驚く方もいるかもしれないが、アスリートにおける摂食障害(ED)の有病率は一般人よりも高い。
減量を伴う種目の女性スポーツ選手でより高い有病率が観察されている。
アスリートにおけるEDは、うつ病、不安症、自己否定、早期の筋疲労、体温調節障害、酸素・栄養輸送障害、有酸素運動能力の低下、骨量減少、感染症リスク増加、貧血、胃腸障害、脱水など、健康とパフォーマンスに大きな影響を及ぼす可能性があるため対策が必要だ。
バレエダンサーなど、芸術表現として強い美的感覚を要求される競技では精神的な負担もより強くなるため、EDリスクはより大きくなるだろう。
統計ではバレエダンサーの16.4%がEDを有し、非ダンサーと比較して発症リスクは78%も高い。
また、バレエダンサーにおけるEDの危険因子としてThinness-Related Learning (TRL)(痩身学習でいいのかな?)がある。
TRLとは、指導者や仲間からのダイエットに関するコメント、仲間同士の比較、モデリングによる観察学習や比較など、個人が痩身に関する学習にさらされることを言う。
実際に、食事制限と痩せなければならないというプレッシャーはクラシックバレエダンサーの共通点として報告される。
過去にバレエダンサーにおけるEDとボディイメージに関連する食意識について、量的および質的アプローチの両方を組み合わせて調査した研究は存在しない。
リンクの研究は、クラシックバレエダンサーにおけるED症状およびボディイメージ(dis)満足度と、関連する摂食態度に関する経験、知覚、感情を調査することを目的としたもの。
競技者のリハーサルや選手権におけるルーティン、コーチや仲間との関係、キャリア目標が、摂食態度や身体、ED症状の有無とどのように関連しているか理解するのに役立つだろう。
Can A Ballerina Eat Ice Cream?”: A Mixed-Method Study on Eating Attitudes and Body Image in Female Ballet Dancers
14名のクラシックバレエダンサー(18~30歳)を対象に、横断的研究を実施。
ED症状の有無、ボディイメージに対する知覚と満足度について自己報告式の質問紙により定量分析。
結果
・いくつかの制限的な一般的なダイエットの常用
・「ヘビー」または「脂肪分が多い」と考えられる食品の常時制限
・食事抜きや空腹兆候の無視
・ストレスや不安による過食エピソード
・ルーティン食を破ることへの罪悪感
・食べ物を「良い」「悪い」または「赤身」「脂肪」に分類し、それらの一部をいつもの食事から除外する
といった食事態度を報告。
異常な食事パターンを示す過食症の症状が50%(うち有意な危険指数は2名のみ)、中程度の過食症の症状が7.1%、ED全般の症状が14.3%と、バレリーナの症状は多岐に渡った。
また、日常生活における自身の体には満足しているが、「クラシックバレエ」という文脈では自分の体型に不満を感じていると報告された。
結論として、この研究の対象群では痩せた体型を実現するための食事制限や、その他の減量戦略を常に実践していることがED症状や身体的不満と関連していた。
バレエダンサーの指導者は、選手が深刻なEDを発症し健康全般に影響を及ぼすリスクを減らすために、危険な食事習慣に注意する必要がある。
・減量食の実践とEDの発症との強い関連性は過去の献上でも広く示されている。
10代の少女1,000人を1年間追跡調査した研究では、食事制限をしている人がEDを発症する相対リスクは食事制限をしていない人の8倍で、食事制限はED発症の強い危険因子であると結論付けている。
・バレエダンサーの50%が現在の体型に何らかの不満を示した。
食事態度は、ダンサーのボディイメージに対する認識によってもたらされる可能性が強い。
参加者の半数以上(8名)が、理想の身体は健康的と思われる身体より1サイズ細いと考えたことは懸念される。
体型の大きさをより気にするダンサーは、同世代のダンサーに比べて乱れた食事態度を報告する確率が5倍高いと結論付ける研究もある。
・他のダンスジャンル(コンテンポラリー、フラメンコ、スパニッシュダンス)と比較して、バレエダンサーは身体への不満の主要因としてコーチをあげ、指導者からの圧力をより多く報告する傾向がある。
・「プロのバレエダンサーは、自分の身体を生物学的限界まで働かせ(痛みや重傷さえ克服し)、利益(金銭的報酬だけでなく名声や職業上の発展や区別を含む広義の)を提供するために禁欲的な態度を形成する」と結論する研究者もいる。
これは、特にクラシックバレエのような美的要素の強いスポーツ様式において身体への不満とED発症の高いリスクとの関連性を支持するものである。
・2013年にスペインの237人の少女を評価した研究では、ソーシャルメディアの使用が体の不満と間接的に影響することが示された。
特に「低炭水化物」ダイエットを始める理由としてメディアの影響が明記された。
これはダンサーの栄養に関する知識の欠如を例示しており、科学的な裏付けを欠いた「奇跡のダイエット」を常に宣伝する著名人によって、ソーシャルメディアの影響を示唆する。
ダンサーは専門家や栄養面での十分なサポートが得られないことが多く、インチキや過激な提案に従ったりしてしまう。
栄養モニタリングを受けている参加者はわずかであり、クラシックバレエに熟練したプロがあまり参加していないことが示唆されたことは注目に値する。
栄養サポートは、ダンサーにおけるED症状の予防と治療、そしてパフォーマンスとQOLの向上に非常に重要な役割を果たす。
少々批判的なニュアンスを含むデータになっているが、ではバレエダンサーにいてEDリスクを減らしつつ美的感覚を保てる食事方法はあるのだろうか。
私の答えはYESだ。
最後の段で示されている様に、これまでは基本的な初期設定が間違った食事摂取を行なってきたがためにED発症につながっている可能性が高い。
摂取する食材(カロリーが同じでも食材によって太りやすさは異なる)、微量栄養素、厳密なカロリーコントロールなど、緻密な戦略に基づいた栄養管理を行えばEDリスクはかなり低減できるはずだ。
健康維持に必要な微量栄養素を摂取しようとすると同時にカロリー摂取につながるのでは?と考える人もいる様だがそれは違う。
栄養素を満たすこととカロリーが増えることはイコールではない。
必要な微量栄養素をパーソナライズして、バレリーナの様な体重制限のあるアスリートに提案することが重要だろう。