腸内細菌叢がますます面白い。
妊娠中の母親の腸内細菌叢の状態が、新生児のその後のアレルギー疾患に関連する可能性が出てきた。
幼児期以降のアレルギー性疾患を防ぐために、妊娠中はプロバイオティクスサプリを活用して、より良い腸内細菌層の育成に努めよう。
日本の研究。
ケモカイン(CCL17)はプロアレルギー因子で、臍帯血(CB)における高濃度のCCL17は後のアレルギー素因に先行する。
妊娠中に短鎖脂肪酸(SCFA)を投与すると、子マウスがアレルギー疾患から保護されることが示されていることから、妊娠中の母親の微生物のメタボロームは、胎児のアレルギー免疫応答に影響を与える可能性がある。
ご紹介する研究の研究者は、母体の腸内細菌叢が、子孫のCCL17レベルに影響を与えるという仮説を立て、妊娠中の母親の腸内細菌叢とSCFAが、子孫のアレルギー免疫反応に影響を与えるかどうかを調べた。
全微生物群はCB CCL17レベルと正の相関を示し、これらの代謝物は胎児の免疫反応を変化させる可能性がある。この研究は、妊娠中の母親の代謝物とアレルギーリスクとの間に初めて関連性を見出した。
研究結果は母体の微生物叢の構成は胎児の上皮性免疫反応に影響を与える可能性を示している。
子孫のアレルギー疾患のリスクを低減し、妊娠中に健康な腸内細菌叢を育成するために、母体の食事にプロバイオティクスおよびプレバイオティクスを含む食品を摂取することを推奨すると結論。
Association of the Maternal Gut Microbiota/Metabolome with Cord Blood CCL17
・近年の研究では、乳幼児のアレルギーは胎内で始まり、妊娠中の母親の環境要因に影響されることが明らかになっている。出生前に健康なマイクロバイオームを形成することは、喘息やアレルギー疾患のリスクを低減する上で特に重要であると考えられる。幼少期のバランスのとれた多様な微生物への曝露は、環境因子に対する防御的な抗微生物反応と制御的な免疫反応の両方の観点から、適切な免疫の発達に不可欠である。
・腸内細菌叢は食習慣や運動トレーニングなどによっても変化する可能性がある。メタボローム中の短鎖脂肪酸(SCFA)の産生を介して、妊娠中に存在する母親の常在微生物は、胎児の免疫系に影響を与える可能性がある。このことは、母親のアレルギーが子孫のアレルギー発症の実質的な危険因子であることの説明に役立つかもしれない。
・母体の腸内細菌叢が子孫のアレルギー疾患の感受性に及ぼす具体的な影響については、プロバイオティクスや栄養補助食品を用いた介入研究などで検討されているが、これまでに妊娠中の母親のマイクロバイオタ/メタボローム組成と子孫との関連を示したヒト研究のデータははない。
・臍帯血(CB)中のTh2細胞誘引性ケモカインリガンド17(CCL17)の高値は、アレルギー疾患発症に先行する。CCL17はTh2細胞を誘引し、Th2細胞の分化を促進するプロアレルギー因子。CCL17は主に皮膚関連のアレルギーに関与していることが知られており、乳児のアトピー性皮膚炎AD)の重症度と強い相関があることがわかっている。
・妊娠中、CCL17は胎児によって産生され、高レベル臍帯血CCL17は乳児期のADや小児期のアレルギー発症に先行する。高レベルのCB CCL17は妊娠中の母親の腸内細菌叢と関連している可能性があり、それが出生時の子孫の上皮組織に影響を与え、その後の乳児期のアレルギー症状につながると考えられる。
・今回の研究結果は、出産時の膣内微生物の母子垂直感染の役割に加えて、妊娠中の母体の腸内細菌叢とSCFAが子孫の胎児のアレルギー免疫反応に影響を与える可能性を示唆している。また、妊娠中の母体のSCFAはアレルギー疾患以外の出生後の疾患にも影響を与えることがわかってる。例えば、胎児の交感神経、腸管上皮、膵臓には母親の腸内細菌叢に由来するSCFAを感知する受容体が高発現していた。
・ラットの飼育者が妊娠前に飲料水を介してSCFAを投与し、離乳後に子孫にSCFAを投与するとラットの1型糖尿病は改善されたが、離乳期からSCFAを投与しても1型糖尿病の予防にはならなかった。この結果は、健康と疾病の発達的起源論の観点から、妊娠中の母親のSCFAが出生後の疾患感受性の制御に重要な役割を果たしていることを示唆している。
・最近の研究では、乳児期初期の腸内細菌叢の乱れがアトピー性疾患の発症に先行することが明らかになっている。帝王切開による出産は、新生児の腸内細菌叢に異常なスペクトルを誘発することが知られており、出産方法が乳児の免疫系の発達に影響を与えることが知られている。帝王切開で生まれた乳児の免疫系の発達に影響を与え、喘息やアレルギーなど子どもの深刻な健康問題の発生率が上昇する原因になっている可能性がある。
・CB CCL17レベルと母体の糞便中の酪酸濃度との間に逆相関が認められ、CB CCL17レベルと妊娠12週時の各イソ酪酸濃度、バラー酸濃度、ラート酸濃度との間に正相関が認められた。
CB CCL17レベルは、妊娠32週の時点でFirmicutesの多様性と逆相関し、Total microbiotaの多様性と正相関することがわかった。また、妊娠中の母親の糞便中の代謝物、特に酪酸は、Firmicutesの多様性が高いほどCB CCL17レベルが低くなることに関係していると考えられる。
FirmicutesにはClostridium属が含まれる。ヒトの糞便に含まれるClostridiaの17株(そのうち半数以上がClostridium属)が、酪酸を産生することが明らかになっている。Clostridium種による酪酸の産生は、母体および胎児のTreg細胞数を増加させ、母体のIgEおよびCB CCL17を調節する可能性がある。
・最近の研究では、ヒトの腸内細菌叢の優占種であるEubacterium hallii Anaerostipes caccae、Anaerostipes coli によって大量の乳酸が酪酸に変換されることが示唆されている。