血糖を引き起こす可能性を考慮すると運動前の食事はHGI CHOよりもLGI CHOの方が有利である。
しかし、サッカーに特化した調査では試合前のHGIとLGI食には差がないことが示されている。
また、脱水は長時間の運動における疲労要因として認識されている。
グリコーゲン貯蔵には水分が必要であるため、水分補給は重要。
プレイヤーは水分補給をした状態で試合を開始する必要がある。
多くのプレーヤーが比較的脱水状態で競技を開始している可能性を示唆する研究もある。
試合の少なくとも4時間前に、5~7mL/kgを試合会場到着直前までゆっくりと摂取することが推奨される。
食後の炭水化物含有飲料の使用は控え、ウォームアップ後と試合開始前の5~10分間にのみ再導入すると、試合開始後最初の10~15分間に起こる低血糖リバウンドの可能性を減らすことができる。
サッカー(トレーニングまたは試合)のような運動では筋タンパク質分解(MPB)が起こり、筋タンパク質合成(MPS)が減衰することは避けられない 。
アスリート活動に従事する1時間前とプレー後1~2時間以内にタンパク質を摂取すると血中タンパク質が増加し、摂取しないと不足する。
試合3時間前の食事でタンパク質を食事から摂取することが望ましいが、プロテインバーやホエイプロテインシェイクの活用も推奨される。
さらにカフェインもパフォーマンス向上に役立つ。
カフェイン2~6mg/kgの摂取は、サッカーの身体的要求を再現した間欠的運動プロトコル中の反復スプリントおよびジャンプ能力、反応性敏捷性、ジャンプ力、パス精度を向上させると報告されている。
栄養と試合当日:試合中
十分な水分補給、筋グリコーゲン、血糖値を維持するために、試合中はCHOと水分の十分な摂取が必要だが、サッカーという競技の非周期的性質を考慮すると、水分を摂取できる予定された休憩はなく、また、胃や腸の耐性・満腹感を考えると、全ての選手にとって適切な水分補給は不可能。
プレーヤーが水分を摂取できることが保証されているのは、試合前とハーフタイムの2回だけである。したがって、プレーヤーは試合の中断など、ランダムに発生する休みに水分を摂取することが推奨される。
試合中の選手は試合中に最大3ℓの汗をかくことが報告されている。
したがって、選手は試合前の水分補給量の2~3%以上の不足を防ぐために、十分な水分を摂取することが推奨される。
この水分にCHOを加えると、低血糖の予防、高いCHO燃焼率の維持、グリコーゲンの温存、中枢神経系への影響によって疲労の発生が遅れるため、運動能力の低下が防げる。
30~60g/hのCHO摂取は、サッカーにパフォーマンスに一貫した有益な効果と関連しているという報告がある 。
イングランドプレミアリーグの選手たちの試合直前および試合中のCHO摂取は32±22g/hと報告されている。
さらに、CHO溶液と160mg/Lのカフェインの同時摂取は、スプリントパフォーマンスとジャンプを改善することが報告されており、運動後の知覚疲労を減少させたとする報告もある。
試合当日:試合終了後
試合中に筋肉と肝臓のグリコーゲンが枯渇することから、試合後の回復の主な焦点は水分補給と筋タンパク合成の回復を確保することに加えてグリコーゲンを補充すること。
試合後2時間以内に補充を行う必要があり、次の試合が近い場合(2~3日以内の場合)は特に重要。
運動後のCHO摂取は早ければ早いほどよい。
試合後に十分なCHOを摂取できない選手は、運動停止から2時間後にCHOを摂取してもグリコーゲンの再合成能力が約50%低下するリスクがある。
栄養目標がグリコーゲン合成を最大化することである場合、HGI CHOが補給を強化するために選択される。約1.0~1.2g/kgの摂取が理想。
また、試合直後に十分なCHOを摂取できない場合、追加のタンパク質摂取がグリコーゲンの再合成を助ける可能性があることを示すエビデンスがある。0.4g/kgの追加タンパク質摂取によってグリコーゲンの十分な貯蔵率を補助する可能性がある。
試合からの回復のもう一つの重要な側面は、水分の補給。
プレーヤーは試合終了のホイッスルの後体温が高熱になり、発汗量が3~4ℓを超えることもある。
牛乳はタンパク質とカゼインの含有量だけでなく、水と比較して高い電解質含有量を示すため、就寝前の飲み物として選択されるかもしれない。
試合の翌日(MD+1)
MD+1は、一般に栄養面で重要視されない日。
しかし、選手はまだエネルギー不足を継続る可能性がありため、適切なCHOを摂取して補給戦略を継続する必要がある。
スウェーデンのエリート選手を対象に行った研究では、試合後の不適切な食事内容による不十分なCHO摂取が、試合後のグリコーゲン補給を制限していることが強調されている。
また、サッカーではダイナミックな方向転換と高強度の加速・減速運動による筋損傷効果によって、タイプII線維でグリコーゲン再合成の障害が引き起こされることが示唆されている。
この障害を克服するために、サッカー選手は競技後24時間高CHO食(6-8g/kg)を維持することが推奨される。
また、研究では1日20gのクレアチンモノハイドレートを摂取することで、高CHO食と並行して筋グリコーゲンをさらに増加させることができることが示唆されている。
以上はあくまで海外クラブの選手を対象とした調査結果なので、カーボやプロテイン摂取量はあくまで参考程度にとどめ、選手各々がポジションや体格を考慮して自分にとって最適な量を模索する必要がある。