近年、「低炭水化物食(LCD)は糖尿病改善の根本的な解決策にはならない」とする栄養学界の議論がある。
炭水化物が悪いのではなく炭水化物を利用できない身体のシステムに問題があるのであり、そのシステムの問題は脂質の過剰摂取による体内の炎症から来るものだという考察だ。
確かに糖尿病発症までの機序を考えると納得のいく考察だ。
では、どの程度の重症度の糖尿病なのか、他の疾患との併発は?と、ピントを細かく絞っていくとはっきりしていないことも多い。
健常な人が糖尿病を予防する上での炭水化物摂取と、発症後の患者さんの炭水化物摂取の話はまた別の可能性もあるので注意が必要だ。
こんなデータがある。
アーモンド(約50g)を使用した低炭水化物食(a-LCD)と低脂肪食(LFD)を比較した無作為化対照試験。
2型糖尿病患者45名に食事介入を3カ月間行った。
そのうちa-LCD群22名、LFD群23名。
うつ病の指標と、HbA1c、腸内細菌叢、GLP-1濃度などの生化学的指標を、ベースライン時と3カ月目に評価、比較した。
その結果a-LCDは、うつ病とHbA1cを有意に改善した。
加えて、a-LCDは短鎖脂肪酸(SCFAs)産生菌であるRoseburia、Ruminococcus、Eubacteriumを有意に増加させた。
a-LCD群のGLP-1濃度は、LFD群よりも高かった。
結論
a-LCDは、2型糖尿病患者のうつ病と糖代謝に有益な効果を発揮した。2型糖尿病患者のうつ病が改善されたのは、a-LCDがSCFAs産生菌の増殖を促し、SCFAs産生量とGPR43活性化を増加させ、さらにGLP-1分泌を維持したためではないかと推測される。
一般にアーモンドには、高血糖やうつ病の症状を効果的に改善する効果があることが示されている。
・抗糖尿病薬の用量をコントロールした後も、a-LCD群のHbA1cはLFD群よりも有意に低く、LCDの血糖降下効果がLFD群よりも優れていることが示された。
・ナッツ類は高エネルギー、高脂質である。脂肪が多く含まれていると胃の空洞化速度が低下して満腹感が増す可能性がある。a-LCDの体重とBMIの改善効果裏付けと考えられる。
・2型糖尿病患者において、a-LCDがLFDに比べてうつ病スコアを有意に低下させることがわかったが、他の研究と一致しない。その理由は、LCD用の食品の組成の違いによるものと考えられる。その違いは、炭水化物の代わりにアーモンドを使用したことである。アーモンドには食物繊維、ポリフェノール、不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、うつ病の発症を予防する可能性がある。
・他のナッツ類では、Pribisらが若年成人におけるクルミの摂取が気分に及ぼす影響を調査し、男性において気分障害総合スコアの中程度の効果サイズの有意な改善(-27.5%、p = 0.043)が観察された。
・a-LCDを3ヶ月間使用した結果、病原性細菌であるBacteroidesの個体数が減少した。これは、a-LCDが腸内細菌を調節する可能性を示しており、a-LCDにおけるうつ病スコアの改善は、微生物-腸-脳の調節によるものであると考えらる。
・アーモンドには食物繊維、不飽和脂肪酸、ポリフェノールが豊富に含まれており、これらの栄養素は腸内マイクロバイオームを好意的に変化させることができる。
・2型糖尿病患者は一般人口と比較して、うつ病に罹患する可能性が約3倍高いことが示されている。しかし、臨床現場で一般的に使用されている三環系抗うつ薬は、インスリン分泌速度を低下させることにより、グルコースホメオスタシスコントロールに悪影響を及ぼす。
糖尿病の症状が進行した状態でうつ病も併発している状態では、「糖代謝のために運動しましょう」「糖質を取りましょう」は難しい話だ。
糖尿と鬱に関するスコアが落ち着くまではa-LCDを試すのも選択肢だろう。