バスケやバレーなど、前十字靭帯を断裂しやすい競技のアスリートは、大腿四頭筋の機能強化にフォーカスした(あえて偏った)トレーニングを行うプログラムを採用すべきかもしれない。
大腿四頭筋とハムストリングスの筋疲労と前十字靭帯への負荷の関係を調べた研究。
”ハムストリングス(HA)疲労後の前十字靭帯(ACL)負荷は統計的に有意な差を示さなかったが、大腿四頭筋(QF)疲労後にはACL負荷の有意な減少が見られた。QFの疲労後の神経筋系能力の低下は、QFが膝関節の伸展・内転モーメントを減少させることでACL荷重を増加させ、ACL損傷を引き起こす主要筋群であるという今までの知見を再確認するものである。HAの疲労後に膝の外反角と前脛骨剪断力の減少が見られたとしても、HAにはACL損傷のリスクを軽減する予防メカニズムはないのではないかと間接的に推察される。”
との結論。
Effect of Muscle-Specific Fatigue on the Risk of Anterior Cruciate Ligament Injury in Females
・筋疲労は体性感覚、固有感覚、筋力に悪影響を及ぼし、下肢の瞬間的なポジションと方向転換によってACLが発揮する回旋力を増大させるため、ACL損傷の有病率が高くなる。
・女性は男性に比べて股関節の内転と内旋が大きく、膝関節の屈曲が小さいことから、予想外のモーションに加えて疲労の影響を受けると神経筋の制御が不十分になり、膝外反が増加してACL損傷のリスクが高まる可能性がある。
・大腿四頭筋(QF)とハムストリングス(HA)はACLの荷重調節に影響を与える大腿部の2大筋群で、疲労するとACL損傷のリスクが高まり、QFとHAの共収縮にはACLの保護効果があるというのが一般的な解釈だが、ACL負荷の増加を抑制するためのHAの役割については反論もある。
・DeMoratらによるとACL荷重は膝の角度によって変化し、膝を完全に伸ばした0°からスタートして30°で最も高い荷重が観測されたという。また、膝関節のバルグスや内旋が大きくなるとACL荷重が大きくなることが報告されている。
・HA疲労後に最大屈曲膝角度と膝のバルグス角度に有意な減少が見られた。
・HAは膝関節よりも股関節でより大きな機械的優位性を持つため、HAの疲労は股関節と膝関節の屈曲角度を減少させることになる。これにより、HAの筋群に必要な筋力の活性化が抑えられることになる。さらに、膝におけるHAのモーメントアームが小さくなると、トルクが減少し、HA筋群は膝関節でACL損傷を防ぐのに十分なACLせん断力を発生させることができなくなる。
・QFの収縮とACL荷重の関係についての多くの研究では、膝関節伸展位でQFを強く収縮させるとACL荷重と前脛骨剪断力が増加することが報告されている。
一方、HAを共収縮させると前脛骨剪断力が相殺されてACL荷重の増加が抑制されることが報告されている。しかし、本研究の結果では、3つの条件(HA後、QF後、コントロール)すべてにおいて、最大膝関節せん断力に統計的な有意差は見られなかった。
・本研究では、QF疲労後に膝関節の最大伸展・内転モーメントの低下が見られた。一方でHA疲労後には、膝関節のモーメントに有意な差は見られなかった。
・ハムストリングスの活性化は、膝の屈曲角度を大きくして着地する際に、ACLの損傷を保護することが知られているが、膝伸展を繰り返した後にハムストリングが疲労してアンタゴニストとして作用すると、結果的に関節モーメントが低下することが報告されている。
・急激な方向転換を伴う動作を行う際に、膝の屈伸による大腿四頭筋のエキセントリック収縮を抑える戦略を含むトレーニング方法を開発することを提案する。
・研究チームが知る限り、ダイナミックな動作におけるQFおよびHA筋群の特異的筋疲労の影響とACL損傷との関連性を分析した先行研究はないにもかかわらず、QF疲労後の歩行は膝外旋角と外転モーメントを増加させることが通説となっている。
・スクワットジャンプ時の下肢筋への疲労の影響について行われた別の研究では、膝関節の外旋・内旋角と内転モーメントの増加が報告されており、これはACL損傷のリスクを高める可能性があるとされている。