世界的に蜜蜂が減少しているそうだ。
農作物や花の受粉の媒介者がいなくなり、食物連鎖が少しずつ崩壊することで、我々の世界は少しずつ機能不全を起こし、停止に向かっていく。
これは蜜蜂だけでなく、他の昆虫にも言えることだろう。
食物連鎖から昆虫が消えることは、他の動物にとって壊滅的な打撃となって、最終的に人類の食糧供給も脅かすことは間違いない。
また、ローヤルゼリーやハニーなど、蜜蜂が人間の健康にもたらす利益を知るたびに、彼らの存在を死守しなくてはならいという確信は深まる。
今回ご紹介するのは、ローヤルゼリー(RJ)の活性分子と有効性のメカニズムを解明し、ドライアイの治療に有効なRJ成分を初めて同定した日本の研究者の論文。
”ドライアイにおけるRJの治療効果には、AChと末端に水酸基を持つ3つの飽和脂肪酸、すなわち10HDAA、8HOA、3,10DDAの組み合わせが重要であることが示唆された。これら3つの脂肪酸を用いたAch量の回復は、AChE活性の阻害によって機能している可能性がある”
Acetylcholine and Royal Jelly Fatty Acid Combinations as Potential Dry Eye Treatment Components in Mice
・ローヤルゼリー(RJ)は、ミツバチ(Apis mellifera L.)の頭皮腺から分泌される黄白色のクリーム状の物質で、若い幼虫や女王蜂の栄養として利用されている。RJは女王蜂のエピジェネティックな発達を誘導することが知られており、女王蜂にとっては大型化(働き蜂の2倍)、繁殖力、長寿(働き蜂が35〜40日の寿命であるのに対し、約5〜6年)を可能にするなど、多くの利点に関与していると考えられている。
・RJにおいては降圧作用、悪寒、頸部の緊張、女性の更年期症状の緩和、2型糖尿病患者の血糖値の低下、加齢に伴う筋力低下の予防、皮膚の保湿維持など多くの薬理作用が臨床試験で報告されている。
・RJの構成は水分(60-70%)、タンパク質(9-18%)、糖分(7.5%)、脂質(3-8%)、その他の微量成分である。
・RJの主要な脂肪酸は(E)-10-ヒドロキシ-2-デセン酸(10H2DA)と10-ヒドロキシデカン酸(10HDAA)で、RJ脂質の60-80%を占めている。これらの脂肪酸は,HEK293細胞で発現するTRPA1チャネルを活性化すること、MCF-7細胞でエストロゲン受容体βのプロモーターへのリクルートを誘導すること、in vivoでAMPKシグナルを活性化して骨格筋でGLUT4を発現させること、ヒトの三次元表皮モデルでフィラグリンの産生を促進する。
・RJ脂肪酸の組成はC8、C10、C12脂肪酸の集合体。マイナー脂肪酸には、抗がん作用、抗菌作用、抗炎症作用などの薬理作用が報告されている。したがって、臨床試験で報告されているRJの薬理活性にはRJ脂肪酸が重要な役割を果たしていると考えられる。
ドライアイは,不安定な涙液膜を特徴とする多因子疾患で、視覚障害や眼表面の損傷にまで至ることがある。エアコンやデジタル機器の使用によりドライアイの発生率は増加しており、その有病率は5〜50%と報告されている。
・本研究グループは、ドライアイ症状を持つ患者にRJを8週間経口補充することで、シルマースコアで評価した涙の分泌量を改善できることを明らかにした。
・涙の分泌に関与する主要なコリン性神経伝達物質であるアセチルコリン(ACh)がRJに1mg/g含まれていることが示されていることから、AChは涙の分泌を回復させるRJの成分として期待されている。本研究では、ドライアイ治療に有効なRJ成分を検討するため、RJの構成脂肪酸とAChに着目し、ネズミのドライアイモデルを用いてRJ成分の涙の分泌能への影響を評価した。
・C8-10鎖からなる3つのRJ脂肪酸、10HDAA/8HOA/3,10DDAとAChの組み合わせがドライアイの治療に応用できる可能性のあるRJ成分であることが明らかになった。
・AChは交感神経と副交感神経の両方の自律神経節の前神経細胞で合成される重要な神経伝達物質で、神経の興奮状態に応じてコリン作動性シナプス部位で放出される。経口投与されたAChは、脳のコリン作動性シナプスや血管や腸の平滑筋、膵臓、LGなどの自律神経系臓器に発現しているACh受容体に到達する前に吸収や血中輸送の過程でほとんどが変性してしまうと考えられる。しかしRJを経口投与すると,アルツハイマー病の改善、一酸化窒素の産生による血管拡張、インスリン分泌の誘導など、ACh様の作用を示すことが報告されている。
・RJ中のAChはRJの脂肪酸の効果によりAChEによるAChの分解を防ぎ、AChを標的部位に効率的に輸送することでRJを経口投与してもその活性を維持していると考えられる。
・デカン酸(カプリン酸)は、回腸や空腸でmAChRアゴニストと相互作用することが報告されている。したがって、カプリン酸と同様の飽和中鎖脂肪酸である10HDAA、8HOA、3,10DDAはmAChRと相互作用する可能性があると考えられる。
・ストレス誘発型ドライアイモデルマウスを用いて、3つの脂肪酸(10-hydroxydecanoic acid, 8-hydroxyoctanoic acid, (R)-3,10-dihydroxydecanoic acid)とアセチルコリンが涙の分泌に必須であることを確認した。
・ex vivoのCa2+イメージングにおいて、これら3つの脂肪酸はアセチルコリンエステラーゼで処理した場合、アセチルコリンによる涙腺のCa2+の細胞内変調の減少を抑制したことから、RJ脂肪酸の特定の種類がアセチルコリンの安定性に寄与していることが示された。
・マウスの摂取方法
「ETRJ、ACh、3種の脂肪酸(10HDAA,8HOA,3,10DDA)の混合物およびAChと3種の脂肪酸の混合物の組み合わせを300mg/kgを蒸留水に溶解し,20ゲージの注射針を用いて経口投与した。」