妊娠中のマウスに葉酸を投与すると、マウスの産後の気分障害および認知機能障害が緩和されたことが報告された。
Gestational Folic Acid Administration Alleviated Maternal Postpartum Emotional and Cognitive Dysfunction in Mice
・妊娠・出産は、劇的なホルモン変動が起こるため、そのことが産後の女性に広く見られる認知機能障害や気分障害など精神症状の要因となっている。産後の精神症状には、産後認知機能障害(PCD)、産後うつ病(PPD)、産後不安(PPA)などがある。
・妊娠中の女性は認知能力が著しく低下する。同時に女性はうつ病を発症する可能性が2倍高く、さらに不安障害が併存し、ほとんどのエピソードが産後に始まる。発症時は複数の症状が同時に見られることが多い。しかし、産後女性のこれらの症状は見過ごされることが多く、診断率の低下、さらには治療率の低下につながっている。
・海馬は感情や認知行動の処理において中心的な役割を果たしている。産後の情緒障害や認知機能障害の病態には海馬に関連するメカニズムが関与していることを示す研究が増えてきている。
・母性の発達にはホルモンだけでなく、様々な栄養素の代謝適応が関与している。ビタミンB群である葉酸(FA)は、妊娠中の胎児の発育調節に関与しており、妊娠中はさらに高用量が必要とされている。神経管欠損症やその他の葉酸感受性の高い先天性奇形の予防に関するコンセンサスが国際的に示唆されている。さらに既存の臨床研究では、妊娠中のFA補給が産後の精神症状のリスク低下と相関することが示されている。実際に、FAは複数の実験的および臨床的な精神症状モデルにおいて良好な治療効果を示している。
・マウスモデルを用いて、妊娠中のFA投与が産後の精神疾患の行動様式に及ぼす影響と、それに関連する脳関連のメカニズムを検証した。
ホルモン刺激妊娠(HSP)モデルと妊娠マウスの両方に、FAを1および5mg/kgの用量で経口投与した。出産後の行動観察の結果、5mg/kgのFA投与群では、認知能力、抑うつ、不安に関連する行動の障害がすべて緩和された。しかし、子孫の一般的な発達には影響がなかった。免疫蛍光法と免疫ブロット法の結果から、FAの前処理が母体の海馬のBDNF関連経路を有意に活性化することが明らかになった。さらに、FAが海馬の神経新生を促進することが確認され、シナプス可塑性とシナプス伝達が促進される。これらの海馬の変化はすべて、神経細胞の機能と行動の回復に重要な役割を果たしている。
・妊娠中のFA投与が、マウスの産後モデルにおいて、認知機能を改善し、うつ病や不安を軽減する治療効果を持つことを示唆している。出産後の女性に精神疾患が発生することはよく知られていが、胎内残留物や母乳残留物による子孫への影響を考慮すると、妊娠中にに精神症状を治療する方法は限られてしまう。
・妊娠中の葉酸の摂取は女性のための予防的、補助的な治療法として開発される可能性を示唆している。