うつ病は世界で2億6,400万人以上が罹患する精神疾患で、毎年約80万人が自殺により命を落としている(コロナでさらに増えるだろう)。
うつ病患者は、快感消失、疲労感、睡眠障害、性欲減退、自己破壊的な行動などを経験する。
うつ病はモノアミン欠乏、神経炎症、神経形成の変化、視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸の過活動など、さまざまな要因による。
アルツハイマー病(AD)は神経変性疾患で、認知症の中で最も一般的な疾患。
原因は、βアミロイド(Aβ)が細胞外に蓄積し、老人斑や神経原線維のもつれを形成することで生じる。
うつ病とアルツハイマー病(AD)における認知症との関連性を示す科学的研究が増えている。慢性ストレスは、うつ病やADの発症に関与する脳の部分における酸化ストレスの形成に寄与している。科学文献では、これらの疾患の治療に高い効果を発揮する抗酸化物質の重要な役割が報告されている。
ご紹介するレビューでは、慢性的なストレス、酸化ストレス、そしてそれらが引き起こす脳内での変化の関係をまとめている。
抗酸化作用を示すすべての化合物の中で、AD治療において最も有望な結果が得られたのは、ビタミンE、コエンザイムQ10(CoQ10)、メラトニン、ポリフェノール、クルクミン、セレン。
うつ病治療の場合は、クルクミン、亜鉛、セレン、ビタミンE、サフランに最も大きな可能性が認めらた。
抗酸化物質は効果が高く、副作用の可能性が低いためうつとADの予防と治療に重要な役割を果たす。
抗酸化物質にはさまざまな特性があり、神経変性疾患の治療、治療支援、予防に適切かつ効果的に作用する可能性があると結論。
Chronic Stress and Oxidative Stress as Common Factors of the Pathogenesis of Depression and Alzheimer’s Disease; The Role of Antioxidants in Prevention and Treatment
・ADには2つのタイプがある。
EOAD(早期発症型アルツハイマー病)
LOAD(遅発性アルツハイマー型認知症)
の2種類。
・うつ病は、ADの危険因子であると同時に症状でもあることがわかっている。うつ病を患っている人は、認知症やADになる可能性が2倍高いと言われている。
うつ病は神経伝達システムに関連しており、その障害は神経変性の変化につながる。
・ストレスは、脅威となる刺激に対する反応と定義される。しかし、適度な急性ストレスは、記憶力を高めたり、海馬の増殖を促進したりするなど、有益な場合もあるが、慢性的なストレスは、脳に有害な変化をもたらす可能性がある。長期間にわたるストレスは、細胞増殖の抑制や神経新生の低下を引き起こし、うつ病やADの発症に重要な役割を果たしている。
・環境ストレス因子は、免疫やホルモンへの影響、ニューロン新生による神経形成の変化、神経伝達の障害によって症状を引き起こす。最終的に神経変性を引き起こし、認知症や認知機能の低下を引き起こす。
・うつ病の発症はADの予測因子である可能性がある。うつ病患者では、ADの発症年齢が低いというメタアナリシスによって確認されている。
・うつ病とADの両方において、ノルアドレナリン伝達の障害がある可能性がある。内側側頭葉の萎縮(MTA)は、うつ病を併発しているAD患者では、うつ病ではないAD患者と比較してより頻繁に観察される。
さらに、うつ病とADは共に同様の炎症性サイトカインの産生が増加することにより、神経系に炎症を引き起こす。ADが進行すると、抑うつ症状の重症度が増すことが考えられる。さらに両疾患では、ミクログリアの活性化が見られ、慢性的なミクログリアの活性化はADの進行に関与している。
・両疾患をつなぐ共通の要因として、慢性的なストレスが酸化ストレスを引き起こすことが考えられる。慢性ストレスによってグルココルチコイドの産生が
が増加すると、脳、特に海馬の体積が減少し、その結果、認知症の発症につながる。慢性的な炎症はシナプス間隙へのモノアミンの排出を減少させ、セロトニンとドーパミンの伝達プロセスを乱す。これは、うつ病とADの関係を示すさらなる証拠である。
・うつ病と認知症のいずれにおいても、脳由来神経栄養因子(BDNF)のシグナル経路の障害が観察されている。このことは、抗うつ薬治療が患者の認知症を予防し、遅らせるのに有効であることを裏付けている。
慢性的なストレスと脳の変化
・ストレス反応は、主に視床下部-下垂体-副腎(HPA)軸によって制御されている。これまでの研究では 慢性的なストレスとの関連が指摘されている。長時間のストレスはコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)の分泌を刺激し、下垂体で副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の合成と分泌を引き起こす。ACTHは、副腎によるコルチゾールの産生を刺激する。コルチゾールの濃度が上昇すると気分、精神運動、記憶と感情のメカニズムを制御する中枢の機能障害、神経新生の障害、海馬形成の機能障害が生じる。コルチゾールの分泌が増えると、海馬はCRHの分泌を抑制するが、この機能が低下するとコルチコステロイドの分泌が増加し、海馬の神経細胞にダメージを与える。
・様々な要因によるストレスは免疫系を活性化し、炎症性サイトカインの産生を増加させる。免疫反応が長期化すると神経内分泌系の調節不全を引き起こす。中枢神経系における免疫反応には、常駐するマクロファージからなるミクログリアが関与している。ミクログリアからはプロスタグランジン、ケモカイン、一酸化窒素が放出され、炎症を引き起こす。炎症性ケモカイン、急性期反応物質、接着分子、サイトカインは、NF-ĸB(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)に作用し、モノアミンの量や栄養因子の減少をもたらす。
・海馬は、心理社会的ストレスに対する身体の反応に重要な役割を果たす脳構造。海馬がコルチコトロピン(副腎皮質ホルモン)に長期間さらされると、海馬の細胞がダメージを受け、海馬の容積が減少し、認知能力が低下する。その結果、海馬の体積が減少します。海馬の構造的変化により、神経新生が阻害されるとともに樹状突起が分裂して短くなったりします。したがって、ストレスやうつ病に長期間さらされると、海馬内の構造変化が起こり、認知症の発症に寄与するという仮説が立てられている。
うつ病とADにおける慢性的なストレス
・うつ病患者やうつ病を発症した経験のある患者では、コルチゾールに対する感受性が高まっている。コルチゾールは、動物モデル(マウス)でうつ病を誘発するために用いられる物質で、ストレスホルモンである。
高齢者の女性と男性220名(年齢65~83歳)を対象とした研究では、コルチゾールの排泄と酸化マーカーの間には関連性があることがわかった。この研究は、ストレス、老化プロセス、神経変性疾患の発生が、慢性的なコルチゾールの血中濃度の上昇と関係しているという仮説を裏付けるものである。
・大うつ病性障害(MDD)は海馬の体積を減少させる。海馬の体積の減少が大きいほどうつ病期間が長くなり、再発のリスクが高まることが知られている。 さらに、海馬の体積が減少すると、その後の精神疾患や変性疾患を発症しやすくなる可能性がある。これは、ADとMDDの間に相関関係があることを示す。
慢性的なストレス
・慢性的なストレスは免疫システムの効率を低下させ、発がんを促進し、心血管疾患の発症リスクを高める。慢性的なストレスは、副腎皮質ホルモンの分泌を増加させる要因として、うつ病の発症と相関している可能性がある。
しかし、このホルモンの最適レベルは個人差があり、サーカディアンリズムの変動や心理的な状況に左右されることに留意しなければならない。血液検査だけでは、患者のコルチゾール濃度が最適なのか過剰なのかを定義できない。
・MDDを患う患者の血中では慢性的なグルココルチコイドのオーバーフローが観察される。これは高齢になってからADを発症しやすいことを意味している。また、患者の脳ではAβタンパク質の病的な変化が観察された。マウスモデルを用いた実験では、ストレスの誘発やグルココルチコイドの慢性的な投与により、これらの病的タンパク質の堆積物の形成が促進された。
慢性的ストレス-酸化ストレス
・慢性的なストレスはうつ病やADの発症に関与する脳の部位における酸化ストレスの発生に寄与することが研究によって確認された。
・酸化ストレスとは抗酸化物質による防御とフリーラジカル(ROS)の生成のバランスが崩れることと定義されている。正常な状態では、フリーラジカルの量と抗酸化物質の量は一致しているはず。
・スーパーオキシドラジカル,過酸化水素,ヒドロキシルラジカル,一重項酸素は,一般的に定義される活性酸素種(ROS)である。活性窒素種(RNS)は,一酸化窒素とスーパーオキシドから派生した分子群である。一酸化窒素 (NO)、硝酸塩(NO3-)、亜硝酸塩(NO2-)は、細胞内シグナル伝達、血管拡張、免疫反応に直接関与する。RNSは、活性酸素と一緒になって細胞に損傷を与える。アポトーシスやタンパク質のリン酸化のような複数の代謝プロセスは、細胞内での適切な活性酸素の生成を必要とし、それは低レベルに保たれなければならない。
・ATP (細胞の主なエネルギー)はミトコンドリアの内膜で生成される。望ましくないROS/RNSの量は、ミトコンドリア膜の漏出や、抗原と闘う免疫細胞に由来する。活性酸素とRNSは、エネルギー代謝、血液循環、胚の発生、生殖、および細胞と組織の両方におけるアポトーシスメカニズムを介したリモデリングなど、数多くの生物学的プロセスを制御している。
活性酸素が過剰に生成されると細胞内の重要なタンパク質、核酸、脂質に破壊的な影響を及ぼし始め、生体膜が過剰なラジカルによって攻撃され、これにより
脂質過酸化連鎖反応が誘発され、様々な細胞死を引き起こす。それがアポトーシス、オートファジー、フェロプトーシスである。
・最近の研究では,フェロプトーシスがさまざまな脳疾患と関連していることが明らかになっている。フェロプトーシスは脳内出血に関与しており、その影響で神経細胞が死滅する。フェロプトーシスによる神経細胞損傷の際、細胞内の脂質代謝物が放出される。これらの有害な代謝物は周囲の神経細胞を破壊し、脳内で炎症を起こす。その結果、AD、パーキンソン病(PD)、虚血性・出血性脳卒中などの神経疾患が現れることがる。
・すべてのストレス要因は、交感神経系とHPA軸の両方を活性化する。HPA軸の活性化は、コルチゾールをはじめとするカテコールアミンやコルチコイドの分泌を促す。その結果、炎症や酸化ストレスの発生につながる。このような状態を予防するためには、抗酸化物質の使用が検討される。
うつ病・ADの酸化ストレス
酸化ストレスは体の老化を促進する。さらに、心血管疾患、糖尿病、癌などの多くの病気の発症につながる。
酸化ストレスは、活性酸素やフリーラジカルの過剰生成によって引き起こされる。酸化ストレスの分子メカニズムは、DNA損傷、遺伝子変異、タンパク質の機能変化、アポトーシスの誘導などである。
いくつかの研究では、酸化ストレスがうつ病やADの原因にもなっていることが示されている。
・酸化ストレスと炎症プロセスと、うつ病の発症との関係が示されている。酸化ストレスの結果ATPレベルが低下し、解糖系が阻害される。また、強力な抗酸化物質であるグルタチオンの濃度も低下する。また、カルシウムポンプの不活性化により、細胞質内のカルシウム濃度が上昇する。
・活性酸素の主な生成源は、ミトコンドリア呼吸鎖。脳はエネルギー消費量が多いため、ミトコンドリアの活動に大きく依存している。大うつ病性障害(MDD)患者を対象とした研究では、うつ病の病態に活性酸素種が関与していることが確認されている。その機序は、HPA軸の機能亢進に関係していると思われる。ストレスによるコルチゾールの血中濃度の上昇は、グルコースの代謝を促進し、活性酸素の生成が促進される。酸素の毒性作用を媒介する活性酸素には、一重項酸素フリーラジカル、窒素フリーラジカル(一酸化窒素、二酸化窒素)、および また、過酸化水素、ペルオキシ亜硝酸、次亜塩素酸、サブチオシアネートなどの非ラジカル型の活性酸素も含まれる。
・うつ病患者では亜鉛、コエンザイムQ10、ビタミンE。グルタチオンなどの抗酸化物質が減少する。このことは、うつ病になるとフリーラジカルに対する防御機能が低下し、酸化ストレスや ニトロソ化ストレス(IOおよびNS)の発生につながると考えられる。IO & NS経路の活性化は、神経炎症や神経毒性を引き起こすことが明らかになっている。
・うつ病・ADの予防・治療薬としての抗酸化物質とは、フリーラジカルが細胞に与える破壊的な影響を軽減・防止することができる内因性および外因性の化合物と定義されている。抗酸化物質は、老化防止、抗癌、抗白内障、抗糖尿病、抗炎症、抗菌、肝臓保護、心血管系保護、神経保護などの効果がある。内因性抗酸化物質には、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、カタラーゼ(CAT)などの酵素が関与するものと、非酵素的な抗酸化物質として働くものがあり、代表的なものにメラトニン,グルタチオン,尿酸やリポ酸,ビリルビンなどがある。
カロテノイド、ビタミンE、C、A、天然フラボノイド、その他の化合物は、外因性抗酸化物質に含まれる。
新しいラジカルの生成を抑制(SOD、CAT、Se、Cu、Znの作用)
フリーラジカルを捕まえて連鎖反応を抑制(カロテノイド、ビタミンE、C)
フリーラジカルによる障害を除去(リパーゼ、プロテアーゼ)
抗酸化物質とうつ病
・活性酸素の増加は、プロオキシダント-アンチオキシダントのバランス(PAB)の乱れを引き起こす。したがって、うつ病の治療や予防に応用できる可能性のあるグループの一つが抗酸化物質であると考えられる。多くの研究や臨床試験を分析した結果、最も有望な抗酸化物質は、クルクミン、亜鉛、セレン、ビタミンE、サフランであることがわかった。
天然物質
・薬効のある抗酸化物質の多くは植物から得られ、その一つが はケルセチン。主に果物、野菜、お茶、ワインなどに含まれている。ケルセチンの効果を分析した研究では、記憶機能、不安や抑うつの軽減に効果があると報告された。
・Conyza canadensis(ヒメムカシヨモギ)の薬効は古くから知られている。ヒメムカシヨモギの抽出物をラットモデルに投与した研究では、抽出物にはカテキンやフラボノイドが豊富に含まれていることがわかり、抗うつ作用があることが判明した。
・Valeriana officinalis(セイヨウカノコソウ)、Centella asiatica(ツボクサ)、Acanthopanax senticosus(エゾウコギ)、Houttuynia cordata(ドクダミ)、Withania somnifera(アシュワガンダ)、 Campsis grandiflora(ノウゼンカズラ)、Psoralea corylifolia(オランダビユ)、 Corydalis yanhusuo(延胡索)から得られた抽出物には、抗うつ作用が認められた。
・これらの抽出物は、熱ストレスや浸透圧ストレスに対する抵抗力を高め線虫の寿命を延ばし、変異体の活性酸素レベルを有意に低下させた。さたに、植物からの抽出物は、ストレスに対する抵抗力を高めるという非常に有望な結果が得られた。
・Juglans regia(シナノグルミ)のクルミには、フラボノイド、プロアントシアニジン、フェノール酸、メラトニン、葉酸、ビタミンE、セレン、ジュグロンなどが多く含まれている。くるみには、高い抗炎症作用を持つ、植物性オメガ3脂肪酸やn-3系α-リノレン酸(ALA)などが含まれる。これらの物質はいずれも、脳組織の神経保護作用 脳組織を保護する効果がある。
メラトニン、フラボノイド、γ-トコフェロール、エラグ酸などのクルミの成分は過剰な活性酸素を中和し、血漿中の脂質過酸化が減少する。
うつ病と脳卒中のリスクは、クルミを食べている人の方が対照群(低脂肪食を使用している人)と比較して、うつ病と脳卒中のリスクが有意に低かった。
微量栄養素
・亜鉛(Zn)は、神経系に影響を与える最も重要な微量栄養素の一つ。一部の研究によって確認されているように、Znの定期的かつ適切な投与はうつ病による症状や障害を軽減する。Znの投与による患者の健康状態の改善は、抗うつ剤を使用しない場合にも観察され、うつ病リスクを最も高く(約28%)減少させることができた。またZnは、うつ病を緩和するという点で、最も効果的で穏やかな なアプローチであることが示唆され、Znの能力はその抗酸化特性に起因すると考えられる。適切な量のZnの摂取はC-reactive protein (CRP) レベルを低下させる。また、MDD治療において重要な意味を持つ脂質過酸化の悪影響から細胞を防ぐことができる。
・いくつかの最新の研究では、適切なレベルのセレンとうつ病との間に強い相関関係があることを示している。この微量元素の摂取量が多すぎても少なすぎても、酸化ストレスや炎症が発生し、神経領域の調節障害を引き起こした。セレンの不足は、IL-6、CRP、成長分化因子-5(GDF-5)などの炎症性サイトカインの異常産生と関連している。
・マグネシウム(Mg)は、主に神経系において多くの酵素やプロセスを適切に作用させるために最も重要な栄養素の一つである。マグネシウムの欠乏は、精神障害の危険因子の一つである可能性がある。一部の研究では、Mgのレベルが低下するとうつ病になる可能性があることを発見しており、これは動物とヒトの両方の研究で確認されている。これまでの研究では、マグネシウムの低下とうつ病における破壊的プロセスの原因となるCRP、Il-6、TNF-αなどの炎症性因子の上昇との間に相関関係があることが指摘されている。
抗酸化物質とAD
・ADは多因子性疾患であり、その原因は完全には解明されていないため、新しい治療法が求められている。専門医は通常、記憶力や集中力を高める薬を処方するが、ADの原因には影響を与えずにADの結果だけを軽減する。
近年いくつかの臨床試験や実験により、抗酸化物質がその多くの特性によってAD患者を救済する可能性があることが示されている。抗酸化作用を持つ無数の化合物の中で最も優れた結果を達成したのは、ビタミンE、コエンザイムQ10、メラトニン、ポリフェノール、クルクミン、セレン。これらの物質の主な作用機序は、細胞を外部からの有害物質から保護することにある。
天然物質
・植物の中にはアセチルコリンエステラーゼ(IAChE)を阻害する作用を持ち、ADの治療に使えるものがある。その一つがHedychium gardenarium(カヒリジンジャー)。カヒリジンジャーの葉から精油を分離し、認知障害の治療における補助剤としてアロマセラピーに使用することを試みた研究では、抗酸化物質とIAChEの両方として作用し、ADの治療に効果的であることが観察された。
・Rhinacanthus nastust(リナカンツスナスツス)のの根と葉からエタノールとヘキサンの両方を抽出し、神経細胞を死から守る能力を確認・比較した研究では、
低酸素モデルで実施されたすべての研究において、様々なフラボノイド、フェノール化合物、stigmasterolやβ-sitosterolのようなステロール、トリテルペノイド・ルペオールが含まれていることが証明された。これらの化合物は、HT-22細胞に対するAβおよびグルタミン酸の毒性を防止するなど、神経細胞に有利な影響を与えていた。主にHT-22細胞(マウス海馬培養細胞)に対するAβおよびグルタミン酸の毒性を防止した。エタノール抽出物が最強力な抗酸化作用を示すことが証明された。作用機序はまだ解明されていませんが、Rhinacanthus nastustのエタノール抽出物がフリーラジカルを消去する能力が最も高いため、認知障害の治療における神経保護剤として期待できることは間違いない。
・Gossypium herbaceam(レバントワタ)です。の抽出物をから抗酸化作用を持ついくつかのフラボノイドを同定した中国の研究では、ADのラットモデルを用いて、抽出物の抗酸化活性とIAChE活性の間には有益な関連性があることが観察された。
・ IAChEとしての活性が確認された植物種。AChEに対して最も強い活性(75%以上)を示したのは、
Salvia officinalis(セージ)、Teucrium arduini、Teucrium chamaedrys(ジャーマンダー)、Teucrium montanum(山岳ニガクサ)、Teucrium pom、Satureja montana(ウインターサボリー)、Mentha x piperita(ペパーミント)、Mentha longifolia(ナガバハッカ)、Thymus vulgaris(タチジャコウソウ)のエタノール抽出物であった。
ほぼすべての種(Teurcium種を除く)の活性因子はロスマリン酸であった。
・Centella asiatica(ツボクサ)はこれまでに、ネズミやヒトを対象とした数多くの研究により認知機能向上作用、神経保護作用]、抗酸化作用を有することが証明されている。五環式トリテルペノイドサポニンが多く含まれていることによる。
2019年の研究では、ツボクサ抽出物が性別に関係なく、ADマウスの記憶力を大幅に向上させたことが確認された。さらにこの抽出物は、マウスの大脳皮質と海馬において、Aβプラークに関連するSOD1(細胞内の酸化ストレスのマーカーの1つ)のレベルを低下させることが判明した。
これらの効果は、抽出物に含まれる抗酸化物質と認知機能向上成分(具体的にはトリテルペン類とカフェオイルキナ酸類)の複数の相互作用によるものと考えられる。
・興味深いことに、IAChEとしての活性を示す化合物が豊富に存在するのは植物界だけではない。Morchella esculenta(アミガサタケ)は、β-グルカンという多糖類を含むキノコである。
2021年の研究では、タンパク質化したアミガサタケの多糖類は、より優れた酵素阻害作用を示した。その阻害力はガランタミンほどではなかったが、蛋白質化多糖類の使用は、神経変性疾患に対する他の薬剤との多剤併用療法として有用であると結論づけた。
・Ferula assafoetida(アサフェティダ)には、抗酸化作用、抗糖尿病作用、降圧作用がある。ラットモデルでは 抽出物の高用量(400mg)が動物の記憶力を向上させることが証明された。
・ニゲラサティバの種子は、ペルシャ料理のスパイスとして有名。
油には、リノール酸、オレイン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、エイコサジエン酸などの酸が含まれている。
種子から得られる主なN. sativaのフェノール化合物は,p-cymene (37.3%), thymoquinone (TQ) (13.7%), carvacrol (11.77%), thymol (0.33%) である。ラットの脳におけるN. sativaの抗酸化作用は、AChE活性と酸化ストレスの減少に伴い、学習と記憶が改善される。N. sativaとTQは、ヒト血清中のIL-10、MDA、NOレベルを低下させ、ともに酸化ストレスを軽減する。
臨床試験では、500 mgのsativa摂取後プラセボ群と比較して、認知機能、記憶、注意力が改善された。またこの用量は、ヒトモデルにおいて気分の安定化と抗不安作用をもたらした。
色素
リコピンは、スイカ、トマト、パパイヤなどの植物から得られるカロテノイドの一種。リコピンを適切に補給することで、タウトランスジェニックマウスの認知機能を改善することができた。
さらに、リコピンを10週間投与することで、ラットの精神障害を弱めることが示された。その際、大脳皮質および海馬において、AChE活性の低下、CATおよびSODの酵素活性の上昇、同時にNOレベルの低下が見られた。
・アントシアニンは天然の抗酸化物質であり、フラボノイドの一種である。アントシアニンは、ブルーベリー、紫ブドウ、黒スグリ、赤ワインなどに含まれる。アントシアニンは、内部(間接)抗酸化物質と外部(直接)抗酸化物質に分けられる。アントシアニンは高いラジカル酸素吸収能(ORAC)を有しており、これが神経保護作用の一端を担っていると考えられる。in vitroモデルで、アントシアニンは細胞内の活性酸素の形成を直接的に消去した。 アントシアニンの抗酸化作用は、内因性の抗酸化酵素活性(SOD、GPx、CAT)の回復および増強の結果であると考えられる。
メラトニン
・年齢が高くなるほど、体内で作られるメラトニンの量は少なくなる。そのため、メラトニンのレベルが加齢に伴う退行性疾患の要因の一つである可能性が示唆されている。一方で、この化合物はビタミンEよりも2倍高い活性酸素除去能力を持つことが証明されている。2013年の研究では、メラトニンのアゴニストであるNeu-P11(不眠症の治療に使用されていた)が、ADモデルラットの記憶を改善することが証明された。ADの治療のための新しい化合物となる可能性がある。
他の臨床試験では、ラットにメラトニンを経口投与した結果、炎症性サイトカインの産生が抑制されることがわかった。メラトニンは、患者の脳における神経変性の原因であるAβのレベルを低下させ、毒性を低下させることが証明された。
コエンザイムQ10
・コエンザイムQ10(CoQ10)は、抗酸化作用を示す。この化合物は、複雑な死のプロセスから細胞を防ぎ、神経細胞の活動を回復させる神経保護物質として研究されている。これらの特性は、CoQ10を抗酸化剤として、神経疾患、特にADの治療や予防に利用できる可能性を示唆している。
カルノシン
・カルノシンは天然由来のジペプチド。脾臓や腎臓、脳に少量存在する。
ADの可能性のある患者では、血漿中のカルノシン濃度が健常者に比べて著しく低いことがわかっている。カルノシンの欠乏は、認知機能の低下と同義である。カルノシンは、神経伝達物質、免疫系の機能を強化する化合物、硝酸イオンの調節剤として作用する可能性がある。細胞の代謝を促進し、老化防止剤としても作用する。カルノシンとアンセリンを用いたヒト試験では、認知機能、記憶力、身体活動に著しい改善が見られた。
ビタミンE
・脂溶性ビタミンの中でも特に抗酸化作用の強いビタミンEは、細胞膜の完全性を維持する多機能な栄養素である。人間の組織、特に脳と神経系の適切な発達にも不可欠である。
多くの臨床試験により、体内のビタミンEのレベルが、神経系に関連した障害の発生や欠如に影響を与えることが明らかになってきた。
ビタミンEは、最も強力な抗酸化特性を示し、細胞内の過剰なフリーラジカルを除去し、脂質の過酸化を阻止する。
・最も重要な天然の抗酸化物質の一つであるビタミンCは、しばしばビタミンEのサポート役であると言われている。ビタミンCは水溶性の電子受容体であり、ビタミンEとのバランスの悪い食事の副産物であるオキシラジカル(不対電子)の膜への過剰な蓄積や脂質損傷を防ぐ。2002年、ビタミンCとビタミンEを同時に摂取することで、AD発生のリスクを低減できる可能性があることが証明された。
微量元素
・セレンは、抗酸化作用が証明されている微量元素の一つである。ADモデルラットにセレン酸ナトリウムを投与した結果、セレン酸ナトリウムが酸化的損傷と認知障害の両方を予防できることが示された。
ADマウスモデルにセレン酸ナトリウムを使用した別の試験では、セレン酸ナトリウムが神経障害を予防するプロテインホスファターゼ2Aを有意に活性化し、神経変性、神経機能障害を予防することが証明された。
これらの結果は、セレンがAD患者のサポート化合物として使用できる可能性を示唆している。
天然化合物
・多くの前臨床試験で、クルクミンがフルオキセチンやイミプラミンなどの抗うつ合成薬と同様効果を示すことが知られている。最も効果的な作用メカニズムは、抗酸化メカニズムに基づいている。クルクミンは神経系の適切な機能に関わる神経伝達物質の分解促進を防ぐことができる。
・サフランはカロテノイド(クロシン、クロセチン)、モノテルペンアルデヒド、フラボノイドを豊富に含んでいる。げっ歯類の研究では、サフランの摂取とうつ病の発症との間に有意な関係があることが示された。
サフランの以下の効果は、うつ病において重要である。
1)脂質過酸化マーカーのレベル低下に関連する抗酸化作用。
2)シクロオキシゲナーゼ-1(COX-1)、シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)の活性を阻害し、プロスタグランジンの産生を抑制することによる抗炎症作用。
3)視床下部-下垂体-副腎調節作用(ストレスに対するHPA軸の感受性を低下させることによる。
4)5-HT2C受容体に拮抗することによるセロトニン作用
5)神経保護作用-サフランの成分であるクロシンは、大脳皮質と海馬の神経細胞を酸化ストレスの影響から保護する。
サフランのカロテノイドは、うつ病の病因に関連するドーパミン系、セロトニン系、ノルアドレナリン系の活性化に関与している。
・パセリに含まれるポリフェノールは、アピゲニン、ケルセチン、ルテオリン、ケンフェロール。パセリには、抗酸化作用、鎮痛作用、免疫調整作用、鎮痙作用など、さまざまな有益な作用がある。さらに、マウス実験では、抗うつ作用や抗不安作用が確認されている。パセリは合成薬よりも副作用の少ない、優れた抗うつ剤となる可能性がある。
・カテキン誘導体は緑茶の葉に豊富に含まれており、主にエピガロカテキンガレート(ECGC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキン-3-ガレート(ECG)、エピカテキンがある。緑茶に含まれるカテキンやその他のポリフェノールには、鉄や銅のイオンをキレートして、フリーラジカルの生成を抑制する働きがある。
ミトコンドリアの保護作用もあります。
・緑茶に含まれるL-テアニンは、抗酸化作用に加えて認知機能に対するAβタンパク質の有害な影響から保護する。さらに、セロトニンとドーパミンの神経伝達に影響を与え、ストレスを軽減する可能性がある。ECGCとL-テアニンはともに、神経炎症を防ぐことが示されている。緑茶を定期的に摂取することで、神経新生が促進され、HPA軸の機能が正常化することで抗うつ効果が得られるという研究結果がある。
・ポリフェノールは、抗酸化作用と抗炎症作用で知られています。
多くの研究が、モクレン、緑茶、紅茶、パセリなどのポリフェノールを、ADやうつ病の予防や治療に利用できる可能性を示している 。
・サリドロサイド(SAD)は、Rhodiola rosea L(イワベンケイ)に含まれる生理活性化合物で、抗酸化機構を介してADやうつ病の治療に用いられている。このポリフェノール成分には、抗疲労作用、血糖降下作用、抗炎症作用、抗酸化作用、中枢抑制作用などがある。Rhodiola rosea L.のエタノール抽出物には,フェノール化合物が多く含まれており、特にSADはin vivoおよびin vitroで強い抗酸化作用を有する。SADは、活性酸素の生成を抑制し,内因性抗酸化酵素であるGPxおよびSODの活性を高める。
・レスベラトロールは,赤ブドウに多量に含まれるポリフェノールで、うつ病と密接に関連するマーカーのレベルを下げることが示されている。