バレーボールやバスケなど、ジャンプ力が重要となる競技におけるプレイタイム中のジャンプパフォーマンスの維持は非常に大きなテーマである。
試合中のジャンプパフォーマンスの向上はアタック、サービス、ブロック、シュートなどの技術的動作が向上し、試合で勝利するための決定的な要因になる。
ジャンプ力は筋力と相関することから、プライオメトリックスやコントラストトレーニング、ウェイトリフティングやパワーリフティングに基づく方法など様々なトレーニングが考案されているが、これらはすべてオフシーズンのワークアウトや試合がない日のコンディショニングとして中・長期的視点で行われている。
では、試合当日や競技直前(ウォームアップなど)に、ジャンプ力向上の急性効果が得られるコンディショニングはないものだろうか?
Postactivation Performance Enhancement(PAPE)
この概念は、随意的な筋収縮の結果として筋力やパワーパフォーマンスが急性的に向上することを指し、トレーニングプログラムを設計する上で注目されている。
例えば、試合前のウォームアップにPAPEの誘発を目的とした運動を導入することで、試合中に大きなPAPE(今日の例ではジャンプ力)が得られる。
PAPEの大きさは強度と疲労度に依存的で、増強効果が疲労よりも大きければパフォーマンスは向上する。
この関係は被験者の個々の生理学的特性、経験、年齢、筋線維の分布の種類(速筋線維と遅筋線維)、最大筋力、トレーニングレベルなど個別要因に影響される。
PAPEプロトコルと増強の間に休息期間を設けると、より良いパフォーマンスを引き出すことができることも明らかになっている。
ジャンプ動作の最良のPAPE増加はスクワットのような筋力エクササイズで得られることが示唆されており、1~5回を1~3セット、1RMの80%以上の負荷で、活性化後1~9分で最良の結果が得られるとされている。
しかしそれらの結論を導き出した研究は大学やカレッジの選手が多く、そのほとんどが男性選手である。
男女間の生理学的な違いはPAPEに対する異なる反応を引き出す可能性があり、PAPEの結果は性別によって異なる可能性がある。
現在、女性アスリート、特にエリート女性プレイヤーを対象とした研究は不足している。
さらに、バレーボール選手を対象とした実戦的な条件での研究は皆無である。
リンクの研究は、エリート女子バレーボール選手においてコンディショニング活動がその後のパフォーマンス向上(Postactivation performance enhancement (PAPE))を誘発し、垂直跳び(VJ)のパフォーマンスを向上させるのに有効であるかどうかを検証したもの。
スペインスーパーリーグ2部のバレーボール選手11名を実験グループとコントロールグループに無作為に分けた。
カウンタームーブメントジャンプ(CMJ)を、活性化前(Pre-PAPE)と活性化後(Post-PAPE)、試合後(Pre-Match)、5試合の各セット後(Set 1~5)の8回実施。
その結果、ベースライン(Pre-PAPE)と以下の全てのテストとの間で、実験のジャンプパフォーマンスが有意に増加することが示された。
+1.3cm(Post-PAPE)、+3.0cm(試合前)、+4.8cm(セット1)、+7.3cm(セット2)、+5.1cm(セット3)、+3.6cm(セット4)、+4.0cm(セット5)、すべての効果量は中程度から大きかった。
対照群の成績は、Set3 (+3.2cm) と Set 5 (+2.9cm) まで有意な増加を示さなかったが、ジャンプの高さは実験群よりも対照群の方が常に低くなっていた。
コンディショニング活動の使用は、Post-PAPEテストにおける垂直跳びパフォーマンスを上昇させ、バレーボールの試合の第2セットまで持続する大きなPAPE効果を誘発することが明らかになった。
Postactivation Performance Enhancement (PAPE) Increases Vertical Jump in Elite Female Volleyball Players
・スクワットモーションを含むウォームアップは、運動後のVJ高さの改善として示される高レベルのPAPEを誘発し、このVJの改善は試合中数分間維持されることが強調された。
エリートバレーボール選手を対象としたこの種の研究は、今回が初めて。
・PAPEは直前の筋活動(随意筋収縮)によって誘発された力生成の強度と関連し、その存在はパフォーマンス結果によって確認される。
PAPEのメカニズムは十分に定義されていないが、筋温の上昇などより持続的なプロセスに関連している可能性がある。また、血流量や水分量、筋の活性化もPAPEのメカニズムとして提案されている。
さらに、運動による血漿カテコールアミンの増加と高次運動神経の興奮もPAPEのメカニズムとして提案されており、その効果は少なくともウォームアップ動作後20分まで観察される。
・多くの研究で、バレーボール選手においてPAPEプロトコルは垂直跳びのパフォーマンスを向上させることが示された。
エリート選手を対象とした今回の研究でも、実験群ではVJのパフォーマンスが向上したのに対し、対照群では逆の傾向が見られたことから同様の結果が得られると考えられる。これらの結果は、統計的に有意ではないものの、VJの向上が認められた他の研究と一致する。
・エリートアスリートへのアクセスが困難なため、本研究ではサンプルサイズが小さく、活性化前後の測定値間の差を示す統計的検出力が制限される可能性がある。しかし、VJ性能の中程度の効果量が観察され、観察されたジャンプの改善傾向を確認することができた。
・今回の研究は、コンディショニング活動が活性化プロトコルの8分後に得られる筋力の増加の結果として、VJパフォーマンス、すなわちPAPEに正の効果をもたらすことを示唆している。
・標準的なバレーボールのウォームアップとPAPEの組み合わせは、VJの強化に効果的である。
PAPEの効果はPAPの効果よりも長く持続するが、この効果は蓄積疲労との関係に依存する。
実験群ではセット2までPAPEの効果が疲労よりも大きくなり、その結果、対照群よりもジャンプ性能の向上が観察された。