先日のブログ続編
マウスを用いて、妊娠中の栄養制限や肥満を誘発する食事への曝露による栄養不良が、胎児の膵島細胞に及ぼす影響を調べた研究。
妊娠中の栄養不足や肥満になりやすい食事を母親が摂取すると、子供が成人してから2型糖尿病(T2D)や肥満のリスクが高まる。これは、妊娠中の栄養不良が膵島細胞の量と機能の脆弱性を引き出した結果でもあり、必ずしも子供が成人した後の肥満やインスリン抵抗性にのみに起因しているわけでは無いとしている。
Understanding the Long-Lasting Effects of Fetal Nutrient Restriction versus Exposure to an Obesogenic Diet on Islet-Cell Mass and Function
2型糖尿病(T2D)は完全に遺伝的に決定されると広く受け入れられてきたが、出生時の体重記録と男性の耐糖能との関係を調べたところ、出生時の体重が少ない男性は体重が多い男性に比べてT2Dを発症する可能性が6倍高いという関係が観察された。
・1992年、HalesとBarkerは、貧弱な栄養状態に直面すると、胎児は脳の成長を選択的に保護するため他の組織や器官を犠牲にすることで環境に適応し、内分泌系である膵臓の発育が阻害され、膵臓のβ細胞の量や機能に異常をきたし、インスリン分泌能力が低下し、成人してからもその状態が続くとする説を唱えた。
・高出生体重児の出産率を報告する研究が過去20年間で増加している。現代のコホートでは母親の肥満や妊娠性糖尿病の有病率が高いことから、低出生体重(2.5kg未満)または高出生体重(4.5kg以上)で生まれた赤ちゃんは、その後の人生でT2Dのリスクが最も高いことが示されている。
・多くの集団において、出産可能な年齢の女性の約半数が体重過多または肥満で、これらの女性は高出生体重児を産む可能性が2倍高いだけでなく、体重過多および肥満の母親を持つ成人の子供は、T2Dの発症率が1.4倍〜3.5倍高くなる。
IUGRが子孫の膵臓に与える影響を調べた研究。
マウスに対照群と比較してタンパク質含有量が約60%少ない食事を与えることで、IUGRが子孫の膵臓に与える影響を調べた。
母親のタンパク質制限モデルのすべてが、未知の理由により、子孫にIUGRの表現型をもたらすわけではない。
母親のカロリー過多の動物モデル
妊娠中や授乳中の母親のカロリー過剰摂取のマウスモデルでは、高脂肪または脂肪と糖分の両方を多く含む食事を摂取している(後者はヒトの肥満を引き起こす西洋食を反映している)。
子宮内で肥満になりやすい環境にさらされると、成人後の子孫に肥満や耐糖能異常などの代謝機能障害をもたらすことが、マウスを含め多くの異なる生物種を用いた数多くの研究から明らかになっている。
膵島に対する栄養制限とカロリー過多の影響
母体の栄養制限(低タンパク食)や肥満になりやすい環境に置かれているかどうかにかかわらず、発育期の栄養状態が悪いと、げっ歯類では出生時のβ細胞量が減少する。母親の低タンパク食にさらされた子供のβ細胞量の減少は、胎児期にβ細胞の増殖とアポトーシスが減少し、成長因子のレベルが低下したためである。β細胞量は、肥満の母親から生まれた痩せた代謝のよい健康な成人男女の子孫では変化しないが 、男女ともに年齢と体脂肪率の増加とともに増加する。
・非ヒト霊長類モデルでは、妊娠中および授乳期に母親に洋食を与えた子孫と対照食を与えた子孫の間でβ細胞量は同等であった。非ヒト霊長類の子孫がβ細胞量に影響を受けない理由の1つは、母親のメタボリックシンドロームが原因ではないかと推測されている。ニホンザルでは、げっ歯類に比べて母親の代謝障害が少ないことが理由の一つではないかと考えられる。
・子宮内で栄養制限された子供の膵島機能障害とT2Dリスクを引き起こすエピジェネティックなメカニズムの解明にはある程度の進展が見られたが、この分野にはまだ成長の余地がある。