約2年を経て、ようやくCOVID-19における生物学的メカニズムが少しずつ明らかになってきている。
男性は女性に比べてCOVID-19が重症化しやすく死亡率も高い。
性差の決定要因はまだ明らかにされておらず、疾患の認知度の低さや併存疾患の多さを指摘する研究者も少なくい。
過去の研究で、COVID-19男性患者の多くでテストステロン(T)の血清レベルが低いことが報告されている。
しかし、血清T値がSARS-CoV-2感染症の転帰に与える臨床的影響はまだ明らかになっていない。
逆に、アンドロゲン受容体(AR)を介したメカニズムによってCOVID-19の重症化のリスク要因としてT値が高いことが示唆されている。
リンクのデータは、血清T値の低さがSARS-CoV-2関連肺炎の臨床症状や転帰に与える影響に着目したもの。
方法
Rozzano-Milan(イタリア)のIRCCS Humanitas Research HospitalにCOVID-19で入院した成人男性221名を対象に、試験開始時の動脈血酸素分圧(PaO2)/吸入中酸素濃度(FiO2)比、血清T値、炎症パラメータ、入院中の人工呼吸の必要性、院内死亡率を評価。
結果
T値が低い被験者(8nmol/L未満、176例)は有意に高齢で、血清インターロイキン-6、C反応性タンパク質、乳酸脱水素酵素、フェリチンが高く、P/F比が低い、低T3症候群、急性呼吸不全、人工呼吸の必要性、死亡率が、T値の高い被験者に比べて高かった。
多変量回帰分析では、T値は、年齢、合併症、甲状腺機能、炎症とは独立して、急性呼吸不全および院内死亡率と有意な相関を示した。
結論
T値の低さはCOVID-19の好ましくない転帰と関連している。
COVID-19に関連した性腺機能低下症の長期的な転帰と、急性疾患中および急性疾患後のT補充の臨床的な影響を評価するための前向きな研究が必要。
Low testosterone predicts hypoxemic respiratory insufficiency and mortality in patients with COVID-19 disease: another piece in the COVID puzzle
・COVID-19の成人男性において、年齢、炎症マーカー、低T3症候群、併存疾患の有無にかかわらず、T不足と入院時の急性低酸素血漿性呼吸不全、酸素吸入の必要性、入院中の死亡率の高さとの関連が報告された。
・男性では、年齢の高さと合併症が早期のT値低下と明確に関連している。
急性疾患や重篤な疾患では、急性期にサイトカインがライディッヒ細胞に直接作用することでT値が低下することや、慢性期に下垂体からの黄体形成ホルモン(LH)分泌が低下することが示されている。
大規模疫学研究では、高齢者における性腺機能低下症の有病率が9〜17%であり、入院中の高齢者(平均年齢86歳)では有病率が50%に上昇している。
血清T値と死亡率との間に逆相関があることも報告されている。
・興味深いのは、性腺機能低下症の男性における入院の主な原因が呼吸器感染症であるという報告があることだが、性腺機能低下症と感染症リスク増加の相関関係はまだ明らかになっていない。
実際、Tは免疫反応の調節因子として作用するが、同時に、炎症自体がTの分泌量を減少させる原因である可能性も指摘できる。
・低T値と炎症パラメーターおよびCOVID-19の重症度との間に有意な関連性があることは、これまでに数件報告されている。
COVID-19のために集中治療室(ICU)に入院した低T値の被験者グループは入院時にT値が高かった被験者と比較して、炎症マーカー(IL-6、CRP、PCT、LDHおよび白血球)が増加していることを報告た研究がある。
同様の所見は、後にCOVID-19罹患者の大規模コホートにおいても確認されている。
この研究で観察された高い有病率は、SARS-CoV-2感染と性腺障害との間に特異的な関連性があることを示唆している。
高度な全身性炎症と視床下部-下垂体-性腺(HPG)軸全体が関連してしている可能性がある。
・性腺機能低下症の有病率は、糖尿病、メタボリックシンドローム、肥満、心血管疾患、COPD、腎疾患、がんの患者など、特定の集団で高くなる。
この研究の低T値集団では高い併存疾患率が観察され、低T値の被験者の50%以上が2つ以上の併存疾患を抱えていた。
さらに、COVID-19で入院した被験者の死亡率を高める予測因子として確立されている低T3症候群が集団の50%まで認められた。
しかし、低T値の潜在的な臨床的影響を評価したところ、併存疾患の重症度、甲状腺の状態、炎症マーカーとは無関係に低T血清レベルがCOVID-19の好ましくない転帰と関連していることがわった。
T値の低さは全身疾患や炎症の顕在化ではなく、COVID-19感染の直接的な結果として考慮されるべきであるという仮説を助長するものだ。
・この研究では低T値被験者と正常被験者の間で、急性呼吸不全の有病率に有意な差があることを発見した。多変量ロジスティック回帰分析により、他の交絡因子から独立して、T値と入院時の呼吸不全との直接的な関係を確認することができた。
性腺機能低下症の被験者では、呼吸器系の原因による入院のリスクが高いことが以前に報告されている。これは成人COPD患者で報告されているように、血清T値を低下させるのは炎症状態そのものではなく、低酸素血症と過呼吸の役割によるものである可能性がある。
・死亡率は、COVID-19の性腺機能低下症集団ではかなりばらつきがあり5~27%となっている。このばらつきは、非常に異質な研究集団を反映していると思われる。これらの研究の中には、低T値の被験者の死亡率が上昇したと報告した研究もあれば、同様の関連性を示すことができなかった研究もある。
この研究の集団では、全体の死亡率は17.6%と高く、最近のメタアナリシスで得られた結果を裏付けるものであった。
興味深いことは、入院時に軽度から中等度の状態にあった高齢者の集団で、低T値の被験者が炎症マーカーの血清レベルの上昇と、急性低酸素性呼吸不全および死亡率のリスクが有意に高いことを初めて示すことができたことである。
したがって、T値が低いことは高度の炎症と全身性のアロスタティック機構の結果であると推測できる。
・炎症マーカー、年齢、併存疾患と研究結果との間には独立した関係があることが示された。これらの結果は、T値低下と病気の経過が好ましくないこととの間に直接的な関係があることを示唆しており、これはおそらくテストステロンの既知の免疫調整作用に関連していると考えられる。また、低ゴナドトロピン性性腺機能低下症の被験者では呼吸器疾患関連の死亡率が高いことを示す過去の証拠とも一致する。
・いくつかの研究の限界にも関わらず、今回の結果は臨床的に重要な影響を与える可能性がある。
疲労、筋力低下、気分変動、睡眠障害はいわゆる「急性期COVID症候群」の一部として報告されており、これらはすべて性腺機能低下症患者に共通する症状である。急性COVID-19におけるT分泌障害に関連する確固たる証拠と同様に、HPG軸の障害は長期にわたって持続し、特に虚弱体質の患者の身体的・心理的な早期回復を妨げる可能性があると推測される。