今回のメモも乳がんがテーマです。
過去にも何度かまとめた乳がんと肥満の関連性についてですが、今回はpCRへの影響という非常に重要なテーマを扱った研究をまとめてみたいと思います。
肥満は世界的な公衆衛生問題であり、肥満の世界的な有病率は年々上昇傾向にある。
多くの研究で、過体重と子宮内膜がん、卵巣がん、乳がん(BC)有病率との間に相関が確認されており、BMIが高いとがん発生と転帰の両方に有害な影響を及ぼすことが明らかにされている。
特に閉経後女性では、肥満は乳癌発症の危険因子であり、乳癌の予後不良と独立して関連し、乳癌の進行期とも相関している。
化学療法は早期(I-III期)の高リスクBCの再発予防において重要で、特にネオアジュバント化学療法(NACT)は乳房および所属リンパ節の病変範囲をダウンステージ化し、乳房切除術に代わる乳房温存術などより少ない範囲の手術を可能にすることで美容的転帰を向上させ、リンパ浮腫などの術後合併症を減少させる可能性がある。
NACT後の病理学的完全奏効(pCR)の達成は長期予後の重要な予測因子で、11,955人を対象としたメタ解析では、pCRを達成した患者の生存に対する長期的有益性が示されている。
あるメタ解析では肥満がpCR率の低下と関連することが示されているが、いまだに肥満が乳癌転帰に与える影響ははっきりと解明されいない。
リンクの研究は、早期/局所進行期の手術可能な乳癌患者におけるNACTに対して、肥満が病理学的完全奏効率に及ぼす影響を調査したもの。191人の女性患者が対象。このうち83人(43.4%)が肥満で、108人(56.6%)が非肥満。
肥満は閉経後の患者に多く、肥満患者の年齢中央値は非肥満患者に比べて有意に高かった。
【結果】
肥満群患者は非肥満群と比較してpCR率が有意に低かった。
組織学的サブタイプ評価では、肥満群は非肥満群と比較してHR陽性/HER2陰性患者においてpCR率が有意に低いことが示された。
閉経期の評価では、閉経後患者においてのみpCR率に有意差が認められた。
ロジスティック回帰分析では、肥満と低Ki-67スコアはpCR率の低下と独立して関連していた。
【結論】
肥満はpCR達成の独立した有意な負の予測因子であることが明らかになった。
NACT後の生物学的に高リスクの乳癌患者191人からなるトルコのコホートによると、特に閉経肥満患者に対して実際の体重に基づく化学療法剤の投与量で治療することの重要性を示唆している。
・この単一施設レトロスペクティブ研究では、NACT後の手術可能乳癌患者において肥満がpCR率低下と有意に相関することが示された。これは年齢、閉経状態、腫瘍の悪性度、臨床病期とは無関係に観察された。特に閉経後女性およびHR陽性/HER2陰性サブグループにおいて統計学的に有意な相関が示され、肥満群と比較して非肥満患者群でpCRが高いことが証明された。
・多くの前向き研究とメタ解析で、体重増加は乳癌転帰の悪化と相関することが示されている。研究者達は、肥満患者では非肥満患者に比べインスリン抵抗性、分裂促進性、抗アポトーシス性サイトカインのレベルが高いことを検出し、それらが乳癌患者の化学療法に対する抵抗性の重要因子である可能性を指摘している。
・脂肪組織に浸透する化学療法剤の濃度が高くなると、腫瘍組織内に浸透・拡散するのに必要な化学療法剤量が減少し、治療効果に影響を及ぼす可能性がある。
・18,702人の女性を対象とした13研究のプール解析によると、過体重および肥満の乳がん患者は低体重または標準体重患者よりもNACTによるpCR率がはるかに低いことが明らかになった。ドイツのプール解析では、正常体重患者は化学療法へのコンプライアンスが最も良好で転帰も良好であったのに対し、BMIが高い患者はpCR率が悪く、生存率に悪影響を及ぼすことを明らかにした。したがって、NACT中に正常体重を維持することは患者にとって極めて重要と考えられる。
・肥満がホルモン受容体陽性乳癌患者の再発と死亡リスクを高めることはよく知られている。
乳癌の組織学的サブタイプを評価した結果、肥満とpCR率の低下、特にHR陽性/HER2陰性患者において統計学的に有意な相関が示された。同様に8872人の患者を対象とした解析では、BMIとpCR率との間にHR陽性/HER2陰性患者で有意な相関が認められた。さらに、HR陽性患者群のみで、過体重または肥満は手術計画、リンパ節転移の状態、腫瘍の大きさといった他の臨床的特徴とは無関係に、pCR率を達成する可能性を有意に減少させることが明らかになった。
・600万人以上の韓国人女性の閉経前および閉経後女性の肥満と乳癌リスクを評価した研究では、閉経後女性の肥満と乳癌の間に正の相関があった。この研究では、閉経前患者に比べて閉経後患者は肥満が有意に多いことがわかり、肥満は閉経前患者ではなく、閉経後患者においてpCR率の低下と有意に相関することがわかった。
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