我が国は高齢化により65歳以上の高齢者が2030年には31%、国民の三人に一人まで増加すると予想されている。
日本人女性の場合、閉経年齢の平均は50.5歳で人生の3分の1を占めている。
そのため、女性の更年期障害の管理は人生や医療面で重要である。
また、口腔衛生は健康の維持・増進だけでなく、QOLを向上させるための基盤ととして更年期女性にとって重要な要素である。
加齢に伴って唾液分泌量が減少して味覚や嚥下機能が低下したり、むし歯や歯周病などの口腔疾患の罹患率が上昇して歯の欠損数が増加すると、口腔機能や咀嚼能力が低下する。
閉経後の女性のメタボリックシンドローム(MetS)と口腔衛生に関する研究は非常に少ない。
リンクの横断研究は、韓国の閉経後女性におけるMetSおよびその構成要素と残存歯数との関連を明らかにすることを目的としたもの。
3320人の更年期女性(40~79歳)を対象にMetSおよびその構成要素と残存歯数との関連性を検討した。
重回帰分析によると、回帰係数の値は、高血圧群、高血糖群、低高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール群、MetS有病者群でそれぞれ-1.62(p<0.05)、-1.31(p<0.05)、-1.60(p<0.05)、-2.28(p<0.05)だった。このことから、MetS有病者群では、非有病者群に比べて残存歯数が少ないことが判明した。
多重ロジスティック回帰分析では、歯の残存数(20本未満)のオッズ比は、非有病者群(1.25(p<0.05))に比べて、MetS有病者群(1.82(p<0.05))で高かった。
腹部肥満群では1.25(p<0.05)、高血圧群では1.50(p<0.05)、高血糖群では1.36(p<0.05)、低HDLコレステロール群では1.72(p<0.05)であった。
閉経後の女性において、腹部肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症、およびMetSの有病率が歯の喪失と関連することを示唆していると結論
Association between Metabolic Syndrome and the Number of Remaining Teeth in Postmenopausal Women: A Cross-Sectional Analysis Using the Korean National Health and Nutritional Examination Survey
・メタボリックシンドローム(MetS)の危険因子は、腹部肥満、インスリン抵抗性、カロリーの過剰摂取、身体活動の不足など。
さらに、環境、社会経済、心理的な要因もMetSに影響を与える。
MetSは「腹部肥満」、「高血圧」、「高血糖」、「高中性脂肪」、「高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール値の低下」のうち、3つ以上の条件を満たす場合に診断される。
・世界のMetS有病率は、過去5年間で32.5%から36.9%に増加し、2型糖尿病、冠動脈疾患、脳血管疾患の主要な危険因子となっている。これらの疾患の進行に影響を与え、糖尿病の約3倍の頻度で発症するため、積極的な管理が必要な疾患である。
・最近の研究ではMetSと歯の喪失の関係が報告されている。
更年期および非更年期の女性を対象としたMetSと歯周病の関連性に関する研究では、歯周病に有意に影響する因子として、デンタルフロスの不使用、更年期、MetS因子の増加が挙げられた。
・閉経後の女性におけるMetSと歯周病指標との関連についてのグローバル研究では、MetSと歯肉縁上プラークには有意な差が見られたが、腹部肥満を除くMetSの構成要素と歯周炎の指標との間には一貫した関連性は認められなかった。閉経後の女性の歯の喪失要因に関する研究では、骨粗鬆症や慢性疾患に関連して有意な結果が報告されている。しかし、閉経後女性のMetSと残存歯数に関する研究はまだ非常に少ない。
・本件の目的は、韓国の閉経後女性におけるMetSおよびその構成要素と残存歯の関係を明らかにすることであった。
結果、閉経後の女性において、MetS、腹部肥満、高血圧、糖尿病、脂質異常症が歯の喪失と関連していることが明らかになった。
世界保健機関(WHO)は口腔機能を維持するために、少なくとも20本の歯を保持することを推奨している。
今回の研究では、参加者の平均残存歯数は22.35本で、70代は17.85本でWHOの推奨値を満たしていなかった。残存歯数が少ないと咀嚼能力だけでなく、生活の質も低下するため、残存歯数を保つことは高齢者の生活の質や寿命に大きく影響する。
・本研究では年齢が高くなるほど、また教育水準や世帯収入が低くなるほど残存歯数が減少しており他の研究者の知見と一致していた。
.歯磨き回数が1回以下のグループでは残存歯数が有意に少なく、話すことが困難な人は残存歯数が15.88本と有意に少なかった。
歯の喪失は咀嚼機能だけでなく発音や見た目にも影響を与え、円滑な社会生活を送ることが困難になるため、個人のQOLが低下する可能性が示唆された。
・重回帰分析の結果、閉経後の女性では高血圧群、高血糖群、低HDLコレステロール群で残存歯数に有意差があり、MetS有病者群では残存歯数が少ないことががわかった。
また、残存歯数20本を基にした多重ロジスティック回帰分析の結果では、腹部肥満、高血圧、高血糖、低HDLコレステロールの各群で有意差があったが、MetS有病者群では残存歯数が少ないことがわかった。
他の研究では、MetSリスク因子と歯の欠損との関連において、リスク群の方が正常群よりもオッズ比が有意に高く、MetS有病者群では残存歯数が20本未満となるリスクが高いことが示された。
また、糖尿病や高脂血症などの慢性疾患を持つ患者は残存歯数が少ないことを報告した研究もある。
脂質異常症と高トリグリセリド血症が残存歯数と有意に相関しており、MetSの人では残存歯数が少ないという、本研究の結果と同様の結果を得たデータも確認している。
・閉経後の女性においては年齢、教育水準、社会経済的地位などのいくつかの決定要因が、虫歯、歯周病、喫煙などの口腔衛生と関連している。
また、様々な慢性疾患は歯や歯周組織に炎症を引き起こし、歯の喪失の結果として現れると考えられる。
・閉経後のホルモン補充療法は、歯の維持に良い影響を与えることから、ホルモン補充療法を受けていないことは、閉経後の女性における歯の喪失の独立したリスク指標と考えることができる。
閉経後女性におけるMetSの危険因子を最小限に抑え、残存歯を維持・管理するためには、適切な歯科治療、ホルモン療法、食事管理、運動などが必要である。