口腔癌は東南アジアでの罹患率が高い悪性新生物で、主な病因はタバコとアルコール。
現在では食生活も発症の重要な決定要因と考えられている。
罹患率は男性の方が女性よりも高いが、近年は女性がタバコやアルコールなどの危険因子に触れる機会の増加で、女性の罹患率が増加する傾向にある。
口腔がんの5年生存率は、診断法と治療法の進歩にもかかわらず低い水準にある。
口腔がんの危険因子はタバコ(咀嚼/喫煙)、アルコール、檳榔子、遺伝的要因、社会経済的地位、口腔衛生状態の悪さ、ヒトパピローマウイルス(HPV)、食事などが挙げられる。
食事と口腔がんの関連性の研究。
Association between Oral Cancer and Diet
・食品が体内の細胞に及ぼす影響は、エピジェネティックなメカニズムによって遺伝物質が変化することによってもたらされる。それと同じメカニズムががん細胞に作用して、がん細胞を変化させたり修正したりすることで、がんの予防と治療の両方に効果があると考えられる。
*「エピジェネティクス」は、DNA配列自体に依存しない遺伝子発現や染色体のリモデリングの変化を意味する。エピジェネティックな変化は遺伝物質の転写に異常をもたらし、がん遺伝子やがん抑制遺伝子に関連する因子の発現や活性化に変化が生じる。
・野菜や果物を多く摂ることで得られる効果は、ポリフェノール、リコピン、カテキン、フラビン、クルクミノイド、消化の遅いデンプン、ミネラル(セレン、亜鉛、銅)、カロテン、ビタミン(A、B、C、E)、葉酸、オメガ3酸など、さまざまな微量栄養素に起因している。それらの栄養素の一部は魚や動物性食品にも含まれている。
・これらの栄養素はそれぞれ異なる作用機序を示し、組み合わせることで相乗的な抗酸化作用、抗炎症作用、抗血管新生作用、抗増殖作用を発揮する。
・野菜、果物、お茶、ニンニク、穀類などの食事要素に含まれ含まれる成分は、口腔がんを含むさまざまなタイプのがんを予防する可能性があ理、細胞のDNA制御メカニズムが示唆されている 。
・鉄の大量摂取は口腔扁平上皮がん(OSCC)と関連しており、肺がん、前立腺がん、乳がんなどの他の腫瘍でも同様に示されている。鉄は細胞の代謝、成長、増殖などの基本的な細胞機能に関与し、窒素化合物の生成や細胞にダメージを与えるフリーラジカルの形成を触媒する可能性があるためと考えられている。
・赤身肉には鉄分のほかに、硝酸塩や亜硝酸塩など、口腔がんの発生に寄与する成分が含まれている。さらに調理によって、複素環式アミンや多環式炭化水素の生成など他の発がんメカニズムが発生します。
・硝酸塩の潜在的な発がん性は、硝酸塩がメトヘモグロビンを生成する亜硝酸塩に変換されることに起因する。食品を冷蔵庫で保存すると硝酸還元酵素は不活性化される。硝酸塩はアブラナ科の野菜にも含まれている。その濃度は低いが、アブラナ科の野菜は頻繁かつ大量に消費されるため、日々の食生活において重大な原因となる可能性がある。
・オメガ6も口腔癌との関連が指摘されている。オメガ6酸の代謝によってアラキドン酸が生成され、そのアラキドン酸が酸化されることで炎症性のプロスタグランジンやリポキシンを生成することにある。オメガ6とオメガ3のバランスは発がん性因子の作用を調節し、口腔がんのリスクを低下させることができる。
・揚げ物は、胃がん、直腸がん、結腸がんと直接関連している。
・炎症性食品と喉頭がんとの関係は、太りすぎの人でより強いことがわかった。
・清涼飲料水やデザートなど血糖値の高い食品は、血糖値を急激に上昇させ、腫瘍の増殖に関係するホルモンであるインスリンの血漿レベルを上昇させるが、これらの食品と口腔がんを結びつける具体的なデータはない。
・自然食品をベースにした食事が、がんに対する予防哲学的アプローチであることが示唆されている。1997年、国際世界癌研究基金と米国癌研究所は野菜と果物の摂取量が多いと口腔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、結腸癌、直腸癌にかかるリスクが低くなることを示す科学的証拠を示すコンセンサスレポートを発表した。
自然食品の摂取量が多いほど、前述のがんの発症リスクが低くなるという、用量依存関係も言及されている。
・保護効果のメカニズム→抗酸化物質が活性酸素種を減少させる。野菜に含まれるいくつかの化合物は、活性酸素を除去し、DNAを修復するグリセートやインドール-3カーボノール(第2相酵素を誘導する)など、抗腫瘍作用がある。
ビタミンは合成やDNAのメチル化を伴う免疫系の強化など、抗酸化作用や抗増殖作用を有する。
・柑橘類に含まれるビタミンCの摂取は、原発性がんの発症リスクを低下させるが、二次性がんとの関連では明確な証拠は報告されていない。推奨される摂取量は確立されていないが、リスクの低減は明らかなようだ。ビタミンCはビタミンE(細胞膜のフリーラジカルの除去を担当)との相乗効果がある。
・ビタミンCはニトロソアミンの生成や染色体の損傷につながるDNAと特定の発がん物質との結合を防ぎ、さまざまなメカニズムでがん発症のリスクを低下させる。
・ブラジルではバナナの摂取が頭頸部がんの診断リスクを77%減少させることが観察された。バナナにはビタミン、フェノール酸、カロテノイド、および抗酸化作用のある生体アミンが含まれている 。
・ブラックベリーやレッドベリーなどの赤い果実は、ブドウとともに、レスベラトロールなどのポリフェノールを大量に含んでいる。この化合物には、抗炎症作用、抗酸化作用、抗がん作用がある。レスベラトロールは細胞の成長、細胞分裂、細胞移動、細胞接着、細胞侵入、さらにアポトーシスと血管新生を制御する。
・野菜には、抗がん作用のある微量栄養素(β-カロテン、α-カロテン、リコピン、ビタミンA、C、E)が多く含まれている。β-カロテンは抗酸化物質で、DNAを損傷から保護する。レチノールへの変換は、この分子が細胞の接着や分化、膜の透過性に関与するため、癌に対する保護的な役割を含む重要な役割を果たしている。
・リコピンはスイカやグレープフルーツなどの果物にも含まれており、完熟トマトもリコピンの主な供給源となる。リコピンには優れた抗酸化作用があり,変性疾患,骨疾患,心血管疾患などの慢性疾患の予防と治療のために研究されている。そのため、口腔内の潜在的な悪性疾患の治療に有益であり、脂質過酸化と還元型グルタチオン(GSH)の調節による口腔がんに対する保護因子としても期待されている。
・ニンニク(❤︎)は抗酸化作用、抗がん作用、抗炎症作用、抗菌作用などの治療効果があることで知られている。ニンニクの抗ガン特性を調べた研究では、ある種の植物化学物質が発ガン物質を解毒することで酵素システムの活性を高めるという仮説を立てられた。
ビタミンB9として知られる葉酸はDNAのメチル化に不可欠な要素であり、乳がん、卵巣がん、子宮頸がん、肺がん、大腸がんなど、さまざまな腫瘍との関連が指摘されている。アルコールとタバコの摂取は、葉酸レベルをダウンレギュレートすることが報告されている。
・葉酸はDNA合成、メチル化、および細胞周期の修復メカニズムに不可欠であり、上皮が継続的に増殖・再生していることから、口腔がんの発生リスクを調節している。ある研究では、葉酸濃度の高さと中咽頭がんの発生との間に反比例の関係があることが報告されているが、この反比例の関係は口腔がんでより強いようだ 。
・アルコールは葉酸の輸送と代謝を妨げ、口腔上皮扁平上皮細胞のDNAの合成、修復、およびメチル化に影響を与えるため、がんのリスクを増大させる。
・セレンはクルミ、鶏肉、牛肉、狩猟肉に含まれるミネラルである。セレンは、抗酸化作用とDNA修復作用に加えて、アポトーシス促進作用があり、DNMTのメチル化やヒストン・デアセチラーゼ(HDAC)に作用する。口腔がんにおいては、高レベルの血清セレンは果物および魚の多量摂取、ならびにタバコおよびアルコール消費の低減と相まって、保護因子として作用する。
・亜鉛は主に動物性タンパク質(牛肉、豚肉、羊肉)やナッツ類、穀類、豆類、酵母などの食品に含まれている。亜鉛は免疫反応、DNA合成、および遺伝子転写の制御に不可欠である。
・デンプンの種類は急速に消化されるデンプン(RDS)、ゆっくりと消化されるデンプン(SDS)、レジスタントスターチに分類されている。RDSは加工されたデンプンで、その摂取は口腔がんの発症リスクと関連している。特定のでんぷん質の食品、特にRDSに含まれる精製シリアルの摂取は、口腔がんのリスク増加と関連している。食物繊維、全粒粉、およびシリアルを摂取することで、頭頸部がんのリスクを低減できる可能性が示唆されている 。
・ウコンには抗酸化作用を持つククルミン(クルクミノイドの2.86%)、デメトキシクルクミン(1.47%)、ビスデメトキシクルクミン(1.36%)の3種類のクルクミノイドが含まれている。クルクミンは、標的臓器の酵素活性を調節し、メタロプロテアーゼ(MMP-2、MMP-9)を減少させることで、がんの浸潤を抑制することが報告されている。
・クルクミンを3ヶ月間(100mg/kg)投与したところ、4-ニトロキノリン1-オキシドまたは4NQO(がん研究で実験動物に腫瘍を発生させるために使用される)によって誘発される様々な発がん物質の存在が減少したと報告されている。
HPV-16の存在、扁平上皮癌の予防、異形成病変に関連する他のプロセスの減少とともに、細胞の異型性とEMTに関連する遺伝子の発現をダウンレギュレートした。
・緑茶を摂取した1時間後には、唾液中に高濃度のカテキンとフラビンが検出され、口腔内でのこれらの化合物の徐放性を高める。その結果、虫歯や歯周病の予防に効果があるとされている。緑茶は、口腔がんの腫瘍細胞のアポトーシスを誘導し、エピガロカテキン-3-ガレート(EGCG)は、腫瘍細胞の成長と浸潤を抑制する。
・EGCGは、抗酸化作用、抗炎症作用、血管新生作用、抗増殖作用、プロアポトーシス作用、抗転移作用を有する。これらの特性は、様々なタイプの腫瘍の発生、促進、進行に対する効果を説明するものと思われる。
In vitroの研究では緑茶が天然のDNMT阻害剤として報告されており、DNAの過メチル化をブロックしている。
・一部の研究では、差別化要因となりうる個人の口腔内細菌叢の役割が調査されている。カテキンは細菌に影響を与え、口腔内の微生物叢に変化をもたらす(Clostridiumは抑制され、BifidobacteriumとLactobacillusが増加)。
人によっては、口腔内マイクロフローラの細菌がポリフェノールを機能性代謝物に代謝することもある。口腔内細菌叢は栄養素やビタミンの濃度を調整する因子と考えられており、発がん性代謝物の形成の調節に寄与している可能性がある。
・1997年から2009年にかけてイタリアとスイスで実施された症例対照研究のデータ分析では、口腔がんのリスクと地中海食のアドヒアランスとの間に強い逆相関があることが判明した。
地中海食の利点として細胞の酸化・炎症プロセスの低減、DNA損傷、細胞増殖、転移の回避、それによるがんの発生率の低下が挙げられる。