ミネラルやビタミンなどの微量栄養素は、世界の約20億人が欠乏状態にある。
微量栄養素の欠乏は成長の遅れ、貧血、感染率の上昇、さらには死房率を上昇させる。
2017年には、微量栄養素の欠乏に起因する早死にが年間100万人に登ることが報告された。
重要な微量栄養素の1つであるビタミンB6欠乏症の有病率は、米国疾病対策予防センター(CDC)の報告書によると約11%。
ビタミンB6は異化および同化プロセスを制御する補酵素として重要な役割を果たしている。またB6の欠乏は、糖尿病、がん、心血管疾患などの慢性疾患のリスクを高めることがわかっている。
血清ビタミンB6濃度と死亡率との関連性に関するエビデンスはほとんどない。
多くの先行研究でビタミンB6の摂取量と全死亡および原因別死亡との関連が評価されているが、血清ビタミンB6濃度と全死亡および原因別死亡との関連についてはあまり注目されていない。
下のデータは、一般集団における血清ビタミンB6濃度と全死因、心血管疾患(CVD)および癌の死亡率との関連を評価することを目的とし、米国で2005年から2010年にかけてNHANESに参加した12,190人の成人を対象に国民健康・栄養調査(NHANES)のデータを用いて、ビタミンB6濃度と全死亡率および原因別死亡率との関連をを算出して推定したもの。
70.6%の被験者で血清ビタミンB6は十分であったが、12.8%の被験者はビタミンB6が欠乏していた。追跡調査期間中、計1244名の死亡が記録され、そのうち294名ががんによる死亡、235名がCVDによる死亡であった。
ビタミンB6が十分である場合と比較して、ビタミンB6が不足している場合(および不足している場合は、全死亡のリスクが高いことと有意に関連していた。
社会人口統計学的因子や生活習慣因子などの多変量解析を行った結果、ビタミンB6は全死亡率と逆相関することが明らかになった。一方、ピリドキサールリン酸(PLP)濃度が高いほど全死亡およびCVD死亡のリスクが低いことがわかった。死亡リスクを低減するためにはビタミンB6に対処し、PLPの濃度を高めることが不可欠であると結論。
Association of Serum Vitamin B6 with All-Cause and Cause-Specific Mortality in a Prospective Study
・ビタミンB6と全死亡率および原因別死亡率との関連を調べた疫学研究はいくつかある。上海の中高年を対象としたコホート分析の結果では、ビタミンB6の高い食事摂取量が、全死因およびCVD死亡率と逆相関することが示された。日本人を対象に行われた研究では、ビタミンB6の高い食事摂取量がCVD死亡率と逆相関した。
・米国の成人を対象とした前向きコホート研究を分析した結果、血清ビタミンB6の欠乏および不足は全死亡リスクの上昇と有意に関連していた。
また、血清ビタミンB6が不足している群と不足している群ではがん死亡率とCVD死亡率のリスクが高かったが、これらの関連性は統計的には有意ではなかった。また、PLPを連続変数とした場合、全死亡率およびCVD死亡率との間に有意な関連が認められた。
・血清ビタミンB6の欠乏の有病率は本研究では12.8%で、先行研究(11%)とほぼ同じ。これは、様々な肉類や野菜などの一般的な食品の多くがビタミンB6を豊富に含んでおり、十分なビタミンB6の状態を維持するのに貢献していることが一因であると考えられる。
・台湾の高齢者を対象にビタミンB群が全死因死亡率に及ぼす影響を調査した研究では、ビタミンB6が十分にある参加者は全死因死亡率のリスクが低いことを明らかにしており、我々の結果とほぼ一致している。さらに、前向きケースコホート研究でも、PLP値が高い腎細胞がん患者は全死亡リスクが有意に低いことが明らかになっており、我々の結果を支持している。
・以前の疫学研究では、血清ビタミンB6とCVD死亡率との間に有意な関連があり、ビタミンB6の欠乏とCVD死亡率との間に関連があることが示された。この研究でもビタミンB6がCVD死亡率と有意に関連することがわかった。
ビタミンB6は、心血管疾患の危険因子である血清ホモシステインの濃度を低下させる可能性がある。
・今回の研究ではビタミンB6が不足している場合、CVD死亡率のリスクが高くなることが示されたが、その関連性は有意ではなかった。これは本研究が腎移植患者を対象とした疫学研究であるためと考えられる。腎疾患患者ではPLPの血中濃度が低いことが一般的であると推定されている。PLP濃度の低下と腎疾患は、ともにCVDのリスクを高める可能性がある。
・別の研究では、ビタミンB6が不足している腎移植患者は健常者やビタミンB6が十分にある腎移植患者に比べて、機能的なビタミンB6の状態が悪いことがわかった。ビタミンB6濃度の欠乏とCVD死亡率との有意な関連は、本研究では一般人よりも腎疾患患者に多く見られた。
・癌死亡率に関しては、PLP濃度が腎細胞癌死亡率と有意に関連することを明らかにした研究がある。しかし、この研究ではPLP濃度とがん死亡率との間に有意な関連を認めなかった。この不一致は、我々の研究よりもPLP濃度が低く、ビタミンB6濃度が十分であったのは50%以下で、そのうち30%はビタミンB6が不足していたためと考えられる。しかし我々の研究では、70.6%の参加者が十分なビタミンB6を持っており、ビタミンB6が不足しているのは12.8%に過ぎなかった。
・ビタミンB6濃度はがんイベントと関連することが報告されている。ビタミンB6の欠乏は染色体の切断や遺伝子発現の変化など、遺伝子に影響を与える変化を引き起こす可能性があり、がん発生のリスクを高めると考えられる。